その映画を見たのは家の白黒テレビの画面だったので、高校生か大学生の頃
だったと思う。俺の家は貧乏だったのでずっと白黒テレビだった。それで最後
のシーンだけを見たのか、その他は全部忘れてしまったか定かではないが、西
部劇らしいコスチュームで若い男が、河の中央で銃で撃たれ、それを若い女を
先頭に河に入り男に走りより、最後は若い女に抱かれて絶命するシーンを覚え
ていた。一瞬、銃で撃たれた男と駆け寄る村人達の情景が俯瞰される。河の
水は温かいように思えた。
若い頃、映画を見たときは自分もいつかは、こんな体験をするのではないか
という思いに捉われたものだが、この時も自分も暖かい水が流れる河の中で
女に抱かれて死ぬという幻想に捉われた。
このテレビで放映された西部劇のことは、ほとんど忘れたいたが、つい最近
ネットでこの映の若い男は、あのテレンス・スタンプであることを知った。テ
レンス・スタンプ(1939-)は「コレクター」(1969)、オニムバス映画の
「世にも怪奇な物語」(1968)のフェディリコ・フエリーニによる「悪魔の首
飾り」、そしてパゾリーニの「テオレマ」(1968)にも出演した怪優である。
変質者や悪魔に魅入られるアル中やランボーを読む旧約聖書的な神とかを
演じ分けたその手の俳優であるが、能天気な「唇からナイフ」(1966)とか
「遥か群集から離れて」(1967)とかまともな映画にも出ている。
この映画は1968年製作で、パゾリーニやフェリーニと仕事をしてこの映画に
もで出演しているので、テレンス・スタンプの絶頂期ともいえるだろう。
アマゾンでこの映画のDVDがあったので、さっそく購入して鑑賞したので感想
でも。
あらすじはallcinemaというサイトから引用。
幼い頃に両親を亡くし、盗賊の首領オルテガに育てられた
男ブルー。彼は長じて、
仲間の一人となり、オルテガの息子たちと共にある村を襲う。だが、そこで一人の娘が
犯されそうになったとき、ブルーはオルテガの息子を射殺する。実の親子以上に、互い
に愛情を抱いていたオルテガとブルーは、国境の河をはさんで対決する……。ハリウッド
製の西部劇だが、監督はイギリスから来たS・ナリッツァーノ、主演が「コレクター」の
T・スタンプという変わりダネ。原色を用いたセット・シーンをはじめとして撮影も美しく、
純正西部劇とも、マカロニ・ウェスタンとも少し違う雰囲気が悪くない。ヒロインのJ・ペ
ティット、傍のK・マルデンも抑えた芝居でいいが、やはり作品全体を支配しているT・ス
タンプのクールな魅力に尽きる。国境の河を舞台にしたクライマックス、それに続くラスト・
シーンも鮮やかだ。
資本はパラマウントだが、主役と恋人役がイギリス人で監督がカナダ出身のイタリア人
という奇妙な西部劇である。1950年代にハリウッドの娯楽映画として勧善懲悪を趣旨とし
た西部劇がもはや撮り尽くされ、大衆に飽きられた時代だからこんな変な西部劇ができあ
がったのだろうか。どこにも属さない異端者で最後は死んでしまうという役どころが、ま
ったくテレンス・スタンプにぴったりである。
撮影が優れていて、色彩が美しい。とくに空の青が際立っている。盗賊の一群が馬を駆っ
て疾走するシーンを俯瞰や後景から映すカメラワークなど優れているし、勇壮なハリウッ
ド的な音楽ではなく、沈鬱なギターの音色のメキシコ風の音楽といい効果的である。
さて、ラストシーンである。盗賊と開拓団の村人は河をはさんで戦闘をして、テレンス・
スタンプ演じる主人公(ブルー)の指揮により盗賊を撃退する。大勢が決し育ての父親
の盗賊の頭目を射殺し、メキシコ側の岸で死にたいと言う盗賊の頭目を抱いて浅い河を
ブルーは進んでいくが、対岸に倒れている手負いの盗賊の一人に銃で撃たれてしまう。
恋人が河に分け入りブルーを泥水の中で抱くが、ブルーは息絶えて死んでいく。そこで
カメラが俯瞰して河の中央で恋人に抱きかかえられている主人公目指して河に入ってくる
開拓団の村人を上から映して終わる。
この映画に俺が惹かれるのは、どこにも属さない外れ者の悲劇が描かれているところ
についてだろう。
もう一つ言えば、女に抱かれて河の中で死ぬなんて事は実人生では起こらなかったの
である。
まさか、あるとは思わなかったがyoutubeにこの映画があった。
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