ベルイマンが昔、「ゴダールは頭が悪くなるほど退屈だ」とボロクソに
貶していたことがあった。俺もゴダール嫌いだったんで流石、ベルイマン
と感心したが、最近はベルイマンも何だかねえ、と思う事がある。暗い
画面でやたら顔のアップしてリブ・ウルマンが大袈裟に叫んだすりゃいい
ってもんじゃないだろうと今は思うが、当時はああ、やっぱベルイマンも
中身なんかないくせに難解を気取って意味のない映画作ってるゴダール嫌い
なんだなあと思った。70年当時、ゴダールの「政治映画」が流行っていて
新左翼青年はゴダールとか大島渚を良く見ていた。そういうのも嫌いだった。
若い頃は、ゴダールの青臭さと芸術気取りがえらい鼻についたが、ひょん
な事で「軽蔑」を借りて見たら割と面白かった。それとヴィスコンティの自伝
を読んだとき、ヴィスコンティがゴダールを褒めていたのを知った。あの侯爵
様がねえと思ったりした。
でまあ、この「この気狂いピエロ」最初は高校生の時テレビで見て、それから
ビデオで借りて見た記憶がある。例によって断片的な映像しか脳味噌に刻まれて
いないが、最後に地中海が見える小高い丘でジャン・ポール・ベルモンドがダイナ
マイトを体に巻いて爆死。海にパンして「もう一度探し出したぞ。/何を?永遠を?
/それは太陽と番った海だ。」というランボーの詩で終わっていた。まあ、この最後
を見たくてアマゾンに注文。
結論から言えば、ゴダールってまあこんなもんだろうなってところだ。八方塞がり
の男とコケテッシュな女、格好いいオープンカー、殺人、逃避行、ヨット、海、女の
裏切り、と並べてればどうにか映画になる。後はゴダールらしく文学的な台詞をいれ
たり、ピカソ、マチス、ルノワールなどの絵画をコラージュのように挿入して、荘厳
なクラシック音楽もBGMに混ぜれば60年代に席巻したヌーベルバーグの出来上がりで
ある。
ただ、ゴダールの映画何がいいって映像がきれいなのは普遍性を持っている。カメラ
マンがいいのか色彩がきれいだ。当時はフィルムだったので湿度にフィルムは敏感で
日本の映画が青っぽかったのは日本が湿度が高いためであったと聞いたことがある。
欧米は湿度が低くフィルムもコダックやアグファなどで発色が鮮明であるらしい。この
映画でアンナ・カリーナが着ている服は赤が多く、非常にきれいに発色している。ゴダ
ールは絵画に造詣があったような気もするがどうだろう。特に室内での撮影された画面
が美しい。よほど洗練されたテクニックをもっているカメラマンや照明を使っているん
だと思う。
映画の話自体大したことないが、およそ半世紀の前の映画だが、ベルモンドのファシ
ョンが全然、古びていない。コットンの青が少し混じったスーツに素足にスリッポン
というのが本当にイカシテル。やっぱフランス人は格好いいよ。
でも、最後の自爆の場面も今見ると意外にしょぼい。まあ、話はなんだか分からないし
即興演出だったらしいが、こんなんじゃいい俳優は育たないと思うし、天下のジャン・
ポール・ベルモンドも前衛監督相手してるのいやだったと思う。
もう見ることもないので近いうちにブック・オフに売ってしまおう・100円にはな
るだろう。