007 カジノ・ロワイヤル | やるせない読書日記

やるせない読書日記

書評を中心に映画・音楽評・散歩などの身辺雑記
礼儀の無いコメントは控えてください。そのようなコメントは
削除します。ご了承ください。

 この歳になると偉人や天才でなくても、物事を回顧する気分になる。と

言ってもチャーチルみたいに自分が関わった歴史的事件などではなく、若

い頃、見た映画やテレビドラマで自分としては面白かったものを、もう一

回見てみたいとか、記憶があやふやな映画をどういう話であったのか確かめ

てみたいなど極めて、小市民的な心情である。

 007シリーズは中学生か小学生の頃、日本で公開されて世界的にも一大

ブームを巻き起こした。イアン・フレミングの原作は銃、車、酒、女、食べ物の

薀蓄があれこれあるしゃれたミステリーであり、そういったエスプリがきいて

いる「サンダーボール」位までは本当に面白かった。「007は二度死ぬ」あ

たりから大味なアクション映画になってしまったが、二十一世紀になって

ダニエル・クレイヴのシリーズになってから原点回帰志向になったが、や

はりジェームス・ボンドはショーン・コネリーのすけべったらしさがないと

つまらない。

 今見れば大したこと無いジェームス・ボンドとボンドガールの情事も色気づき

始めた中学生には刺激大で、東武百貨店で観た「ロシアから愛をこめて」のタイ

トルシーンでよくは憶えていないが、キャストのテロップが出るバックでベリー

ダンス風の女性が踊っているのが艶かしく、KGBから派遣されたダニエラ・ビアン

キが白いシーツにくるまって艶然としているのは例えようも無く刺激的ではあった。

それに中学生にとっては改造された車や、催涙ガスを噴射するアタッシュケース、

女スパイのブーツから出てくるナイフ、クルーザーの船底が割れて出現する水中

スクーターなど実に刺激的ではあった。

 良質の娯楽作品であったショーン・コネリーの007シリーズは70年代初頭あたり

まで人気があって、ロードショー上映館ではない二番館、三番館で「007大会」

と銘打って三本立ての007映画をしばしば上映していた。小難しいことを言う

映画少年も007は見ていた。そりゃ、訳のわからないゴダールより007のほうが

面白いって。

 でまあ、この映画はダニエル・クレイヴの「カジノ・ロワイヤル」ではなく1967

年に製作された方である。ショーン・コネリーの出演した007はユニバーサルで製作

していたが、本作はコロムビア映画によるものである。「カジノ・ロワイヤル」は

007の処女作であるが映画化権はコロムビアが持っていた。でまあ、普通に作って

もご本家に勝てないと踏んだのか思い切ったパロディ映画にした。まあ、只の悪

ふざけ映画なんだが、サイケデリックというかカルトというかそんな雰囲気を持つ

快作に仕上がってしまった。僕は多分、文芸座地下で観たのだが、おぼろげな記憶

しかなく、あれどうだったんだかとDVDをアマゾンで発注したのであった。

この映画のバカバカしいストーリーは以下のとおりだ。

 現役を引退しているジェームス・ボンド卿のところに英国情報部、CIA、KGB等

の幹部が訪れてボンドにカンバックを願う。謎の国際陰謀団スメルッシュが各国の

情報機関員を次々に暗殺しているのだった。ボンドは復帰し何故か、男女取り混ぜ

たジェームス・ボンドの影武者を立ててスメルッシュに対抗する。スメルッシュの

団員は何故か女性ばかりである。どうでもいいコント仕立てを繋げていき最後の大団

円は援軍のアメリカ騎兵隊とインディアンがカジノになだれ込み大騒ぎをする。ちな

みに正体の明かされたスルメッシュの首領ドクター・ノアはジミー・ボンドでジェー

ムス・ボンドの甥であった。というトンデモ話だが、見ていて面白い。

 役者がジェームス・ボンド卿、デビット・ニーブン、影武者のボンド、ピーター・

セラーズ、女性ボンド、ウルスラ・アンドレス、ドクター・ノア、ウッディ・アレン

と豪華でチョイ役でウィリアム・ホールデン、ジョージ・ラフト、ピーター・オツー

ル、ジャン・ポール・ベルモンド、ジャクリーン・ビセットまで出演してる。多分、

まともにアクション映画にしても本家の勢いには勝てないからヤケクソで作ったん

だと思う。ジェームス・ボンドの甥がボンドに対するコンプレックスで世界征服を

企む国際陰謀団を組織したというのには笑わせられる。

 興味深いのは、当時の秘密組織の近未来風設定で他のアクション映画でもなんか

こんな感じであった。それとミニスカートに盛った頭の女性のファションもレトロ

でいい。一番いいのは音楽で、大御所のバートバカラックが担当している。洒脱な

バカラックの管楽器を使った音楽が効果的である。引退したボンドの屋敷にライオン

が放し飼いにされていて、音楽がその時、「野生のエルザ」に変わる。これ、ユニ

バーサルの007の音楽担当していたジーン・バリーの手によるもので洒落が聞い

ている。そして昔見たとき、印象に残っていたのがウルスラ・アンドレスとピー

ター・セラーズのラブシーンに流れる「恋の面影」で、なんと甘い歌だろうと

思ったが今、聞いてもイケテル。歌っているのは勿論、ディオンヌ・ワーウィック

である。

訂正1この映画を作ったのはMGMでした。

  訂正2 恋の面影を歌っているのはダスティン・スプリングフィールドでした。