わが「転向」 | やるせない読書日記

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トンネルズの石橋貴明のタレントとしての価値を「誰でも馬鹿が好きなのだ」と評した人がいて正鵠を得た


発言だと思ったことがある。吉本も石橋と同じような読まれ方をしている。自分がそうだからで他人にはあ


てはまらないかもしれないが。読んでいて腹立たしくなるがつい手にとってしまうのが一連の吉本の口述


筆記の本である。1994年刊行だから吉本68歳。悪口を言いながらも吉本のこの手の本で教わったこ


とは結構あった。例えば中国の問題で中国が日本の侵略について責め立てるが、自分たちの四千年の


歴史はまさに弱小国への侵略と圧政の繰り返しではないか。日本は一度ちゃんと謝れば後は中国なんか


のとやかく言われる筋合いはない。不況になって会社が危うくなっても安易に首切りなどせず、全職員の


給与を下げることによって十分対応できるではないか。臨死体験に対する考察等々である。


吉本が晩年、バンバン出版社も選ばずにインタビュー形式の本を出すようになったのは体力的に執筆が


しんどくなってきたのと今までにない層を対象にしたいという意図があるらしい。昔、江藤淳が埴谷雄高


や吉本は自分のフアンに向けてしか語らないといわれたのを踏まえてかどうかはわからないが。


いい事もいうが無茶苦茶なことも多い。


ただ言うだけで何の実践もしないというところが批判されるところだと思う。


別に六十年のとき、ブントに賛同して新左翼運動やったんだから今でもやらなきゃいけない、なんて


ことはないし吉本は六十年安保以降「俺は昼寝する」と云って、憎まれながらも実践的左翼運動から


の決別を宣言したのだからそれはそれで評価しうる。


松岡正剛のように俺は早稲田で学部の議長を張っていたなんて自慢化に話すよりずっといい。


この本で、ゴミの収集する人間には高い給料をあげてしかるべきだと書いてあるが、こんな事が


いろいろな意味で通らないし実態に即したことではないことではないくらいこの世知辛い世間を


十年位でも渡った人間ならわかるだろう。もし吉本がヨタ話ではなく本当にそう思うなら、都の清掃


事業に携わる人間の給与アップの運動を展開すればいいだろう。(実際、そんなに悪い額ではないら


しい)。万が一、そういう運動を起こした場合、吉本が常々鼻でせせら笑っている市民主義的運動に


なるだろう。


なんでもかんでも後追いで「評論」しても仕方がないし、左翼運動から決別したら黙っていればいいの


に俺のスタンスはずっとかわっていない「新・左翼」だなんて馬鹿なことをいうから俺のような読者


は喜んでしまうのだ。


思うに吉本はパゾリーニみたいにゲイであれば面白かったのだ。同学年の三島由紀夫が右翼的


ホモで70年に果てたように吉本もゲイであったなら大衆の原像がどうの二十四時間生活して二十


五時間目で思想行為をおこなえばいいとか、左翼運動やらなかったアリバイ証明みたいな「共同


幻想論」とか書いたりしないで、三島に対抗して御稚児さんの書記でも抱えてブント吉本派を創出し


て71年あたりに前段階武装蜂起でもしたら凄かったかもしれない。


などと無責任なことを云ってもしょうがないが、二十代から「マチウ書試論」あたりまでの隔絶した


孤絶した緊張感をずっと保っていくのにはホモでもなければ維持していけないのではと思う。


繰り返すが垂れ流しの社会評論なんかより自分の問題の深化に晩年は向かうべきではなか


ったかと思う。