いわゆる中央線の雰囲気について書いた本。肩が凝らず面白く読めた。できれば各駅近辺の
地図と掲載されているお店を載せてくれたら十年来の散歩人である僕を大変に喜ばしてくれた
だろうと思われます。散歩を始めたとき川本三郎の街歩きの本を手本としていた。川本は確か
阿佐ヶ谷や荻窪の生まれであったけど下町を中心に散歩していた。下町にはまだ過去の残照が
あり幼少年期への遡及が川本のテーマの一つだった。要するに下町には古い家並みがまだ残
っていてそこに自分の子供のころを重ねあわせるという散歩だった。僕の場合もほぼ同様でもう
ありもしない昔の風景に巡りあえたらというのが散歩の目的で、中央線沿線は対象外だった。
中央線沿線を敬遠したのはもう一つあり、学生の頃、友人が中央線沿線に下宿しており
授業も受けず友人の下宿を訪れては泊り込んでテレビをみたり酒をのんだりして無駄な時間を
過ごし、翌日、大学に行くかと中野駅で中央線に乗り込んだあのだらしない感覚を反芻するのが
たまらなく嫌だった。それと中央線文化というのが苦手であった。これも考えて見れば貧乏で文化
の貧困な東上線沿線人種の僻みであったと思う。東上線沿線にはジャズ喫茶とかクラシック喫茶
なんてなくやっぱ住むなら僕もせめて中央線沿線がいい。
まあ十年以上も散歩していると下町や都心も行き尽くしじゃあ中央線ということになったのだが、こ
れが結構面白い。高円寺にはランボーに関する研究書とウォーホルの日記を揃えてる古本屋や
インドの衣装を売っている店があり、中野にはあの混沌としたブロードウェイがあり、阿佐ヶ谷北口
の今だ70年代の雰囲気を残す道なりに歩くとクラシック喫茶「ヴィォロン」があり、吉祥寺には
井の頭公園と大きなブックオフ、クラシック喫茶「バロック」もつ焼き屋「かっぱ」があり確かに
面白い。僕の町にはパチンコ屋と定食屋と飲み屋しかない。この本にも書いてあるように昔から
文化人が住み着いていたことが色々な文化の堆積をうながしたのだと思う。中野の北口を高円寺
方面に少し歩くと建材置き場があり、何故か塀にジーェムス・ブラウンの絵が描いてある。こんな風景
も中央線沿線ならではだろう。中央線沿線は一見下町風であるがけっこうお金持ちが多いというのが
この本のキモでありましょうか。結局、貧乏人には文化なんて縁遠いのだろう。荻窪とくに善福寺のほう
にかけては大金持ちが多い記述など成る程と思いました。
吉祥寺のサムタイムでライブを見終わった11時過ぎに路上で何組もの若者がギターを抱えて演奏
している様を見ると、ああ中央線だなあといつも思う。
この本は2000年現在のルポだが吉祥寺をジョージと云う呼び方はまだ健在である。