朝ごはん全部食べてたし、胎盤早期剥離の診断は困難だった。 | 岩城産婦人科妊活ブログ

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自律神経失調症があり、

出産予定日2日過ぎた妊婦

 

 

医師がやっと気づくが、

胎児心音微弱で、

帝切!帝切!と叫ぶ。

 

 

緊急帝王切開を行うが、

胎児すでに死亡し、

胎盤が3分の2も剥がれて、

重症の胎盤早期剥離に、

進行していた。

 

 

第一審(地方裁)

東京地方裁判所昭和56年10月27日判決

判例タイムズ460号142頁

 

控訴審(高等裁)

東京高等裁判所昭和58年10月27日判決

判例時報1093号83頁

 

 

 

 

 

 

サムネイル

スーツ 解説を担当致します。

弁護士の、
甲野 裕大(こうの ゆうだい)
です。


【取り扱い分野】

不妊治療分野/離婚分野

・不妊治療クリニック顧問
・凍結胚トラブル
・精子提供、卵子提供
・不妊治療中の離婚
・不倫
など

 

 

 前回までのまとめ

 

 

⬜︎ 妻Aは昭和24年生まれ、

15歳から自律神経失調症を患う

 

 

⬜︎ 昭和47年に妊娠するが、

自律神経失調症の症状がひどく、

中絶する

 

 

⬜︎ 2回目の妊娠で昭和49年に、

長男Cを出産

 

 

⬜︎ 昭和52年、3回目の妊娠し、

Y病院に妊婦健診で通う。

 

 

【 昭和52年6月 】

妊娠22週頃

 

蛋白尿が断続的にある

▶︎ T医師から塩分制限を指示される

 

【 昭和52年8月 】

貧血がある

▶︎ 増血剤を投与

 

 


  

【 以下、昭和52年10月23日 】

 

予定日を2日超過

 

2:30 性器から温かいものが、

サァーっと出て目が覚める

 

生理帯2枚を貫通する量で、薄ピンク。

 

目まいと息苦しさがあった。

 


   

3:25 Y病院に入院

 

▶︎ 病院到着まで、

羊水は止まらず出ていた

 

▶︎ K助産師が前期破水と診断

 

▶︎ 胎児心音は正常

 

K助産師はT医師に報告し、

T医師の指示で抗生剤を筋注

 


   

 

3:40 当直のS助産師に引き継ぎ・交代

ジャブジャブね」と伝える

 

 

7:00 性器から大量に液体が漏れ出し

ナースコールをする

 

▶︎ 病室にS助産師がきて、

状態を伝える

 

▶︎ S助産師は見もせず、

食事のために待機室に行くよう指示し、

立ち去った

 

 

妻Aは、

目まい・息苦しさを感じながら移動

 

 

▶︎ 待機室のトイレで、

真っ赤な血が雫になって落下、

当て物も真っ赤にずっしりと重かった

 

 

▶︎ 待機室のベットでしばらく待つ。

(7時の出血から1時間半待つ)

 


 

 

8:30 S助産師が食事を運び来た。

 

▶︎ 妻Aが多量出血を伝える。

 

▶︎ S助産師は、

300cc位の出血と推測

問題ないと判断して、

医師には報告しなかった

 

 

妻Aは、

入院時から腹部の緊張も伝え、

この頃には、

板状に張る腹部の緊張も伝えていた。

 

 


  

9:00 S助産師が、

T医師に「問題なし」と報告。

 

 

9:20 念の為にT医師が診察

 

▶︎ やっと異常出血と、強い腹緊を知る

 

▶︎ 胎児心音が微弱

 

▶︎ 助産師に今までの出血量を確認させ、

「帝切!帝切!」と叫ぶ。

 

 

▶︎ 帝王切開をするが、

胎児はすでに死亡していた

 

胎盤は、3分の2も剥離していて、

重症の胎盤早期剥離だった。

 

 

 

 

 34.夫婦が裁判を起こす

 

 

⬜︎ 妻Aと夫Bは、

胎児の死亡をY病院の過失として、

裁判を起こした

 

 
 

 35.地方裁での夫婦の主張

 

 

第一審(地方裁)

東京地方裁判所昭和56年10月27日判決

判例タイムズ460号142頁

 

 

⬜︎ T医師が、

入院時に診察をしていれば、

早期胎盤剥離に容易に気づくことができたはず

と夫婦は主張した。

 

 

⬜︎ これに対して、

地方裁判所は、以下の点を指摘した。

 

   
 

 36.地方裁判断:医師の過失の有無

 

 

⬜︎ Y病院の医療体制は、

分娩の介助については、

助産婦の診療看護に委ね

異常所見の報告があってから、

医師が診療するという診療体制に、

問題があるとは言えない。

 

 

⬜︎ T医師が、

入院直後にK助産婦から受けた報告は、

前期破水で入院した

というもの。

 

 

⬜︎ 前期破水が本来は通常の経過ではないとは言え、

破水後、一般的な時間内に陣痛が起これば、

格別異常ではないので、

入院時に診療しなくても、

診療義務に違反したとは言えない。

 

 

⬜︎ またそれ以後は、

T医師は、

助産婦から特に報告を受けていない

 

 
 

 37.地方裁で「医師の過失なし」

 

 

⬜︎ 23日午前9時20分に、

自らの判断で診察するまで、

全く診療しなかったとしても、

医師に過失があるとは言えない。

 

 

⬜︎ そもそも、

入院時の所見は、

ピンク色の羊水の漏出が僅かで、

腹緊は時々あると訴えてはいたが、

触診では認められず、

血圧も126/90で、

最低血圧(下)が高い程度で、

胎児の心音も正常だった為、

この時点で、

早期胎盤剥離の発症の判断は難しい

 

 

⬜︎ 仮に既に発症していたとしても、

急性型、重症型の症状を呈している場合以外、

早期診断は必ずしも容易でない

 

 

⬜︎ 尚且つ、T医師が、

その時に診察していれば、

果して発見出来たかどうか極めて疑わしい

 

 

⬜︎ 上記のように、

地方裁では、医師の過失を否定した

 

 
  

 38.助産師の過失について

 

 

⬜︎ 午前7時の出血を、

「おしるし」として、

医師に報告をしなかったことについて

裁判所が検討して、以下を指摘した。

 

 

⬜︎ 妻Aは、

多量の出血と訴えていた。

 

 

⬜︎ しかし、出血は持続的ではなく

粘稠性の血性分泌と判断され、

胎児心音も12、12、13と全く正常で、

息苦しさ、目まい、悪心嘔吐、腹痛、

などの訴えがなかったので、

胎盤早期剥離の症状と認めるのは難しい。
 

 
 

 39.「朝ごはんを食べたから」

 

 

⬜︎ しかも、この出血直後に、

妻Aは朝食をほぼ全量摂取して

午前8時の胎児心音も12、12、12で正常なので、

午前7時に、

早期剥離が既に発症していたとするのは疑問

 

 
 

 40.否定はできないが不明

 

 

⬜︎ もっとも、

手術で明らかになった胎盤剥離面の大きさ、

早期胎盤剥離が発症してから、

重症に至るまでには、

かなりの時間がかかることが通常

 

 

⬜︎ 午前8時には、

T医師の診察時に、

暗赤色のような出血があったので、

午前7時頃の時点で、

早期胎盤剥離が発症していた可能性も、

全く否定することはできないが、

それだけで、

確定的に判断するのには十分でない。

 

 

⬜︎ これらを前提とすると、

S助産婦は、

妻Aの出血の訴えで、

当初早剥等の異常出血を一応疑いながらも、

その後の診察で、

胎児心音が異常がないこと見て、

早期胎盤剥離、

その他の分娩異常はないという判断は、

やむを得ないといえる。

 

 
 

 41.地方裁判所での結論

 

 

⬜︎ 以上の通り、

地方裁判所では、

医師の過失も助産婦の過失も、

否定する判断を行った

 

 

⬜︎ 夫婦の主張は、

いずれも認められなかった。

 

 
 
続きます。
 
解説:弁護士 甲野裕大
 甲(きのえ)リーガル法律事務所
  

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