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便をしている時に破水。
大腸菌に感染した新生児が、
敗血症、脳脊髄炎になり、
重症な後遺症が残る。
横浜地方裁判所平成2年4月25日判決
判例時報1385号93頁
前回の記事
前回までのまとめ
⬜︎ 妻Aが妊娠、
出産予定日は昭和56年3月28日。
⬜︎ N病院で診断を受け、
妊婦健診に定期通院。
⬜︎ 県外にある実家近くのY病院で、
里帰り分娩を決めた。
【昭和56年2月25日(妊娠35週)】
6:00
用便の時に異常を感じて、
破水したと感じた
9:00
N病院に受診
医師「破水なのですぐY病院に行って、
入院するように」
14:20
Y病院に受診
・破水の診断
・子宮口は2~3㎝
・妻の肛門と会陰の間に便が付着
・感染症の予防に外陰部洗浄、
抗生剤のクラモキシルを3日分処方
・入浴して洗浄するよう伝え、
帰宅させた
妻Aは、指示通り帰宅後、入浴。
【 2月26日 】
6:00
陣痛が始まる
10:20
Y病院に入院
13:32
男児Cを出産
妊娠35週5日
体重 2330g
【 2月27日・2月28 】
特段の異変はなくミルクも飲んだ。
【 3月1日 】
ミルクを吸う力が弱く元気がない
【 3月2日 】
・正午から何も飲まない
・元気がない
・近くのO医院に一旦搬送
・O医師と相談の上、
Y病院に戻って様子見とする
【 3月3日 】
・38.5℃の発熱
・黄疸が強い
・体重が低い
・K大学病院の教授が往診
・強制的に飲ませて水分補給して、
様子見とする
・感染症を疑い抗生剤を投与
(クラミジア肺炎に効く抗生剤)
・38.9℃まで発熱が悪化
・午前は様子見、午後搬送と決める
・午後3時45分に医療センター到着
・小児科のW医師が重症の感染症を疑う
・腰椎穿刺するが、
髄液に血が混ざって検査できず
・重症感染症を疑い、
アミノベンジルペニシリン、
ゲンタマイシンを投与
【 3月4日 】
・発熱低下、白血球回復、全身的に好転
・グラム陰性桿菌を検出
・大腸菌への感染で敗血症と診断
【 3月5日 】
・痙攣発作ののち、心肺停止
・蘇生したが重篤な状態
・輸血と、抗生剤の種類の変更を行う
男児Cに後遺症が残る
53.破水したのに帰宅させた事
⬜︎ 妻A側の主張は以下の通り。
⬜︎ 破水したのに帰宅させて、
分娩まで31.5時間を経過させ、
入浴をも指示して、
感染の危険を増やしたY医師に、
過失があると主張。
54.裁判所判断:帰宅・入浴
⬜︎ 裁判所は、以下の点を指摘。
⬜︎ 前期破水の処置には、
感染への対策が最も重視なので、
Y医師が帰宅させ、
入浴を指示した点については、
疑問というべき。
⬜︎ しかし、Y医師は、
抗生物質のクラモキシルを投与し、
妻Aは、分娩に至るまで、
感染の症状があった証拠がない。
⬜︎ これらから、
Y医師が妻Aを入院管理をすれば、
男児Cの感染が生じなかった
とまでは認めることができない。
⬜︎ また、
入浴による羊水感染の危険性の程度を、
明らかに示す資料はない。
⬜︎ 既述のとおり、
羊水の細菌感染自体は、
時間の経過に伴い生ずるため、
入浴で感染が生じたものと断定はできない。
⬜︎ 裁判所は、
前期破水の処置にY医師の過失はなかった
と判断した。
55.感染症検査をしなかった事
⬜︎ 妻A側の主張は、以下の通り。
⬜︎「感染症の症状が男児Cになくても、
出生時に、
母児や胎児付属物(胎盤など)の、
細菌検査をして、
男児Cのことを、
厳重な経過観察をするか、
直ちにNICUのある病院に転院させる義務があった」
56.裁判所「厳重に監視すべき」
⬜︎ 裁判所は、以下の点を指摘した。
⬜︎ 早期産児や低出生体重児は、
特に厳重な監視をして、
何らかの症状が現れたら、
直ぐ治療のできるような態勢が必要。
⬜︎ 新生児、
特に低出生体重児は、
免疫機能が未熟で、
感染症にかかりやすく・重症化しやすい。
⬜︎ そのため、
低出生体重児の看護は、感染予防が重要。
*男児Cは2320gで出生。
⬜︎ 前期破水後、約31.5時間後に出産し、
羊水からの感染のリスクを考えれば、
男児Cは、
感染の危険を念頭に置いて、
厳重な監視が必要だった。
57.裁判所判断:一般の産科の場合
⬜︎ しかし、一般の産科施設では、
新生児の状態がよく、
羊水の混濁がない場合、
検査を行っていない可能性もある。
⬜︎ また、NICUのある病院が、
一般産科病院からの送院を受け入れる基準は、概ね体重2000g未満であるほか、
具体的な異常症状がある新生児とするものが多い。
⬜︎ したがって、
Y病院のような一般の産科施設で、
新生児の感染を疑わせる具体的な症状が認められない場合には、
「感染症の検査を行うべき」
「直ちにNICUへ搬送すべき」
とは言えない。
⬜︎ 裁判所は、
細菌検査や転院について、
Y医師に過失なしと判断した。
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