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【 生殖関係の裁判例 】
胎動の減少を伝えたが、
子宮内胎児死亡で、
分娩した時には、
胎児がドロドロと流動性に。
前回の記事
前回までのまとめ
⬜︎ 女性Yは、
平成15年1月9日に、
Y病院で妊娠がわかる。
⬜︎ その後、
妊婦健診にY病院に通い、
出産も予定。
⬜︎ 1月9日以降は、
妊娠31週4日まで、
問題なく過ごしており、
各種検査でも異常はなかった。
⬜︎ 妊娠35週4日も、
妊婦健診では異常がなかったが、
診察終了間際に、
胎動が減少していると伝え、
医師は、
「そういう事もある」と返答。
⬜︎ 妊娠36週0日には、
胎動の減少から、
妊婦健診以外で受診。
ドップラーでバリアビリティ、
問題なしとされる。
⬜︎ 妊娠37週0日の、
8月10日午後1時に、
ドロっとした出血があり、
Y病院に受診、
心拍停止が確認され、
子宮内胎児死亡とわかる。
⬜︎ 妊娠37週で、
死産児の体重は1828gと、
妊娠週数の割に軽く、
浸軟Ⅱ度。
*浸軟Ⅱ度:胎児が死亡した後、
長い間、羊水に浸っていた為、
胎児がドロドロとしてくる状態。
16.裁判を起こす
⬜︎ 女性Xとその夫は、
原告となり裁判を起こした。
⬜︎ 裁判を起こした相手は、
Y病院の担当医師のY1医師、
Y2医師、Y3医師ら。
⬜︎ 裁判を起こした理由:
妊娠36週〜37週時点で、
胎児が死亡した原因は、
「子宮内胎児発育遅延(IUGR)を、
見分ける検査(鑑別検査)を怠った」
と考えるから。
裁判所が採用した医学的認識
⬜︎ IUGRとは・・・
子宮内胎児発育遅延のこと。
何らかの原因で、
胎児の発育が遅延か停止をして、
妊娠週数に相当する胎児の発育が、
見られない状態。
⬜︎ IUGRの定義は、
以下のどちらかが一般的。
・「発育曲線の-1.5SD以下」
・「標準体重の10パーセンタイル未満」
*同じ妊娠週数の、
胎児の全体を100として、
小さい方から数えて、
何番目になるかを示す言葉。
*10パーセントタイルは
同じ妊娠週数の胎児の標準体重のうち、
体重が少ない方から数えて10番目。
⬜︎ エコー検査での推定体重は、
誤差は大体10パーセント前後ある
とされている。
⬜︎ 1998年に、
小川雄之亮氏らがつくった、
日本人在胎週別出生時体格基準値では、
29週の男児の標準体重は、
以下となっている。
○ 90パーセンタイル:1477g
○ 中間値:1279g
○ 10パーセンタイル:1068g
女性Xの29週の胎児の推定体重は、
1338g(-1.0SD)
*この基準は、
厚生省心身障害研究班が、
1995年の全国調査に基づいて作成され、
現在(平成15年時点)でも、
臨床で広く使われている。
【上記の基準のみの診断の反対意見】
⬜︎ 一方では、この基準では、
IGURを見逃す可能性がある
という意見もある。
⬜︎ 小川らの基準は、
出生時体重曲線の、
妊娠37週以前の基準値は、
早産児の体重を集めて作られている。
⬜︎ IGURを疑った場合は、
胎児奇形の除外、
羊水量の測定、
胎児血流計測、
子宮血流計測を行って、
IUGRを鑑別する。
⬜︎ この時、
正常範囲内の小ささであれば、
1~2週間ごとの外来管理を行う。
⬜︎ または、IUGRであれば、
週1~2回の厳重管理か、
入院のうえ厳重管理とすべき。
![てんびん座](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/190.png)
妊娠29週5日の時点
⬜︎ 妊娠29週5日の推定体重は1338gで
小川らの基準だと、
IGURではない。
(10パーセンタイルの範囲には入らず)
⬜︎ また、10%程度の誤差を考慮しても、
胎児は順調な発育をしていた
と認められる。
⬜︎ 推定体重の点からは、
IGURを疑うことはできない。
⬜︎ さらなる鑑別をすべき義務があった
とはいえない。
妊娠35週の時点
⬜︎ ここまでの診療経過に、
異常な点は認められず、
この事をカルテでも確認している。
⬜︎ また、35週で異常があったとは、
証拠上認められない。
⬜︎ 子宮底長は6月20日には27.5cm、
7月3日には28.0cm、
7月19日には29.0cm、
7月31日には29.0cm、
と推移して、
7月19日から31日は、
子宮底長が伸びていないが、
妊娠35週の子宮底長は、
正常範囲下限が29.0㎝で、
下限とは言え、正常範囲内。
⬜︎ この時期に、
子宮底長が伸びていないから、
ただちに胎児の発育不良を疑う、
という事ではない。
⬜︎ つまり、
IUGRの鑑別検査を行う義務があった
とはいえない。
胎動が減ったと伝えた事
⬜︎ 女性Xは、
妊娠35週(7月31日)の診断時に、
胎動減少を訴えたので、
IGURか判断するべきだった
と主張。
⬜︎ 胎児の胎動の頻度は、
妊娠週数の経過とともに減少し、
妊娠20週〜22週では、
胎動は日内変動を示し、
妊娠38週〜39週になると、
さらに変動が強くなるので、
胎動減少の訴えがあっても、
ただちに異常所見とは言わない。
⬜︎ また、この診察時に、
尿検査、
母体の体重、
子宮底長、
腹位の計測を行い、
さらに胎児の胎位・胎向や大きさ、
心臓の位置や動き、
呼吸様運動を確認し、
異常が認められず、
総合判断して、
胎児に異常はないと判断した。
⬜︎ つまり、
医師の診察や判断が、
法的に見て不合理とは言えない。
妊娠36週の時点
⬜︎ 7月31日までの検査結果で、
胎児の発育不良を示す証拠はない。
⬜︎ また、妊娠36週(8月3日)は、
Y1医師は、
尿検査や母体の体重、
子宮底長、
腹位の計測を行い、
ドップラーを用いて、
胎児心音も正常と確認し、
それらを総合的に考察して異常がない
と判断した。
⬜︎ 各所見に異常がない以上は、
それで足りると言わざるを得ない。
⬜︎ したがって、
妊娠36週で、
IUGRの鑑別検査を行う義務があった
とはいえない。
裁判所の判断
結論としては、
医師や病院に、
法的な責任があるとは認めませんでした。
弁護士の解説:大事なこと
裁判では、
原則として、
訴えを起こした人が主張した内容だけを
検討します。
つまり、
仮に、本当は落ち度があったとしても、
訴えをする側が、
うまく指摘できなかったら、
裁判所では検討されません。
そういった意味でも、
弁護士選びも、
とても重要になります。
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