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前回の記事
妊娠後に重症悪阻になり、
適切な治療が、
行われなかった女性。
ビタミンB1不足で、
ウェルニッケ症候群を発症、
後遺症が残り、
胎児については、
子宮内胎児死亡となった。
大阪地裁平成23年6月27日判決
(LLI/DB 判例秘書登載)
情報まとめ
⬜︎ 女性Xは、
当時30歳(昭和51年生まれ)
⬜︎ 女性Xは妊娠し、
平成18年11月28日、
産婦人科を受診。
Y1病院のY2医師の診察。
⬜︎ 平成18年12月16日に、
重症妊娠悪阻を発症するが、
外来での治療が続く。
→ 本来、すぐに入院すべき症状。
⬜︎ 平成18年12月26日〜30日と、
平成19年1月3日〜17日に、
入院する。
⬜︎ 外来受診の際と、
入院期間の際に、
10mg/日 ビタミンB1を投与。
【入院中の体調不良】
⬜︎ 1月12日:めまいが起こる。
⬜︎ 1月13日:めまい、ものが二重に見える。
食事が取れない。
⬜︎ 1月14日:めまい、ものが二重に見えて、
目が開けられない。
看護師に言うも、
医師が経過観察と指示。
⬜︎ 1月16日:食事が取れない。
歩行困難。トイレに行くことも困難。
「右手に痺れと、ぼーっとする」
と伝えていた。
⬜︎ 1月17日:姉が本人の異変に気づく。
右手の痺れ、
目の開きにくさ、
繰り返し同じ事を聞いてくる、
などの症状があり、
他院のAセンターへ転送された。
Aセンターで、
子宮内胎児死亡を確認。
ビタミンB1を、
400〜500mg/日 投与。
⬜︎ 1月18日:朝から眼球の症状が改善、
会話や立つ事も可能で、
食欲も旺盛になった。
⬜︎ Aセンターで、
今回の症状について、
ウェルニッケ症候群と診断、
その後、後遺症が残った。
22.ウェルニッケ脳症の発症時期
⬜︎ まず、裁判所は、
ウェルニッケ脳症が発症した時期を、
Aセンターに入院中の、
平成19年1月12日〜14日頃
と認定しました。
23.ウェルニッケ脳症の発症
⬜︎ さらに、発症時期以外にも、
裁判所では、
以下の点について判断を行いました。
【1】ウェルニッケ脳症発症前の、
医師の過失の有無
⬜︎ 女性Xの、
重症妊娠悪阻の状態からすると、
「ウェルニッケ脳症の発症前に、
1日少なくとも50mgのビタミンB1を、
投与する義務を負っていたが、
医師Y2が怠った」
という過失を主張。
上記主張に対する裁判所の指摘
●ウェルニッケ脳症の、
予防の為のビタミンB1の投与量については、
様々な見解が存在し、
1日10〜50mgの、
連日投与を勧める文献が多い。
●しかし、それ以外の文献も存在し、
一定程度の妊娠悪阻の場合に、
特定の投与量を推奨する文献もあれば、
妊娠悪阻の程度に関わらず、
特定の投与量を推奨する文献もある。
●ビタミンB1の投与方法・投与量は、
比較研究もされていない。
●女性Xのウェルニッケ脳症発症後に、
作られたガイドラインにも、
「推奨されている医療が、
症例によっては最適ではない場合もある」
との留保を付けつつも、
特定のビタミンB1投与量を推奨してはいない。
●このようなウェルニッケ脳症の予防の為、
ビタミンB1の投与量をめぐる
研究状況にかんがみると、
本件当時、
重症妊娠悪阻患者の場合も含め、
1日100mgなど、
特定量の連日投与が、
臨床医学の実践で医療水準だった
とは認められない。
●Y1病院の医師は、
ウェルニッケ脳症の予防の為に、
ビタミンB1自体は投与していた。
●つまり、医師に、
「ウェルニッケ脳症発症前の、
注意義務違反があった」
とまでは言えない。
24.ウェルニッケ脳症発症後
【2】ウェルニッケ脳症発症後の、
医師の過失の有無
⬜︎ 入院中の平成19年1月12日に、
ウェルニッケ脳症を発症した為、
同日以降に、
少なくとも1日100mgのビタミンB1を投与する、
注意義務があったと主張。
⬜︎ 医師Y2は、これを怠り、
1月12日〜17日の6日間で、
ビタミンB1を合計40mgしか、
投与しなかった為過失がある
と主張しました。
●ウェルニッケ脳症の発症が疑われた時の徴候として、
眼球運動障害があるとされている。
●女性Xが、
13日からめまいが生じており、
14日には物が二重に見え、
気持ちが悪くて、
目を開けていられない状態であると、
平成19年1月14日夕方には、
看護師から報告を受け、
上記状態を認識していたと言える。
●医師Y2は、14日夕方の時点で、
ウェルニッケ脳症の発症の、
認識が可能だったと言える。
●そして、本件当時、
ウェルニッケ脳症が発症した場合には、
直ちにビタミンB1を投与すべき
とされている。
●その量として、
少なくとも100mg/連日とする見解が、
複数存在していた。
●以上から、医師Y2は、
ウェルニッケ脳症の治療の為に、
速やかにビタミンB1を、
少なくとも1日100mg投与する
注意義務を負っていた
と言うべき。
●ところが、医師Y2は、
14日〜17日に、
ビタミンB1を10mg/日しか投与せず、
少なくとも100mg/日の投与量を、
怠った過失がある。
25.裁判所の判断【過失の有無】
⬜︎ 裁判所が過失を認めなかった点
・子宮内胎児死亡
・ウェルニッケ脳症の発症予防の為の治療
⬜︎ 裁判所が過失を認めた点
・ウェルニッケ脳症発症後の治療
26.賠償金額
【主な損害の認定】
(1)休業損害:403万2122円
ウェルニッケ脳症での入通院の結果、
家事労働がほとんどできなくなったことの損害
※家事労働であっても、
休業損害を算定する場合には、
一定の年収に換算して計算されます。
(2)入通院慰謝料:240万円
合計470日の入通院での慰謝料
(3)逸失利益:4534万4330円
逸失利益とは、
後遺症が残った事で、
本来、相手の過失がなければ、
労働で得られていたはずの収入
を補填するものです。
今回のケースでは、
日常生活・社会生活への適応に相当の困難を来しており、
その適応の基礎となるべき能力である、
記憶能力を含む意思疎通能力、問題解決能力、作業継続能力について、
いずれも通常人の半分程度は喪失しているもの
と評価されました。
労働能力は、
79%喪失したものと認定され、
この後遺症(後遺障害)は、
障害等級の5級に相当する
と認定されました。
*ここでいう障害等級は、
労災認定や交通事故の際の自賠責保険で利用される障害認定基準が利用されており、
5級とはかなり重い障害が残った場合に認定される等級です。
1級〜14級まであり、
1級が一番重い等級です。
女性Xが、
今後36年間働いて得られたはずの収入のうち、
上記の79%分の補償となりました。
(4)後遺障害慰謝料:1440万0000円
障害等級5級に相当する慰謝料額
以上の項目などを合計して、
約6660万の損害が認定されました。
裁判所は、
仮に医師に今回の過失がなかったとしても、
女性Xには、
一定の後遺症が残る可能性がある等の理由から、
このうち25%分については、
損害額から減額を行いました。
【最終的な金額】
上記の項目の合計約5000万円と、
さらに、弁護士費用として、
1割の約500万円を認めました。
結果、裁判所は、
合計約5500万を認め、
医師側病院側に支払いを命じました。
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