涙のカフェテラス 三浦綾子『銃口』 | 少~し酔ってます。

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縦歩きのカニの日常

サマー・バケーション、オーヌキーのタリーズには今年もトラクターが停まっている。




コーヒーを飲みながら日本の知人に絵葉書を3枚ばかり書いた。

暑さも心配だし、地震のニュースも入っていた。


書き終わった葉書にスタンプを貼ってバッグに仕舞った。

かわりにバッグの中から文庫本を取り出す。

高田の図書館で借りた読みかけの小説を持って来ていた。




三浦綾子『銃口』


旭川の質屋の息子北森竜太は、担任の坂部先生に憧れて小学校教師を志す。

幼なじみの芳子とともにその夢を叶え教壇に立った竜太は、いつしか芳子と将来を誓い合うようになる。

しかし戦争の暗い影が徐々に2人の周りを覆い始めて、、、


下巻のクライマックスに差し掛かっていた。

銃を捨て部隊と別れた竜太と山田曹長は、朝鮮抗日軍に捕らえられた。

そして金俊明との「邂逅」。

僕はもう堪えられなかった。

溢れてくる涙を急いでハンカチに吸わせた。

窓の外を金髪のママに手を引かれた少女が通った。

少女は不思議そうにガラス越しの僕を見ていた。

それでも涙が止まらない僕は、ほとんど嗚咽を漏らさんばかりになっていた。

これ以上ここでは読めそうもない。

冷めたコーヒーを飲み干すと、文庫本を手に思い切って店を出た。


翌朝、絵葉書を出し忘れていたことに気づいた。

車でポスト・オフィスに向かう途中で助手席を見ると、そこにあるはずのバッグが無い。

昨日タリーズのカウンターの下に置いて、そのまま忘れて来たんだ。

Uターンしてまたタリーズに向かった。


十数枚の絵葉書とスタンプしか入っていないビニールのバッグは、無事に手元に戻ってきた。

保管してくれていた店員に礼を言い、コーヒーをオーダーした。

窓際のカウンター席に座り、残り30ページほどになった小説を開いた。

そして不覚にもまた泣いた。


大貫のタリーズで2日続けて泣くとは思わなかったよ。