忍びの国 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

2017年 日本
監督: 中村義洋
原作: 和田竜 『忍びの国』
脚本: 和田竜
 
 
WOWOWにて録画鑑賞。実際にあった、「天正伊賀の乱」を題材とした小説の映画化。元々脚本用に書かれたものを小説化したとのことで、その脚本をベースに映画用の脚本も和田竜さんが担当したそうです。監督は「予告犯」「白ゆき姫殺人事件」「アヒルと鴨のコインロッカー」等と同じ中村義洋さん。エンタメ小説の映画化が上手な監督さんというイメージだし、原作者が脚本も担当しているし、ジャニーズの影響はアリアリですが大野君と二宮君に関してはドラマ(映画)に好印象を抱いており、NONジャニーズの共演者も鈴木亮平さん、伊勢谷友介さん、満島真之介さん、と綺羅星揃い。面白い予感。
 
果たして、コミカルさとアクション(迫力ある演技と安っぽいCG両方それぞれに^^;)とドラマ性が適度に楽しめるエンタメ映画でありながら、一筋縄ではいかないシコリのような錆びた釘のようなもので穿たれているような、最後に後ろ髪をひかれる後味の悪さ(決して悪い意味ではありません)と、わかりやすさが混在するような。一周まわって滑稽、の裏側に辛辣な哲学が潜んでいるような・・・。恐らく、豪華なアクション時代劇を期待しても、ライトなエンタメ映画を期待しても、それだけだと予想と違った違和感と居心地の悪さを少し感じるかも。意外と複雑。その複雑な思い入れが狙い通りに醸造されているかはわからないのですが、なんとなく後に残る映画でした。なるほど、ちょっと新鮮(*'ω'*)。
 
 
時は天正4年(1576年)、全国統一に向けて着実に覇権を広げる織田信長も最後まで手を出しかねていた忍びの里、伊賀の国。命を何とも思わぬ、無情で冷徹な人でなしの「虎狼の族」と忌み畏れられる伊賀忍者たちは日々、仲間内の小競り合いで無為な殺戮を繰り返していました。そんな伊賀忍者の一派の長、下山甲斐(でんでん)の長男で上人の下山平兵衛(鈴木亮平)は日頃から無益な小競り合いに明け暮れる伊賀忍者の活動に疑念を抱いており、次男で下人の下山次郎兵衛(満島真之介)の血気盛んな無鉄砲さを案じていました。
 
 
伊賀忍者は平時は里で田畑を耕す百姓として生き、戦時には各戦国武将に雇われて金銭の為に日頃より鍛えた忍びの戦闘技術を発揮します。使い捨ての傭兵として派遣されるのは下人と呼ばれる下級忍者で、その下人を管理し派遣料を搾取する元締め役を担うのが上人と呼ばれる上級忍者。一族の長の息子といえども次男の次郎兵衛は捨て駒の下人でしかなく、実の息子の死に際し何の感情も表わさず切り捨てる実父の無情さに平兵衛は心底嫌気がさし、伊賀の滅亡を願うようになります、、、。
 
 
無門(大野智)と呼ばれる百地三太夫(立川談春)下の下人は、「伊賀一の忍」と自認するのに違わぬ超越した技量をもつ忍びであり、伊賀の隣国の伊勢国まで迫った信長の嫡男、織田信雄(知念侑李)の寝所にも難なく侵入するほど。でもよほど大金が絡まない戦闘には参加しようとせず、自堕落な怠け者、何事にも無関心。
 
 
そんな無門が唯一心を動かされる相手、一目惚れして京都の館からさらい妻としたお国(石原さとみ)。但し、意外と怖いもの知らずで強気なお嬢さまのお国。自分は意外イチの忍びだから贅沢な暮らしをさせてやれると口説き落とされたのに、話が違い過ぎる。約束の年収40貫が達成されるまでは夫婦の契りは結ばないし家にも入るなと締め出しをくらってしまう無門。完全に尻に敷かれています(笑)。
 
お金以外には無関心であくまでも自分を崩さない強気で情けの薄い利己的な女性のようなお国ですが、厳しい修行を強いられる伊賀の幼い子供の現実を目の当たりにしたことで少しづつ気持ちに変化が表れ始めます。氷のツンデレ(但しデレ要素はほぼなし^^;)お国の、後半になって表れてくる暖かさや無門への思いやり、何事にも無関心な無門のお国へ対する強い想いが浮き彫りになって2人の心が通い合う、その微笑ましさと悲劇はドラマの見せ場のひとつ。夫婦になろうというのに「無門」という通り名ではない本当の名前も教えてくれない、とプンプンするお国でしたが、無門の本名に関するエピソードも(分りやすい伏線で想定済みでしたが)切なかったです。
 
 
伊賀の里を束ねる各一派の長たち、十二人衆による協議。織田におもねるか、あるいは抵抗するか。老獪なタヌキジジイたちが抱えるのは二腹どころではない?とぼけた顔して油断ならないじいさん達です。
 
 
他人の命や人情に対して無関心でお金以外に心の動かない伊賀忍者たち。織田の軍勢が自分達の里に攻めてくるかも、という緊急事態に対して伊賀の里を守るための戦いには、誰がお金を払ってくれるんだ?ということばかりが気になる烏合の殺人集団。お金、お金、お金、お金と、お金に一喜一憂。全ての行動原理はお金。お金めがけてワラワラと集まる忍者軍団があまりにも滑稽でコミカルな楽しさまで感じるのですが、後半はそれが転じてゾっとするおぞましさを感じることに。
 
 
下山平兵衛と共にシリアス・パートを担当するのは男気溢れる織田方の猛将、日置大膳(伊勢谷友介)。勝敗の行方は大膳の参戦に左右されると言われるほどの滅法な強さと、侍としての義を重んじるストイックな精神性、さらにキレのよい頭脳を持って、見事に伊賀の老獪ジジィの裏の裏をかく活躍をみせます。
 
伊賀の虎狼の血は滅びず、受け継がれ続ける。そしてそうと気が付かないうちに蔓延し、油断した時に牙を剥くであろう云々のスピーチに現代社会の群像を被せる演出と台詞は分りやすすぎて説明過多なきらいはありましたが、平兵衛と共に正義や倫理を背負い、虎狼の族との対立、「無」から生まれ変わることになる無門とのコントラストなど、コミカルでテンポのよいエンタメ作品の根底を支えます。
 
 
織田信雄に逆らって撃たれる伊勢国司の北畠具教(國村隼)も短い登場ながら強い印象を残します。北畠具教と、家宝の茶入れ「小茄子」の存在は彼の死後も様々な影響を及ぼしてゆきます。國村隼さん、存在感のある役者さんだとは思うものの生理的に苦手なのですが、この役はすごく良かったです(*‘ω‘ *)。
 
 
邦画はどうしてもね・・・アクション・シーンのCGはウウームと苦笑いしてしまう場面もありますが、忍者軍団や織田軍勢の膨大な人数のエキストラによる戦闘シーンは迫力だし、伊賀の決闘スタイル「川」など、1対1の対決シーンは見応えがあります。特に鈴木亮平さんと大野君は吹替え用のスタント・チームも用意していたけれど殆ど本人たちでこなしてしまったとか。ジャニーズのことはよく分らない私ですが(V6というグループ名は知っていても、メンバー名は言えない・・・)、詳しい友人のいうところでは、嵐の中では大野君が一番ダンスが上手いとか。身体能力高いんですね。
 
史実を元にしたアクション時代劇エンタメかと思えば、哲学を含んだ深い人間ドラマのようでもあり。そのどちらも中途半端ととるか、色々な要素があって楽しみ方も幅広いととるかは人それぞれ。思ったよりもスッキリしないものが残りましたが、それこそが原作者や監督の確信犯的な企みだったのかもな、とも思えます。解釈は無限大。一見は百聞に如かず。