アヒルと鴨のコインロッカー | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

2006年 日本
監督: 中村義洋
原作: 伊坂幸太郎 『アヒルと鴨のコインロッカー』
 
 
オー!ファーザー』を読んで久しぶりに読む伊坂幸太郎さんはやっぱり面白いなぁとホクホクしていたタイミングで、偶然WOWOWで伊坂作品が原作の映画をいくつかやっていて録画しました。その中に『アヒルと鴨のコインロッカー』もあって、これは原作も常々読みたいと気になっていたもの。さて、小説と映画どちらを先にしようかなと思っていたらブロ友hiroさんからのおススメコメントを頂いたので、では早速、映画から観てみよう!ということに。監督は「予告犯」や「白ゆき姫殺人事件」と同じ中村義洋さん。キャストも良さげで期待できそうです^^。



大学進学のため、仙台で一人暮らしを始めることになった椎名(濱田岳)は新しい生活への期待と不安で胸を膨らませながらアパートのドアの前でボブ・ディランの名曲《風に吹かれて》を口ずさみながらダンボールゴミをまとめていると、河崎と名乗る隣人(瑛太)に「ディランか?」と声をかけられます。この先深入りすることになるミステリアスな河崎と、独りよがりで消極的な椎名との、出会いです。



河島の前に軽い挨拶を交わした、反対側の隣人は言葉数も少なくそっけなかったのが違和感だった椎名。「このアパートに外人も住んでいてちっとも親しくなれない」という河崎の言葉にピンときた椎名。言葉があまり通じないからそっけなく見えたのか・・・。河崎によるとその外人はドルジという名前のブータンからの留学生で、2年前に彼女を事故で亡くして哀しみにこもっているからそっとしてやらないといけない、と教えます。そしてドルジが日本語を学ぶために欲しがっている「広辞苑」を贈って慰めてやろうと思っていると語ります。いい話のようですが・・・。



お前のモデルガンもある。さぁ、一緒に本屋を襲撃して「広辞苑」を奪いに行こう!と笑顔で誘うドルジに椎名はビックリ。んなメチャクチャな(笑)。この人、なんかヤバい・・・あまり関らないようにしようという防衛本能が働きますが、妙に人懐っこい河崎はやたらと椎名につきまといます。そして、「ペットショップのレイコという女に気をつけろ。出会っても彼女を信用してはならない」という、謎の警告を与えます。



絶対に関わり合いたくなかったのに、数日後なぜかモデルガンを持って河崎と一緒に本屋へ向かっている椎名(笑)。「悲劇は裏口から始まる」という謎の言葉と共に、裏口の見張り役を命じられますが、小心者の椎名はオドオド、気が気じゃありません。辞書を1冊盗み出すだけなのに何故かやたらと時間がかかるし、何か変な感じはするし、、、とにかく腑に落ちないことばかり。しかも、河崎が自信満々手に入れてきたのは「広辞苑」ならぬ「広辞林」というズッコケなオチまで。わけのわからないことに巻き込まれて「????」だらけの気の毒な椎名^^;。



大学側のバス停で、次に大学構内で見かけた気の強そうな年上の美女。椎名のタイプだったらしく(笑)、勇気を出して声をかけてみると意外と普通に答えてくれました。不機嫌で怒っているように見えるらしいけど気にしないで、という彼女の言葉にちょっと安心してさらに会話を続けると、なんと「ブータン人を探している」と言います。なんと、早速河崎が警告していた「ペットショップのレイコ」=麗子(大塚寧々)でした。しかもドルジの死んだ彼女=琴美(関めぐみ)は生前、麗子の店でアルバイトをしていたらしいのです。そして麗子は「河崎くんの言うことは信用しちゃだめ」と警告。



河崎は「麗子に気をつけろ」というし、麗子は「河崎に気をつけろ」と言うし。わけがわからない。関らないようにしようと思いつつ、好奇心も手伝って気になってしまう椎名。ポツリ、ポツリと河崎や麗子から聞く言葉の端から、事故で死んだという琴美のこと、琴美とドルジのこと、琴美と河崎が過去に付き合っていたことなどちょっとづつ2年前の出来事を知っていく椎名です。



以前、周辺の地区で残虐なペット殺しが連続で怒っていたこと。心の優しいドルジと琴美の出会いはドルジが車に引かれそうだった犬を身を挺して守ったことだったこと。浮気性でいい加減な河崎と琴美が再会し、ドルジを挟んだ友達関係ができていたこと、琴美がドルジとペット虐殺の現場を目撃してしまったことなどが徐々にわかっていきます。ペット虐殺の犯人と、広辞苑を盗みに入った本屋との関わりを感じ取った椎名はドルジが琴美の復讐をしようとしているのではないかと思い、麗子と一緒に探しにでかけますが・・・。



ドルジの言動、過去の思い出、ちょっとづつ「そうなのか」と繋がっていきながらもずっと何か違和感が漂い続けます。それが、ある事実が判明した途端、パズルのピースが次々とピタリとはまりだしていくようなカタルシスに繋がります。「河崎くんは、もう、いない」。麗子の言葉が意味すること。過去の回想に登場する松田龍平さんも、いい味醸します。



ドルジと河崎と琴美に2年前に起きた本当のこと、その哀しい結末。そうだったのか、とぼやけていた事実がはっきり見えるにしたがって、切なさがどんどんこみ上げてきます。動物を虐待する人間は許せません。ドルジ、河崎、琴美、、、皆が優しすぎて、哀しすぎて、辛すぎる。



それにしても不思議で印象的なタイトルです。「アヒル」と「鴨」の理由は前半でヒントが出るのですが、コインロッカーはなぜ?どうして?という疑問。最後の最期までひっぱって、忘れた頃にポンっと答えが提示されるのですが、なるほどそういうことか、と納得すると同時にまた切なさがこみ上げてきます。ラストの顛末はハッキリとは見せないのですが・・・前半のユルいコミカルさ、後半のネタバレからの一気に畳みかける展開、そしてそうなるのー?!の最期の追い込み・・・いつまでも後を引く余韻。hiroさんお勧め通り、これはかなりな上出来かと。

本のちょっと前なのに濱田岳さんも瑛太さんも皆まだあどけなくて若々しいな・・・と思ったらひと回り昔。キャストも、テンポも、映像も、多分すごく上手くハマってます。音楽の神様、ボブ・デュランの《風に吹かれて》も沁みます。そういえば、椎名の大学の同級生のひとりとそて岡田将生さんも出演。あ、岡田将生さんだ、と思ったもののほんの端役で終わり。今にしたらかなり贅沢な使い方ですね~。そして映画でネタバレ展開わかってしまったけれど、それでも小説はまたさらに読み応えありそうな予感です。映画の余韻を忘れないうちに読みたいと思います(´ー`)。