プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

2017年 イギリス、チェコ
監督: ジョン・スティーヴンソン
原題: Interlude In Prague
 
 
単館上映系の映画で観たい作品が4-5個フラグ立ってるんですが、上映場所と回数が限られているため中々タイミングを掴めず、ようやくいっこクリア(>_<)。大好きなモーツァルト!チラシ以上の事前情報ない状況で、ハナから内容はたいして期待せず(というか、あまり気にしていなかった)、モーツァルトの音楽と、衣装や美術などの美しい映像が目当てでした^^。
 
 
アマデウス」でトム・ハルスが快演してみせたヒャーハッハ笑いのモーツァルトとは全くイメージの異なる、美しくて繊細で危うい雰囲気のモーツァルト(アナイリン・バーナード)!私は結局タイミングが合わず見逃してしまった「ダンケルク」で注目を浴びたアナイリン・バーナード。BBCドラマ「戦争と平和」ではボリス役で出演・・・言われてみれば朧げな記憶が・・・DVD買ったから今度観なおしてみよう(*´ω`)。
 
モーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」がプラハで貴族から庶民まで空前の大ブーム。オペラ好きの社交界の紳士淑女は、ぜひともモーツァルトをプラハに呼んで「フィガロ」の上演を実現させようと盛り上がります。街の有力者で劇場のパトロンでもあるサロカ男爵(ジェームズ・ピュアフォイ) が資金の殆どを援助し、モーツァルトとは知り合いでもある劇場のプリマドンナ、 ヨゼファ・ドゥシェク夫人(サマンサ・バークス)の館に滞在して、「フィガロ」の上演準備を進めながら新作オペラを仕上げることがトントン拍子で決まります。
 
 
男爵主催の仮面舞踏会、「フィガロ」のケルビーノ役に新らに抜擢された若く美しく、しかも才能溢れるソプラノ歌手のスザンナ・ルプタック(モーフィッド・クラーク)嬢は憧れのモーツァルトに出会えて心躍らせます。モーツァルトも、スザンナの可憐な美しさに一目惚れ。お互い熱い視線をチラチラ投げ合いますが、そんなスザンナを含め楽団員にも招待客にも熱烈に歓迎されているモーツァルトの姿を憎々しげに睨み付けるのが、ホストのサロカ男爵。
 
 
プラハでも随一の古い名家の出で劇場のパトロンでもある権力者のサロカ男爵。血筋もよく財産もあって顔も悪くはない。のですが、心根は暗く淀んでおり、とんでもない色情家。スター歌手のヨゼファをネチッこく口説き続けていましたが、いまひとつ成果が得られないところにより若くか弱い(自分がどうにでもできそうな)スザンヌを見つけ、新たなターゲットに定めたばかり。その一方で、自分の屋敷のメイドや劇場の衣装係などアチコチに手を出しまくり。相手の意志など無視、かつ変態的な嗜好があり、超ドSで女性にひどい扱いをするという黒い噂も。
 
 
そんなサロカ男爵の思惑には気が付きもせず、リハーサルでスザンナの天使の歌声に聞きほれて益々夢中になるモーツァルト。ヨゼファと共に新作オペラの手伝いをするという名目で「フィガロ」のリハーサル以外にもしょっちゅう一緒に過ごし急接近の2人。とはいえ、モーツァルトは妻帯者だしスザンナは厳粛な父親に厳しく育てられた淑女。常に嫉妬にメラメラのサロカ男爵や他人の目もあるし、そう簡単に恋仲になるわけにはいきません。が、既成事実がなくとも互いの目を見れば想いは明らかですよね~。
 
 
憎まれ役のサロカ男爵を、ジェームズ・ピュアフォイが実に上手く演じ切っています!素の笑顔は爽やかハンサムな彼が、もう憎らしい変態エロじじぃにしかみえません^^;。「嘆きの王冠~ホロウクラウン」の「リチャード二世」では謀反の言いがかりを着せられて追放される悲劇の英雄モウブレーでしたが、サロカ男爵にはひとかけらの正義もありません。自分の欲望のみでスザンナを妻にすると一方的に決め、不幸なことにスザンナの両親も男爵の家柄と富に目がくらんでいい縁談だと喜ぶ始末。
 
いくらスザンナが年が離れすぎているし、悪い噂しかないし、怖い、愛せないと泣いてすがっても聞いてもらえません。肝心なスザンナが喜ぶどころかモーツァルトに尻尾振っているのが許せない男爵は、折よく訪ねてきた、モーツァルトをよく思っていないオーストリア大使の特使と組んでモーツァルトを罠にはめて追放しようとアレコレ画策します。
 
 
そんなサロカ男爵の画策と努力も空しく、恋する男女はほどなく結ばれてしまいますけどね(苦笑)。愛する三男を失ったショックと、子供たちを連れて湯治に行っているコンスタンツェの不在に寂しいとクヨクヨし、君に会いたい、君さえいれば新作オペラもあっとう間に完成するのに、君だけを心から愛していると妻に手紙を出す一方でスザンナとの恋に夢中なモーツァルト。やれやれ、まったく・・・(苦笑)。「フィガロ」本番でも、スザンナのことが気になり過ぎて集中できない、指揮なんてできないよーとクヨクヨ弱音を吐くモーツァルト。ある意味人間らしいというか・・・とことん、非力なロマンチストに仕立てられています。
 
 
プラハという異国の地で創作活動をするモーツァルトが旅先で素敵なフラウと出会って恋に戯れ、それをインスピレーションに「ドン・ジョヴァンニ」を書く・・・という筋書きらしいということで、ははぁ、さもありなんな感じのカサノバ物語か・・・と思ったので、内容には特別な期待はしていなかった(良し悪しは別としてものすごく感動するとか、目新しいということはないだろうとみくびっていた)のですが、いやいや・・・思ったよりもずっと哀しい恋でした(/_;)。
 
スザンナ・・・思わず涙ぐんでしまいました。どちらにせよ、2人の状況、身分、立場その他あらゆる状況を考えて未来のない恋なのは明白なのに、愛を交わした高揚感と恋の夢想に無邪気に浸ってはしゃいでいるモーツァルトと、冷静に現実をわきまえて強い覚悟のスザンナのギャップ。健気で気高いスザンナに一気に感情移入です。
 
 
アマデウス」では、父親との確執、越えられない抜け出せない父親の支配と畏敬から「ドン・ジョヴァンニ」が生まれたという解釈でしたが、本作では自分自身が陥った悲恋と、恐ろしい恋敵であるサロカ男爵がインスピレーションの源になったという解釈。なるほどね~。いかにモーツァルトの音楽が美しくドラマチックで、常に人のイマジネーションを刺激するか、ということですよね(´艸`*)。ラストの「ドン・ジョヴァンニ」の初演シーンも、ドラマチックで印象的。
 
 
サロカ男爵のネチっこい権力にものいわせた口説きもサラっと受け流す大人な歌姫ヨゼファも魅力的でした(*'ω'*)。サマンサ・バークスさん、「レ・ミゼラブル」での哀しい片恋に命を落とすエポニーヌ役が印象的だったので、酸いも甘いも噛分けて凛とした強さを湛えた大人の女性役がなんだか嬉しかったです(´艸`*)。それにしてもスザンナのモーフィッド・クラークもですが、歌ウマっΣ(゚Д゚)。って、あれ吹替え?本人?モーフィッド・クラークは「高慢と偏見とゾンビ」にも出演していたらしいのですが、うーん、思い出せない・・・次観る時気にしてみよう。劇場所属の指揮者ヨハン君もよかったなぁ。
 
最後に真打ち登場、とばかりにモーツァルトの元へ駆けつけた救いの女神なコンスタンツェの、慈愛に満ちて堂々とした姿も、悪妻評の定着したコンスタンツェ像の新たな解釈で、新鮮でした。賢妻という言葉にぴったりなコンスタンツェ、格好よし。こんなコンスタンツェでも浮気しちゃうのね、モーツァルトってば・・・^^;。大好きなジェームズ・アイヴォリー監督の「ハワーズ・エンド」も担当したプロダクション・デザイン担当のルチャーナ・アリギによる衣装や美術も期待通りに美しくて、邦題のサブタイトルにもなっている仮面舞踏会のシーンも目の保養♡そしてモーツァルトの音楽(´艸`*)。本当に忙しくて余裕のないこの時期、荒みがちな心に栄養補給できました^^。