2011年 フランス
監督: ジャムシェド・ウスマノフ
WOWOWにて録画鑑賞。まっとうにフランス映画らしい、静かなトーンでアンニュイに進む、ミステリアスな恋愛映画。色々と思わせぶりに観客を惑わして、最後にひとつネタバレ(所謂どんでん返しですが、予測内なので意外性や驚きはなし。むしろ、その後のヒロインの表情が重要)はありますが、その他の説明や人物の心情表現も殆どなく、どうとでも受け取れるようにほのめかしておいて、そのまま結論を提示しないままフェードアウト。最後に残されるのは余韻と、幾通りにも解釈できる可能性。アメリカの映画のように、ハラハラしたり派手な仕掛けがあったりスッキリしたりする種類の映画ではないです。アンニュイと余韻にたゆたいましょう^^。
要するに、彼女の主演映画はすべからくそうであるように、これもレア・セドゥを堪能する映画です。今や破竹の勢いの若手ホープ、フランスのトップ女優に登りつめた魅惑のレア・セドゥちゃん(*'ω'*)。この映画でも、存分に魅力発揮しています。いつもちょっと不機嫌で、何考えているのかよくわからない美人ちゃんがそこにただいるだけで、むやみやたらに惹きつけられちゃうし、監督もいくらでもイマジネーション湧いてきちゃうんだろうなぁと思います。
25歳の若き美人妻エヴァ(レア・セドゥ)は、ある朝日課のジョギングから夫が戻ってこないと警察へ通報します。自分の事務所を構えるイケメン弁護士の夫とは夫婦仲もよく恵まれた暮らしぶり。エヴァには夫がトラブルを抱えていた心当たりもありません。ところが警察が捜査を進めるうちに、エヴァの知らないところで夫の弁護士事務所の経営が傾きいつの間にか多額の借金があることが判明します。事務所もすでに数か月前から空き家になっていて、家具も調度品も何にもなくなっていました。いったい、夫は毎日どこへ通勤していたのか?次々とショックに襲われるいたいけな美人妻。
憔悴するエヴァに救いの手を差し出したのは、夫の元教授で独立する前の上司だったベテラン弁護士のおじさま、 ショレ(オリヴィエ・グルメ)。エヴァを心配して励まし、夫の負債を全額肩代わりした上にエヴァの銀行口座にも当面の生活費として大金を振込みます。さらに今度の週末に自分の別荘に滞在して心身を休ませてみたらどうかと提案。ちなみに、弁護士として大成功したショレおじさん、想像以上の財産家のようです。明らかに昔の部下の親族への親切というには度が過ぎています。
エヴァも、「こんなにしていただくのは恐い。きっと先生は見返りを求めます」と警戒して最初は辞退します。観ている側としても、もしかして昔からエヴァに気が合って、不幸な事件をこれ幸いと自分の最大の武器であるお金に物を言わせてエヴァに下心満々でアプローチしているのでは?と邪推してしまいます。でもショレは言います。自分は家庭を顧みない仕事人間だった。その結果、一人息子に先立たれ、後を追うように妻も亡くしてしまった。失って初めて後悔し、他者を思いやる慈愛の心を持つようになった。エヴァの夫のことも、もっと気にかけてあげていればこうなる前に救えたかもしれないと悔やまれる。今からでも自分にできることは何でもしたいと。
金満エロ真面目おじさんかと思いきや、善良で孤独なお金持ちだったショレ。エヴァもだんだん、ショレの優しさに心を許していき、いつしか心も身体もショレに寄りそうように・・・私、先生のことが好きです。うーん、今度は、エヴァちゃんが自分の若さと美貌を武器にお金持ちの紳士を誘惑か?ところがショレは心臓病で長くてもあと5年の命だと告白。だからそんな野心はない。君のような若く美しい女性を愛そうなんてしたら、殺されちゃうよと冗談まじりに優しく拒絶。なんと・・・本当にただの優しいおじさんだったのか!
でも、ムーディなナイトクラブで妖艶な姿態を見せつけながら踊るエヴァに意味ありげな視線を投げ続けられたら、枯れたつもりのショレの男心も思わずメラメラ復活。そりゃそーでしょう、そーでしょう、この誘惑に勝てる男性なんてまずいないでしょうとも(笑)。もう自分には何もないと思っていたところ、男としてのプライドと自身を取り戻したショレは一気に人生の春再来。もう心も身体も止まりません。
ついに一夜を共にした朝、ショレはすっかりご機嫌で恋人きどり。いくつになっても男性って単純で能天気だなぁと思います。おはよう、どうしたんだいハニー、浮かない顔だね。後ろめたいのかい?一度堰を切ったショレの恋心はすっかり「男」としての自尊心を底上げ。自分がエヴァを手に入れたのはもはやお金でも保護者としての庇護力でもなく、自分の人間性と異性としての魅力だとすっかり信じ切っちゃている様子が健気です。甘い夜の後若い恋人が不機嫌そうにベッドから出ようとしないのは、ついほだされてオジサンを相手にしちゃったけどやっぱ全然よくなかったわ、と後悔している・・・とは思わないらしい^^;。
でも、この後ラブラブ・シーズン突入のはずなのに、エヴァになんだか避けられるようになってしまいます。何かあったに違いない、話してくれと言いますがいつもの不機嫌顔で「何も・・・」と返ってくるだけ。最初は本当にそんなつもりなかったとしても、一度手に入ってしまったらもうエヴァを失うなんて耐えられません。こうなったら最後の手段はやっぱり財力。自分の全財産をエヴァに譲るという遺言状を作ってエヴァの元に。命がけの恋をしたオジサンはすごいぞー。でも、もしかして狙い通りなんじゃない?のエヴァの方が、今度は引き気味。絶対ひくもんか、のショレ。そして、ある朝・・・。
最後にある”真相”のひとつがネタバレされますが、それだけでは納得がいかない謎や疑問が沢山あります。単純に見えてくるのは、ある計画とエヴァの心情の変化。でも、それだけじゃない。エヴァだけでなく、人間の心は常に複雑でコントロール不能。色々な疑問のひとつひとつが全部真相を示すのかもしれないし、勘ぐりすぎかもしれないし、まったく見当違いかもしれない。ただ、言えるのは、たった一つの回答なんて存在しないということ。
例えば、一番わかりやすい2つの疑問は、まずエヴァと夫が最初からショレの財産目当てで、失踪を偽装してショレに近づき誘惑したのか、あるいはショレの方が以前からエヴァを狙っていて、自分のものにするために良い人面して夫の仕事をサポートするフリして陰で妨害して破産に追いつめたのかということ。そして、ショレが何故あの朝救急車を呼ぶのではなく、薬局へ薬を買いにいかせたのか。自分の病気を理解して用心深いおじさんが、予備の薬がひとつもなくなる状況になることが不自然だし、自分の家の周囲の薬局が日曜の朝に空いていないことも当然知っていたはず。信じて情熱を傾けてきた仕事に失望させられて、自暴自棄になったのか、あるいはエヴァへの全身全霊の愛だったのか。
もうひとつ、どうしても理解できないのが、何故途中でエヴァは昔の恋人に連絡をとったのかということ。計画があって、その実行に余念がないのだとしたら全く意味のない蛇足的な行動でした。そして、結局そのせいで取り返しのつかない事態になるのだから自業自得でもあるのですが・・・。もしかしたら、贅沢や世俗的な欲望を知らず純粋に恋愛に没頭していた頃の自分に戻りたい、逃げ込みたいという心情の現れだったのかな、とも思います。でも自分の気持ちもコントロールできないのだから他人の感情や行動なんてもってのほか。エヴァの期待や想像とは全然異なる展開に。
色々な疑問が浮かぶけれど何一つ答えは出してもらえないので、よけいにどこまでも思索が深まっていきます。そして、最後の、川の岸辺に佇むエヴァの表情がいつまでもいつまでも、強い陰影となって心に残り続けます・・・あぁ、やっぱりレア・セドゥな映画だった(*´ω`)。
最後に、たとえチョイ出でも必ず印象に残ってしまうレア・セドゥちゃんを堪能できる映画は他にもこんなの↓もありますよ、のご紹介。
「ミッション:インポッシブル/ゴーストプロトコル」では情け容赦ない美貌の殺し屋。でも冷徹さでは「ロブスター」でのレア・セドゥの方が上。「若き人妻の秘密」どうよう、どっぷりレア・セドゥに翻弄されるならばおフランスな文芸映画「あるメイドの密かな欲望」。ギャスパー・ウリエルがイヴ・サンローランに扮した「サンローラン」ではサンローランの親友でミューズのルル・ドゥ・ラ・ファレーズ、台詞は殆どないけれど存在感たっぷり。そのギャスパー・ウリエルと「たかが世界の終わり」では兄妹役を。現代的な役のレア・セドゥがちょっと新鮮です。
その他、このBlogには書いていませんが有名どころはまず「マリー・アントワネットに別れをつげて」。私はこの映画で初めてレア・セドゥを見て忘れられない印象が残りました。以来、気になる女優さんに。「007 スペクター」はそのうちまた観たいなと思っているのでいつかBlogに登場する可能性も大。「グランド・ブダペスト・ホテル」も気になっています。知らなかったのですが「美女と野獣」なんてのもあったんですね。レア・セドゥがベルって意外で気になります。以上、映画レビューというよりレア・セドゥ特集でした^^。
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