江戸の琳派芸術 (出光美術館) | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

江戸の琳派芸術

会期: 2017/9/16(土) ~ 2017/11/5(日)

会場: 出光美術館

 

 

終わってしまった美術展のレビューですみませんー。9月終わりから10月いっぱい、週末が全然使えず、かつ10月末から風邪をこじらせて・・・何度も諦めかけながら、朦朧としながら踏ん張って最終日になんとか鑑賞できました(T_T)。本当はもっと頭がクリアな状態で観たかった・・・とはいえ、大好きな江戸琳派がまとめて沢山、屏風もたくさん、観られて幸せ♡でした。

 

京都で活躍した尾形光琳の画法を踏襲して江戸琳派の礎をつくり発展させた酒井抱一、そしてその弟子の鈴木其一への流れを中心に、京の琳派と江戸琳派の違い、作風の傾向、特徴などを比較展示しつつ系統だって把握できる、分りやすく目に楽しい展示でした(*'ω'*)。私自身、ぼんやり認識していた光琳⇒抱一⇒其一の流れが、この展示でよりくっきりと浮かび上がり、全体像を俯瞰する機会が得られてよかったです。

 

酒井抱一 《風神雷神図屏風》 江戸時代 出光美術館蔵

 

まずはデデーンと風神雷神図がお出迎え♪6月に東京国立博物館蔵の、尾形光琳による《風神雷神図屏風》を観ることができたので、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一の風神雷神図を時期を置いて見比べることができて満足(*'ω'*)。トーハク蔵の尾形光琳の風神雷神に比べると、やはりムキムキした細かい筋肉の書きこみなど、あっさりシンプルな線に昇華している印象を受ける酒井抱一の風神雷神。

 

万治元年(1658年) に京都の呉服商の次男として生まれた尾形光琳は生粋の遊び人、ザ・次男坊で実家の家業が傾いても何ら影響を受けず(苦笑)遊興三昧で相続した莫大な財産を湯水のように使い果たしたら弟の乾山に借金しまくりのボンクラっぷりですが、生来身につけていた貴族的・都会的で優美な洗練は装飾的で美意識に溢れた「琳派」芸術を確立しました。

 

尾形光琳におよそ100年遅れて宝暦17年(1761年)に江戸の大名家の次男に生まれた酒井抱一もやっぱり若いころから遊里・吉原で放埓し放題、俳諧や狂歌、浮世絵などを愛し30歳代なかば頃から尾形光琳を「隔世の師」と仰ぎ雅な「琳派」の画法に学び、さらにモダンな江戸風味を加えた「江戸琳派」の祖となりました。

 

酒井抱一の弟子の1人、鈴木其一もまた裕福な染物商の家に生まれて、家業からインスピレーションを得たテキスタイル的なデザイン感覚を琳派芸術に活用し、さらにモダンで機知に富んだ江戸琳派へと豊かに発展させます。師である抱一の画流を継承しつつも、尾形光琳の京の琳派の風情にも再び近づいたとも言われています。

 

うぅむ。やはり、財力、一朝一夕では身につかない教養と趣味、生活の為にあくせくする必要のない身分、遊興三昧、放蕩生活。これらがあった上での、芳醇な芸術の発展。芸の肥やしじゃないけれど、美しいものというのは豊かさと無駄(放蕩)を栄養に育つのですねぇ。当時好んで取り上げられたモチーフである立葵の花を描いた作品を3つ並べて、光琳、抱一、其一それぞれの琳派の画法の変化と特徴を比較展示されていたのがちょっと感動的でした。

 

《立葵図》 左から尾形乾山、酒井抱一、鈴木其一 すべて出光美術館
 
実際には光琳ではなく弟の乾山の作品ですが。ちなみに乾山と光琳、兄弟コラボの焼き物(特に根津美術館も所蔵するような角皿のシリーズ)の大ファンです(*'ω'*)。それぞれ、花弁の描き方、絵の具の塗り方に特徴があります。花弁の境界線を塗らずに花びら部分を一色でベタ塗りしていた京都の琳派時代。境界線を塗りつぶしつつ、2色の濃淡で立体感を持たせた抱一。また、江戸琳派の時代は空間の余白を多くとることでより洗練されたモダンさと、奥行きを表現するようになります。さらに其一は、花びらの塗り方は京の琳派風を蘇らせながらも、画面下に着色して土の部分を表現し、抱一よりさらに奥行きある空間を表現しようと試みているとのこと。こうして並べて比較すると、色々とナルホド~とわかりやすいです。展示センスいいなぁ(*'ω'*)。
 
では、今回の展示品の中から私のお気に入りをさらにいくつかご紹介します。せっかく観た、備忘録も兼ねて。
 

酒井抱一 《十二ヵ月花鳥図貼付屏風》  江戸時代 出光美術館

上が(右隻)、下が(左隻)

 

何時間でも眺めていたい・・・(*'ω'*)。素敵としか言葉が浮かびません~。季節の鳥と植物の組み合わせで12ヶ月を表現。日本って本当に季節が豊かな美しい国なんだなぁと再認識できるのも嬉しいです。

 

酒井抱一 《八ツ橋図屏風》 江戸時代 出光美術館

 

メトロポリタン美術館所蔵の尾形光琳《八橋図屏風》を抱一が写したもの。尾形光琳のものよりさらにデザインが洗練されリズム感溢れる構図に。橋の部分のぼかしと一方で燕子花のベタ塗りとの対比が印象的です。『伊勢物語』の第九段「八橋」の場面を描いているということは有名ですが、こういう風に登場人物を描かずに物語のある場面を表現した作品を【留守模様】と呼ぶそうです。都に自分の居場所がないことを感じ、友連れで東下りの旅へ出た在原業平が三河国の燕子花の名所、「八つ橋」で詠んだとされる有名な和歌。

 

からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ

 

各段落の最初の一文字が「か・き・つ・ば・た」になっているんですよね~。日本語ってなんて奥ゆかしくて風流なんでしょう。

 

鈴木其一 《四季花木図屏風(左隻)》 19世紀 出光美術館

 

屏風絵大好き。大物がたくさん観られてとっても幸せ。企画展ポスターのビジュアルにもなっている其一の《四季花木図屏風》も実物はさらにえもいわれぬ美しさ・・・。そして改めて、抱一にくらべると色使いがヴィヴィットで、紅葉の葉っぱなどベタ塗り感が強く、尾形光琳へのオマージュのような気配を確かに感じます。でも、やっぱり唯一無二。師匠たちのいいとこどりして更に磨きをかけたオリジナリティ。くっきりした色を使ったり、フラットな表現だったりでアクが強くなりそうなのに、あくまでもすっきりとバランスのとれたデザイン性と繊細さが際立つ不思議。

 

酒井抱一 《紅白梅図屏風》 江戸時代 出光美術展

 

金箔使用とはまた全然違った、クールな趣のある銀箔を背景一面に使った紅白梅図も、美しさに息を呑みました。冴えわたったクリアな空気にキンと響く軽やかで鋭い音が聴こえるような気がしました。やっぱり抱一いいなぁ、いやでも其一かな、光琳やっぱりすごいな・・・でも抱一も捨てがたい・・・と、琳派の3人誰が一番好みかしらん、と探ろうとしては右往左往、浮気しまくり、目移りしまくりで結局決められないのでした(笑)。

 

鈴木其一 《蔬菜群虫図》 江戸時代(19世紀) 出光美術館

 

喜一の作品では、これ↑が特に気に入りました。地面をつたう赤い蛇苺の実、ころんとした形の茄子、胡瓜の蔦とピクルスにしたら美味しそうな実・・・ひとつひとつは写実的なのに、全体で観ると美しいおとぎ話のようなファンタジー感が。それにしても、他の作品でも、目を凝らすと実にあちこちに沢山の昆虫たちが書きこまれていて、何気に美しい花々や渓流、鳥たちよりこれらの蝶や蜻蛉、黄金虫、飛蝗etcの小さき者たちが一番お気に入りかもしれません( *´艸`)。

 

その他、扇などに仕立てた月次風俗図を集めて展示してある一角もありました。写真等は割愛しますが、備忘の為に概要を書いておくと、元々は平安時代に発生した大和絵の古典的ジャンル「月次絵」から派生した「月次風俗図」というジャンルが室町時代~江戸時代に盛んに用いられており、酒井抱一や鈴木其一も積極的に作品に取り組んでいたとのこと。1年12ヶ月の月ごとの行事や風俗を、公卿から庶民まで様々な階層にちなんで描かれ、当時を生きた人たちの実際の生活感まで感じ取れて楽しい趣向でした。

 

体調不良で諦めずに出かけたかいのあった、見応えのある企画展でした。あぁ、幸せ♪琳派芸術の興隆も豊かな財源とたっぷりとした遊興の経験あってのこと。これだけのコレクションを形成した元も、出光興産の成功と財力あってのこと。現代のハリウッドセレブがこぞって社会貢献活動に没頭するように(税金対策という意味も大いにあるでしょうが)、どの時代にも様々な状況にある人達が皆、それぞれの役割があるんですね。「海賊と呼ばれた男」を観たので、頭の中では岡田准一さん演じる国岡鐵三さんを思い浮かべつつ(笑)、出光コレクションの形成と保持と企画展に携わった全ての人に感謝したい気持ちです^^。