『蜘蛛の糸・杜子春』 芥川龍之介 著 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

毎年夏になると各出版社の様々な文庫フェアが楽しみな私です。去年のヒットは文春文庫の青春フェア、蜷川実花さんの限定カバーでしたが「新潮文庫の100冊」のプレミアムカバーも毎年要チェックです。そんなプレミアムカバー、2017年のラインナップはこんな↓感じです。

どうやら『人間失格』と『こころ』は、レギュラー選手らしいのですよね。(2016年のラインナップはコチラにあります)カラーは毎年変わるものの・・・流石に何冊もは必要ない・・・ので、まずは久しぶりの芥川龍之介をプレイバック読書。何十年ぶりだろう~(´ω`*)。
 
《目 次》
蜘蛛の糸
犬と笛
蜜 柑
魔 術
杜子春
アグニの神
トロッコ
仙 人
猿蟹合戦
 
芥川龍之介のいわゆる”年少文学”、『三つの宝』以外のほぼ全ての作品が収録されている。らしいです。懐かしい作品も大人になって読み返すとしみじみ温故知新。『蜜柑』や『魔術』など、初めて読む(と思う)作品もあって、とっても楽しめました^^。
 
『蜘蛛の糸』で仏教の「六道」に触れる箇所があり連想で先日「ベルギー奇想の系譜展」で観たブリューゲル(父)によるキリスト教の「7つの大罪」の版画を思い出しました。作品の本筋からは脱線ですが、せっかくなので自分の備忘メモ。仏教の「六道」は、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上の6つで地獄は最下位にある暗黒世界。仏教世界では世界が6回層あり一番上が6番目の「天上」ですが、ピカピカ社会人の頃職場の近くにあった【楼外楼】という中華料理店は楼≒天上の”さらに上”すなわち7番目の”最高の天国”いわば”Super extreme天国”という意味だと大人の人(笑)に教わりました。イスラム教やユダヤ教にも”Seveneth Heaven(第7天)”というほぼ同じ概念があるのが、なんだか不思議で面白いなぁと思ったのを覚えています。

脱線しましたが、子供の頃『蜘蛛の糸』を読んだ時には、お釈迦さまがせっかくチャンスをくれたのに、カンダタが焦って欲をかくためオジャンになってしまって、あーあ、もったいない、馬鹿だなぁというのが主な感想でしたが時を経て読み返すとあの頃は目に留まらなかったものも見えるようになっていました。

何といってもまずは、カンダタの身体能力!(笑)空中から一本垂らされたほそいほそーい蜘蛛の糸を素手素足で頼れる足場も危惧もなく長時間登り続けられるなんてスゴイΣ(・ω・ノ)ノ!その凄さが、しみじみ理解できるお年頃になりました^^;。自分だったら、他人を蹴落とすとか以前にきっと1メートルも登れず途方にくれてしまいます(T_T)。健康な老後を過ごす為にもっとちゃんと鍛えなくちゃな・・・と反省。

また、カンダタが結局自らの行いのせいで蜘蛛の糸が切れて再び地獄へ落ちてしまった後の、お釈迦さまと天上界のあまりにも静かなスルー具合が意外とズシンときます。 
 
悲しそうなお顔をなさりながら、又ぶらぶら御歩きになり始めました
しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事に頓着致しません。
 
カンダタにとってはまさに天国と地獄のワンチャンスの大事でしたが、たまたま蓮池から下界を覗いてみたのも、その時カンダタの姿が目に留まったのも、ふとチャンスを与えてみたのも、お釈迦さまの側にとってみたらたいした事件でもないし、カンダタがそのチャンスを活かそうが無駄にしようが何の影響も派生しないんだなぁ・・・と、シンシンとした切なさが漂うではないですか。人の世は諸行無常ですが、蓮池には波紋ひとつ伝わらないのだなぁ(;´Д`)。
 
『猿蟹合戦』は、かの有名な昔話の後日談。仲間がサポートして皆で一致団結、意地悪な猿に見事な敵討ちを果たす勧善懲悪の武勇伝が一転、蟹たち一味が犯罪者として世間のそしりをうけ裁かれるという、リアリスティックでシニカルなパロディです。いくら猿が悪いとはいえ、私怨による殺害は私刑でありやりすぎ。弁護士もちっとも活躍せずマスコミ、学識者、宗教界からも散々非難されて死刑宣告を受けてしまいます。判決の日、蟹に弁護士が「あきらめ給え」と一言いうのですが、その「あきらめ」るべき対象が死刑宣告のことなのか、それとも無駄に高い弁護士費用を払わされたことか果たしてどちらかなのかは不明だった、というような皮肉めいた一文まで( ゚Д゚)。

挙句に、残された蟹の妻子たちの末路もそれぞれに悲惨・・・(T_T)。呆然としたところで、芥川龍之介氏の最後のワン・パンチでKOです。
 
とにかく猿と戦ったが最後、蟹は必天下の為に殺されることだけは事実である、語を天下の読者に寄す。君たちも大抵蟹なんですよ。

所詮、我々は無力であわれな蟹でしかないよね・・・(ノД`)・゜・。
児童向け作品にこんな痛烈にシニカルな味付けを施した作品も書いてたんですね、芥川龍之介。文体そのものが淡々とほのぼのとしているだけに、なんともはや・・・(;´・ω・)。

久しぶりに読み直したものも、初めて読んだものも、どれも心に残りました。読みやすくて理路整然とした文章で、しかも多方面にわたって教養人の芥川龍之介の才能のすばらしさにも、大人になって改めて驚きました。文庫フェアなどのきっかけでこういった偉大な文学遺産に再会できるのって有り難いし、楽しいです(*‘ω‘ *)。