『新編 銀河鉄道の夜』 宮沢賢治 著 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

森見登美彦さんの『夜行』を読んだら、「夜行列車」からの連想
で読みたくなった、『銀河鉄道の夜』。思い立ったが吉日で早速
プレイバック読書しました。実は『ジキルとハイド』を購入した時の
《新潮文庫の100冊》の中のプレミアムカバーがやっぱり素敵
だったので、あの後また何冊か買い足してあったものです^^。



紙の質感もいいし、カラーも素敵な2016年版でした。
2017年はどんな品揃えになるのかまた楽しみ♪
さて。こちらのご本は表題作を含む14編からなる短編集です。
沢山あるけれど、記録のために目次書出しておきます。

《目 次》
双子の星 / よだかの星 / カイロ団長 / 黄いろのトマト /
ひのきとひなげし / シグナルとシグナレス / マリヴロンと少女
/ オツベルと象 / 猫の事務所 / 北守将軍と三人兄弟の医者
/ 銀河鉄道の夜 / セロ弾きのゴーシュ / 飢餓陣営 / 
ビジテリアン大祭

「銀河鉄道の夜」は、教科書やいろんな機会で触れることがあった
し、ネコを擬人化したアニメ映画も観たのですが細かいところは
あまり覚えていませんでした。水晶や宝石の砂、はくちょうステー
ションなどの風景はぼんやり覚えていましたが、トウモロコシ畑
とインディアンが出てきたことはすっかり忘れてました。銀河の
トウモロコシ畑とインディアン・・・どんな風景だったんだろう~なんて
想像を膨らませました。

主人公のジョバンニとカンパネルラですが、巻末の注釈を読むと、
カンパネルラの名前は実在したイタリアの哲学者、トマーゾ・カ
ンパネルラに由来するとされているそうです。さらに、そのトマーゾ
の幼名がジョヴァンニ・ドメニコだったそうで、賢治がそこまで
知っていたかどうかは不明とのことですが、知っていた上で、
ジョバンニ=カンパネルラとして描いたという説がいかにも有力
な感じがします。実際に、草稿では賢治自身が二人の名前を
取り違えている箇所が多くみられるそうです。

実は、子供の頃は宮沢賢治の良さがいまひとつ解からなかった
のです・・・。「アメニモマケズ」とか「銀河鉄道の夜」とか「セロ弾き
のゴーシュ」とか「注文の多い料理店」とか、課題図書になってた
り教科書に載っていたり、文章以外にも劇だったりアニメだったり
映画だったり様々なメディアでよく触れていましたが、いいなぁ、
とか好きだなぁ、と思ったことはあまりなかった・・・。

だって、賢治の童話世界って、貧しくて辛い目にあっていたら
それが逆転することもなく、ちょっと悲しかったり(だって、死んでる
し!<銀河鉄道の夜>)、ちょっと怖かったり(だって、自分自身を
料理の下ごしらえさせられてるし!<注文の多い料理店>)して、
なんとなく地味・・・およそ凡庸で単純な子供がファンタジーに期待
するような解かりやすいキラキラとかウキウキに欠けている気が
していたんですよねー。

大人になってからようやく、じわじわと賢治のよさ、潔い美しさが
沁みるようになりました^^;。私もちょっとは複雑で多様な考えが
できるように成長したようで、よかった(苦笑)。
というわけで、何度も触れたはずの物語ですら新鮮、それに加えて
本当に初めて読む物語も沢山ありました。

「双子の星」「カイロ団長」「北守将軍と三人兄弟の医者」「セロ弾
きのゴーシュ」あたりが特に好きです。(あ、表題作以外ではという
意味です)

小さな「双子の星」のチュンセ童子とポウセ童子の様子もいじ
らしくて可愛いし、特に第二章で、悪い箒星に騙されて海に落と
されてしまうエピソードは、空や星や宇宙の世界が多い賢治作品
では(多分)珍しい、アンダー・ザ・シーの世界がとても楽しいです。
ヒトデは、空の星が何か悪いことをした罰で海の底に落とされて
しまったもの。そして、チュンセ童子とポウセ童子の空の王様
ともお付き合いのある、ウミヘビの王様、二人をお空まで送って
くれる竜巻。そして今日も二人はおつとめの時間に間に合いました。

「カイロ団長」の、30匹の陽気なアマガエルのお仕事は、他の
虫たちの依頼で「紫蘇の実やけしの実をひろって来て花ばたけ
をこしらえたり、かたちのいい石や苔を集めて来て立派なお庭を
つくったりする」こと。彼らのちんまりと可愛い作品がありそうで、
トレッキングや山歩きをする機会があったら、つい「畑の豆の木
の下や、林の楢の木の根もとや、又雨垂れの石のかげ」に目を
やってしまいそうです^^。

「飢餓陣営」は賢治が受け持ちの子供たちにやらせるために
作った戯曲だそうですが、とある軍隊の大将の名前が、
バナナン大将(「ン」は小さい活字です。変換できなかった・・・)。
それに、兵士たちに空腹を訴えてくるストマックウォッチ。
「胃時計」という漢字が当てられていますが、ようするに腹時計。
バナナン大将と、ストマックウォッチ!賢治の言葉選びのユーモア
センスに感服です^^。勿論、今ほど外来語が溢れてもいなく
一般人に馴染みもなかった時代での、これらの単語の音に
抱くイメージは今とまた違ったものだったでしょうけれど。

宮沢賢治が生前に出版された作品は実はほんの僅かで、
これらの作品も表題作を含めほとんどが未完成で、途中何文字
か空白だったりページが途切れていたりする箇所が沢山で、
もし賢治が存命で最後まで推敲を重ねて完成させられていた
としたら、どんな作品になってたんだろう、と思います。
それと同時に、未完成作品なのにも関わらず、こんなにも
沢山、長い間に渡って愛され続けているって本当にすごいです
よね。