アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国 (東京ステーションギャラリー) | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国 

会期: 2017.4.29(土)~2017.6.18(日)

会場: 東京ステーションギャラリー

開場時間: 10:00~18:00 (金曜は20時まで)

休館日: 月曜 (但し5/1は開館)

公式サイト: 

http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201704_adolfwolfli.html

 

 

近頃Blogでも「忙しい」「疲れた」「ヘトヘト」「ボロボロ」とつい言いすぎなのは自覚しております(>_<)。でも本当に酷い状態なんですぅ(T^T)。こうなってくると、(もう若くありませんので・・・)アホみたいなポカもしでかすようになってくるのでとっても危険です。そう、GW真っ盛りのあの日・・・午前中所用を済ませてお昼頃からガッツリ仕事しようと職場へ出かけたわたくし。なんと、自分の会社のあるフロアまで来て、事務所の入り口扉の鍵がないことに気が付く・・・。盗難や紛失リスクを軽減するために、平日休日でオフィスの鍵のついたものとついていないプライベート鍵だけのもの、2つの鍵束を使い分ける習慣があるのがアダに・・・。来る途中、何度も何度もバッグのポケット探りながら「セキュリティカード・・・よぉし、鍵・・・よぉし!」と確認したのにも関わらず・・・。

 

大そう暑い日でした。もとより蓄積した疲労と寝不足でヨロヨロ。お腹もすいた、喉も乾いた。今から1時間弱かけて自宅に戻って正しい鍵束を持ちまた出直す気力も体力もなければ、時間もなくなる・・・ほんの数時間、雑務を片づけておこうっていうレベルじゃないんです・・・。どうしよう、どうしよう・・・と悩む間にも時間は過ぎ去り、でも結局どうしようもない。連休途中で実家に1泊2日出掛けるのを取りやめてその日に出直し出勤しよう・・・今日は哀し過ぎるから、せめて何か気晴らししてから帰ろう、いいお天気だし。となんとか気持ちを切替え。

 

でもタイミングが悪い時って・・・そんな時に限って、どのシネコン、ミニシアターでもことごとく上映時間が合わない(こんなに選択肢のある東京セントラルでこんなことってある?)。行きたい美術展はいくつもたまってるけれど、どこもゲキ混みでとんでもない状況・・・うーん、うーん、うーーーーーん。で、思い出しました。こんな時は穴場の東京ステーションギャラリー。確か新しい展示始まっているはず!こんな時のために?今年入手した【東京駅周辺美術館共通券】はバッグの中♪

駅直結なのに空いていて涼しい美術館鑑賞と、すぐ近くの丸善本店で前から気になっていた本と、店内で出会って気になった本を一気に爆買いすることで溜飲を下した1日でした(;´∀`)。

 

長い前置き失礼しました。というわけでの、「アウトサイダー・アート/アール・ブリュットの芸術家として世界的に高く評価」されているらしいアドルフ・ヴェルフリの回顧展。初めて拝見するアーティストさんでした。まずは入り口の紹介文でお勉強。なんでもとっても不幸な生い立ちを持つスイスの芸術家らしいです。 1864生まれで、1930年没。

 

スイスはベルンの貧しい家に7人兄弟の末っ子として生まれたアドルフ。父親は酒乱でDV、警察にごやっかいになることしばしば。優しい母は病弱。お金がないからアドルフ達兄弟は里子奉公制度でバラバラに。アドルフも里親を転々として、学校にも通わせてもらえず厳しい労働を強いられ、時に里親からも暴力を奮われたり。11歳になるまでに実の両親ともに死亡し益々孤独に苛まれるアドルフ。身分違いの恋に落ちるも女性の家族から猛烈な反対。多分、相当ひどいそしりや攻撃を受けたのではないかと想像します。恋も破綻し心にもきっとさらに深いダメージが。

 

そんなアドルフは恐らく段々に精神のバランスを失って現実世界との接点が曖昧になっていったのではないでしょうか、彼自身の父親のように、若い女性への猥褻行為、婦女暴行未遂事件を訴えられることが続きます。しかも、相手の女性はどんどん若くなっていき、幼児性愛者レベルに。アドルフは統合失調症と診断されて1895年に精神病院へ収容され、生涯そこから出ることはありませんでした。そして1999年から芸術家アドルフが現れます。新聞用紙に鉛筆で緻密なドローイングに没頭するようになります。

 

《ホテル‐シュテルン〔星〕》1905年

 

初期の頃はモノクロで、新聞用紙いっぱいにビッシリと、緻密なパターンや文様と文字が所狭しと書き込まれています。とても写真じゃあその様子は伝わらないほど。五線譜はありませんが、楽譜になっているそうです。アドルフの頭の中の宇宙ではいったいどんな音楽が奏でられていたんだろう・・・凡庸な人間には解読不能ですがただただ圧倒されます。定規など道具もなく、綺麗な直線や曲線を描き、本当にこまかーい部分までギュウギュウに書き込まれていて、鉛筆の濃淡だけで無限に広がるかのような奥行き・・・眺めているとクラクラしてきそう。しかも、字が綺麗!Σ(・ω・ノ)ノ!

 

アドルフが一心不乱に描き続けた枚数はなんと25,000ページ。自画像、白い鳥、格子などいくつかの定番のパターンを含む絵と文字と数字と音符に埋め尽くされた一面の紙。やがてその紙面に、奇想天外で荒唐無稽で壮大なアドルフだけの世界が構築されていきます。まずは自分の分身の男の子が世界中を冒険する自伝的物語《 揺りかごから墓場まで 》を製作、そのボリューム4年間で2,970頁。魅惑的な国々をめぐって楽しい冒険の数々を自分の分身にさせることで、現実の辛い子供時代の思い出をキラキラした幸せなものに書き換えたんだと分析されているようです。

 

次々と製作が進むにつれアドルフの世界はどこまでも広がっていきます。そう、まさにアドルフ王国が形成されていくのです。世界中の土地を買い占めて聖アドルフの大帝国の領土をどんどん広げていく世界征服計画は、なんと地球に飽き足らず宇宙までターゲットに。その壮大かつ綿密な領土拡大計画を、実在の甥っ子に宛てた指示書のようになっています。

 

土地を買うにも、宇宙船を作るにもお金が必要。ということで作品群《地理と代数の書》では甥っ子に聖アドルフ大王の資産運用と管理も指示します。この時期の作品には、 「聖アドルフ資本財産」 の金利計算がギッシリと書き込まれているものが多いです。あまりにも膨大な財産、それが増え続けるので現存するケタ(一、千、万、、、億、、兆、、、)では足りず、次々と新しい数の単位まで発明していきます。聖アドルフ世界での最大単位は「怒り」を意味する単語と同じ。

 

後年には、写真や雑誌、広告などの切り抜きをコラージュした作品も増えます。そして自分自身の荘厳なレクイエム、8千頁を超える《葬送行進曲》も製作しますが未完のまま、悔しがりながら病死。

 

《聖アドルフ=王座=アルニカ》 1917年

晩年にはこんなカラフルでポップなタッチの小ぶりの作品もあります。こういった作品は、タバコやクレヨンやお菓子を買う小金を得る為に、病院内で販売目的に書かれたようです。

 

尋常ならざる生い立ちに苦しんだ、尋常ならざるパワーを持った、尋常ならざる天才。永遠に解読不可能な緻密で迫力あふれる作品たちからの波動エネルギーをたっぷり浴びて、脳の電気回路がビリビリ刺激されたようなひとときでした。宇宙も含めてまるっと世界征服を計画していたアドルフ、その指令書たちが世界を巡る様子を今はどこから眺めているのか。もしかしたらこれも彼の青写真の通りの出来事なのかもしれませんよねー。((+_+))