もちろんこんな考えは親にだつて言えやしないんだけれど。
でもほんとのところ均はともかくおれと健太は大学どころか、目の前にせまっている中学校への進学も叶うかどうかあやしいものだった。お祖父さんが町会長でお父さんが軍需工場の社長をしている均とは違って、おれと健太はどちらもお父さんが兵隊に取られていた。その上母さんと離れているとこまで同じだった。
健太の母さんは健太が赤ん坊の時に死んでいた。おれの母さんは結核という重い病気で遠い山の高原にある療養所にはいっていてもう何年も会っていなかった。健太は今伯父さんの家に引き取られて肩身のせまい思いをしているし、おれはばあちゃんと二人っきりで心細い暮らしをしている。一人っ子というところまでが似ていておれ達はよく話が合った。
メガホンを手に大声で何やら叫んでいる体育の先生の合図で生徒が分団ごとに動きだした時だった。よりテンポの早いサイレンが鳴りだした。空襲警報だ。少なくともこの辺りの上空を敵機が通過するという合図だった。生徒の顔がさっと緊張した。
「駆け足っ。早く家に帰れっ」
いつもなら順にしゅくしゅくと校門を出るはずが浮き足だって走りだしたものだから下級生の中にはたちまち転んで泣きだすものが出た。
「勝男、敵サン、爆弾落とすかな」
息をはずませながら均が聞く。勝男というのはおれの名だ。
「なあに、いつものように偵察するだけだよ」
健太がいう。たしかに健太のいうように空襲警報が発令されてもせいぜい一、二機のB29が飛んでくるだけだったのだ。
「そうだよ。来るとしても軍需工場や鉄道だ。ふつうの町や村には来やしないよ」
均が自分に言い聞かせるように言った。ほんとにその言葉どおり敵機の影は見えないままやがて警報解除のサイレンが鳴った。