「退避、たいひーっ」
とようやく先生は笛をピッと鳴らし、手振りで解散するように示した。おれ達はわれ先にと教室へ向かった。他の組の生徒はもう校庭に降りて行っていた。
「おれ体操服のまま帰るわ」
均が並んで走りながら言った。おれもそうするという意味でうなずいた。ランドセルをつかむと又校庭へと走らなければならなかった。全員集合しないと下校出来ないので一クラスでもおくれると、そのクラスの皆が先生からタコを釣られるおそれがあったのだ。なぜそういうのか分からないが、タコを釣るというのは制裁をするということで、要するにおれ達がビンタを食らうということなんだ。
「おい」
「早く行こうぜ」
おれと均は猛烈な勢いで階段をかけおりた。校庭には分団ごとに分かれた全校生徒が並んでいる。おれたちは第九分団の列へすべりこんだ。偶然だけれどおれも均も校区としては外れに近い北町の隣組だったからだ。
「おそかったじゃないか」
クラスは違うが同じ第九分団の河内健太が前を向いたまま言った。健太も六年生で家がごく近かったのだ。均とおれと健太、この三人は成績も似たりよったりで内心では猛烈にせり合っていた。三人とも誰にもいわなかつたが理科系の大学まで進むつもりだつたからである。理科系だと徴兵猶予があるという噂を聞いていたからだ。
お国のために死ぬのが嫌なんじゃない。軍隊がいやなんだ。いつか父さんに面会に行った時、何でもないことでバンバンぶんなぐられている兵隊さんを見てぞっとしたんだ。それは学校の先生が生徒のほほを打つ時のような生やさしいものじゃなかった。おれは敵と戦って死ぬのは怖くないけど徴兵検査をうけて軍隊に入れられるのだけはかんべんしてほしかつたんだ。徴兵猶予になると大学で勉強している間は軍隊に入らずに済むということらしいのだ。