コの字のシェルター(防空壕)
文館輝子(ふみだて てるこ)
警戒警報のサイレンが鳴り出したのは、体操の授業が始まってしばらくしてからのことだった。軍事教練だといってほふく前進をさせられていたおれ達はいっせいに期待をこめた目つきで先生を見上げた。地面にうつぶせになって両ひじでジリジリと進んでいたので、不意にあげたあごがグランドの砂利にすれて痛かった。
去年、学童疎開が始まってから三クラスあった六年も残留組の一クラスだけになってしまっていた。体操の授業だけは別になる女子がナギナタをかついで体育館へかけこんで行くのが見えた。警報が出れば家へ帰れることになっているのだけれど、担任が指示しないのでおれ達はまだ地面にはいつくばったままだった。
この頃おれは警報が出て家へ帰っても防空壕には入らないで本ばっかり読んでいた。 ゆうべも宿題を後まわしにして山中峯太郎の「敵中横断三百里」に読みふけっていたおれは、いっこくも早く帰って続きを読みたかった。だが先生はなかなか「止めっ」とは言い出さなかった。わざとのようにほふく前進を続けさせた。
校舎の中は下級生たちが下校の支度をする音や話し声などでまるでゆれているようだった。おれたちは体操服もぬがなければならないのに。級長(学級委員)の須賀均がたまりかねてがばと半身を起こして
「せんせ。もう全員集合です」 と言った。