そういえば八が岳の山行記録をあげる前に、これを書いておかなきゃいけない。
先日のA氏、唯一A氏に感謝していることがある。
先日の山行、私は人生3回目、1年ぶりのテント泊装備の重みにひーひー言いながら霧がかった樹林帯を登っていた。
たくさんのトレランナーに軽快に抜かされながら、もくもくと登っていた私の耳に、「あの音」が聞こえてきた。
ぶーん、という重低音。
そして、視界を横切る黒と黄色の3㎝ほどの物体。
〇〇尾根よ、おまえもか。
今日はうるさいくらい虫よけスプレー吹きかけてきたのに。
内心泣きそうになりながらも、ゆっくりと登り続けるしかない。
しかし乾徳山の時と違って今日はテント装備である。
機敏には動けない。
頭の中で、出発前におさらいしてきたスズメバチへの対処法のページをめくる。
手で払ったりすると攻撃してくるので逆効果。じっと動かないで通り過ぎるのを待つ。
よし。
ということで立ち止まってすーはー息を整えていた。
しかし「ぶーん」は遠くにいくどころか近くを周回しはじめた。
そして私の右足近くに来たと思ったら。。。、ぴたり、と右ふくらはぎに着陸。
え、と思う間もなかった。
一瞬、頭が真っ白になった。
え?え?どういうこと?
刺すの?
おまえに何にもしてない私を刺すっていうの?
どうしたらいいの?
と思っている間に、
右足に、ちくり、と痛みが走った。
さ、さされたぁーーーーー
無言で固まりながらもこの瞬間私は大パニックになった。
スズメバチに刺された。だめだ、詰んだ。人生詰んだ。
いや、1回目はまだいいんだ。大丈夫大丈夫。落ち着け私。
しかし2回目を避けねば。
なんかまた別の「ぶーん」が聞こえて来たけどとりあえず右足にひっついてるこいつを何とかせねば。
幸い今日はポイゾンリムーバーがある。
なんたって乾徳山の翌日に石井スポーツに走っていって買ったから。
じゃなくて、早くこの右足にくっついてる奴を引きはがしてリムーバーで吸い出さねば。
と大混乱しつつ思うものの、右足のスズメバチは離れてくれない。
なんかずっとひっついてるし相変わらず足は痛い。
そうこうしているうちに、もう一匹でかいやつが「ぶーん」と至近で廻り始めた。
だめだ、こいつに刺されたらアナフィラキシーショックで私は死ぬ。
とりあえず逃げよう。
と思い、右足に奴をくっつけたまま、できる限りゆっくりした動きでそろりそろりと登り始めた。
登りがてら、そうっと右足をクマザサの中に入れて擦ってみたりしたけど、奴は離れてくれない。
もう年甲斐もなく半泣きになりそうになる。
おまえ、どんだけ私に恨み深いの??
私、なんかした?
もうだめだ。さすがにこんだけ長い時間刺されたら死ぬかも。
と思い、最期の力を振り絞ってそうっとカメラを取り出し、奴を撮影することにした。
ダイイングメッセージとして。
おとうさん、おかあさん、犯人はこいつです。

震える手でシャッターを押した後、しばらく歩き続けていたら奴はぶーん、と飛び立っていった。
やった、いなくなった。
しかし足は刺されたと思しき箇所に血の玉が浮いていて、気が遠くなりそうになった。
血の玉が落ちた後。

だめだ。めっちゃ刺されてる。いや、知ってたけど。
早くポイゾンリムーバーを、とザックの腰ベルトからリムーバーを出したものの、また別の「ぶーん」が聞こえてきて憤死しそうになった。
ほんと、ちょっといい加減にしてくれません?
なんでそこら辺を軽快に走っているノースリーブ短パンのトレランナーさん達に行かず、長そでタイツ手袋という重装備の私に来るんですかね?
黒っぽいからか?そういうことか?
と必死で登り「ぶーん」が聞こえなくなったところで、サポートタイツの裾をまくり上げて、必死でポイゾンリムーバーを操作した。
めっちゃ血出てくる。
必死の形相で右ふくらはぎをまくり上げてリムーバーを操作している私の横を、「何やってんのこの人。。。」みたいな目で見ながら(被害妄想)トレランナーが通り過ぎていく。
不公平だ。なんで私ばかり。
血(?)の色が薄くなってきたところで、また周りで「ぶーん」が聞こえ始めたので、そろそろ出発することにした。
幸い、呼吸困難にはなってない。
初めてスズメバチに刺された、という衝撃でどきどきするけど、体はどこもおかしなところはない。
ということはやっぱり1回目は大丈夫なのか。
あと1回刺されなければ大丈夫。
このまま登るか。引き返すか。
地図でみると、〇〇小屋のテン場まではまだ半分以上もある。
しかし、「引き返す」のはなしだな、とすぐに選択肢を捨てた。
だってこんだけ心身消耗してまたあのスズメバチゾーンに突っこんで第2撃くらったらほんと死ぬ。
この前の乾徳山も上に行ったらハチはいなくなった。上に行くしかない。
と決心してそのまま登山続行。
・・・そして例のA氏と出会うことになる。
小屋に向かう途中、ふと思った。
今んとこ体調なんともないけど、万が一私が途中で倒れて痙攣しだしたりしたら吃驚させてしまうだろうから、この人に私の死因(仮)を話しておいたほうがいいだろう。
「そういえばさっきスズメバチに刺されたんです」
こちらは決死の覚悟のつもりなのにA氏の表情は疑わし気。
「えーほんと?アブかブユじゃない?俺刺されたことあるけどスズメバチ結構痛いよ?そんな普通に歩けないよ?」
・・・そうだろうか。アブはもっとちっちゃいかフワフワ毛が生えてる奴だし、ブユはもっとちっちゃいよね。
テントを張り終えてカメラを見せると、A氏は写真を拡大したと思ったら即座に
「これ、ハチじゃないよ。アブかブユだよ」
「でも3~4㎝で黄色と黒のアブなんています?」
「わかんないけど、ハチじゃないよ。こんな可愛い顔してないよ」
私のことを執拗に追いかけまわし死の針を撃ち込んだ奴の顔が可愛いだと?
とむっとしたものの、ふと、改めてとった写真を凝視して、あれ?と頭にはてなマークが浮かんだ。

スズメバチってこんな口してたっけ??
なんかもっとこう、獲物を一撃必殺みたいなすごい牙というか顎じゃなかったっけ?
こいつの口は蝶のようだ。(つまり針が一本しかない)
なんか目の前の暗闇に一筋の光が見えた気がした。
慌てて携帯を取り出すとドコモ様様、電波が立つので、スズメバチ、と検索。
真正面からの図を眺めてみた。
。。。うん、やっぱり違う気がする。目の大きさが全然違う。
そしてやっぱり、口が違う。。。
じゃあこれは。。。アブなのか?
と、「アブ」と検索してみると、目の大きさといい口の一本針といい、確かにアブっぽい。
私を刺したのは。。。スズメバチじゃなかった!!
と確信した途端、お通夜みたいだった頭の中がさーっと晴れて嬉しさのあまり飛び上がりそうになった。
私、死んだと思ったけど、死んでなかった!
「おっしゃる通りスズメバチじゃなかったです」
「でしょー」
という会話をやり取りしてから、しみじみと生の実感(大げさ)を噛み締めた。
。。。まぁこんなアホだからA氏に「同行しなきゃ」と思わせてしまったのかもしれないな。
という反省はあるが、ありがとうございますA氏。
このアブハチ事件についてはあなたにほんとうに120%感謝しています。
帰宅して検索すると、私を刺した奴はどうやらアカウシアブという種類っぽい。
スズメバチと並べてみた写真があったけど、見た目も大きさもスズメバチにそっくり。
おそらく、乾徳山で襲われた奴もアカウシアブだったのだろう。
「スズメバチロード」などと不名誉な呼び方をしてしまってごめんなさい乾徳山。
ひどい濡れ衣でした。
単に私があほだっただけです。
のろのろ歩いていたせいか、この2日間、アカウシアブにやられたところを含めて両足10か所以上はアブやブユにさされて足がひどいことになった。
しかし登山道で私を脅かすあいつがスズメバチではないと知ることができただけでものすごく心が軽くなった。。。。
私は何を恐れていたのだろう。。。
奴などおそるるに足りなかったというのに。。
というかアブの分際で人間様をこんなに怖がらせよって絶対許さん。
*勝手に勘違いして怖がっていたのは私。
今までの私の恐怖を返して欲しい。
次見つけたらそんな怒りも込めてお前たちの嫌いなハッカスプレーを遠慮なく噴射してやる。

































