海と山、時々きもの -77ページ目

海と山、時々きもの

ダイビング記録+きもの試行錯誤の覚書。…だったはずなのに最近は山歩きの記録簿と化しつつある。
23年秋から山のない国に滞在中のため山歩き頻度は低下中。

そういえば八が岳の山行記録をあげる前に、これを書いておかなきゃいけない。

先日のA氏、唯一A氏に感謝していることがある。

先日の山行、私は人生3回目、1年ぶりのテント泊装備の重みにひーひー言いながら霧がかった樹林帯を登っていた。
たくさんのトレランナーに軽快に抜かされながら、もくもくと登っていた私の耳に、「あの音」が聞こえてきた。

ぶーん、という重低音。

そして、視界を横切る黒と黄色の3㎝ほどの物体。

〇〇尾根よ、おまえもか。

今日はうるさいくらい虫よけスプレー吹きかけてきたのに。

内心泣きそうになりながらも、ゆっくりと登り続けるしかない。
しかし乾徳山の時と違って今日はテント装備である。

機敏には動けない。

頭の中で、出発前におさらいしてきたスズメバチへの対処法のページをめくる。

手で払ったりすると攻撃してくるので逆効果。じっと動かないで通り過ぎるのを待つ。

よし。

ということで立ち止まってすーはー息を整えていた。

しかし「ぶーん」は遠くにいくどころか近くを周回しはじめた。
そして私の右足近くに来たと思ったら。。。、ぴたり、と右ふくらはぎに着陸。
え、と思う間もなかった。

一瞬、頭が真っ白になった。

え?え?どういうこと?

刺すの?

おまえに何にもしてない私を刺すっていうの?

どうしたらいいの?

と思っている間に、

右足に、ちくり、と痛みが走った。

さ、さされたぁーーーーー

無言で固まりながらもこの瞬間私は大パニックになった。

スズメバチに刺された。だめだ、詰んだ。人生詰んだ。

いや、1回目はまだいいんだ。大丈夫大丈夫。落ち着け私。

しかし2回目を避けねば。

なんかまた別の「ぶーん」が聞こえて来たけどとりあえず右足にひっついてるこいつを何とかせねば。

幸い今日はポイゾンリムーバーがある。
なんたって乾徳山の翌日に石井スポーツに走っていって買ったから。

じゃなくて、早くこの右足にくっついてる奴を引きはがしてリムーバーで吸い出さねば。

と大混乱しつつ思うものの、右足のスズメバチは離れてくれない。

なんかずっとひっついてるし相変わらず足は痛い。

そうこうしているうちに、もう一匹でかいやつが「ぶーん」と至近で廻り始めた。

だめだ、こいつに刺されたらアナフィラキシーショックで私は死ぬ。

とりあえず逃げよう。

と思い、右足に奴をくっつけたまま、できる限りゆっくりした動きでそろりそろりと登り始めた。

登りがてら、そうっと右足をクマザサの中に入れて擦ってみたりしたけど、奴は離れてくれない。

もう年甲斐もなく半泣きになりそうになる。

おまえ、どんだけ私に恨み深いの??

私、なんかした?

もうだめだ。さすがにこんだけ長い時間刺されたら死ぬかも。

と思い、最期の力を振り絞ってそうっとカメラを取り出し、奴を撮影することにした。

ダイイングメッセージとして。

おとうさん、おかあさん、犯人はこいつです。


震える手でシャッターを押した後、しばらく歩き続けていたら奴はぶーん、と飛び立っていった。

やった、いなくなった。

しかし足は刺されたと思しき箇所に血の玉が浮いていて、気が遠くなりそうになった。
血の玉が落ちた後。


だめだ。めっちゃ刺されてる。いや、知ってたけど。

早くポイゾンリムーバーを、とザックの腰ベルトからリムーバーを出したものの、また別の「ぶーん」が聞こえてきて憤死しそうになった。

ほんと、ちょっといい加減にしてくれません?

なんでそこら辺を軽快に走っているノースリーブ短パンのトレランナーさん達に行かず、長そでタイツ手袋という重装備の私に来るんですかね?

黒っぽいからか?そういうことか?

と必死で登り「ぶーん」が聞こえなくなったところで、サポートタイツの裾をまくり上げて、必死でポイゾンリムーバーを操作した。

めっちゃ血出てくる。

必死の形相で右ふくらはぎをまくり上げてリムーバーを操作している私の横を、「何やってんのこの人。。。」みたいな目で見ながら(被害妄想)トレランナーが通り過ぎていく。

不公平だ。なんで私ばかり。

血(?)の色が薄くなってきたところで、また周りで「ぶーん」が聞こえ始めたので、そろそろ出発することにした。
幸い、呼吸困難にはなってない。
初めてスズメバチに刺された、という衝撃でどきどきするけど、体はどこもおかしなところはない。
ということはやっぱり1回目は大丈夫なのか。
あと1回刺されなければ大丈夫。

このまま登るか。引き返すか。

地図でみると、〇〇小屋のテン場まではまだ半分以上もある。

しかし、「引き返す」のはなしだな、とすぐに選択肢を捨てた。

だってこんだけ心身消耗してまたあのスズメバチゾーンに突っこんで第2撃くらったらほんと死ぬ。

この前の乾徳山も上に行ったらハチはいなくなった。上に行くしかない。

と決心してそのまま登山続行。

・・・そして例のA氏と出会うことになる。

小屋に向かう途中、ふと思った。
今んとこ体調なんともないけど、万が一私が途中で倒れて痙攣しだしたりしたら吃驚させてしまうだろうから、この人に私の死因(仮)を話しておいたほうがいいだろう。

「そういえばさっきスズメバチに刺されたんです」

こちらは決死の覚悟のつもりなのにA氏の表情は疑わし気。

「えーほんと?アブかブユじゃない?俺刺されたことあるけどスズメバチ結構痛いよ?そんな普通に歩けないよ?」

・・・そうだろうか。アブはもっとちっちゃいかフワフワ毛が生えてる奴だし、ブユはもっとちっちゃいよね。

テントを張り終えてカメラを見せると、A氏は写真を拡大したと思ったら即座に

「これ、ハチじゃないよ。アブかブユだよ」
「でも3~4㎝で黄色と黒のアブなんています?」
「わかんないけど、ハチじゃないよ。こんな可愛い顔してないよ」

私のことを執拗に追いかけまわし死の針を撃ち込んだ奴の顔が可愛いだと?

とむっとしたものの、ふと、改めてとった写真を凝視して、あれ?と頭にはてなマークが浮かんだ。


スズメバチってこんな口してたっけ??

なんかもっとこう、獲物を一撃必殺みたいなすごい牙というか顎じゃなかったっけ?

こいつの口は蝶のようだ。(つまり針が一本しかない)

なんか目の前の暗闇に一筋の光が見えた気がした。

慌てて携帯を取り出すとドコモ様様、電波が立つので、スズメバチ、と検索。

真正面からの図を眺めてみた。

。。。うん、やっぱり違う気がする。目の大きさが全然違う。
そしてやっぱり、口が違う。。。

じゃあこれは。。。アブなのか?

と、「アブ」と検索してみると、目の大きさといい口の一本針といい、確かにアブっぽい。

私を刺したのは。。。スズメバチじゃなかった!!

と確信した途端、お通夜みたいだった頭の中がさーっと晴れて嬉しさのあまり飛び上がりそうになった。

私、死んだと思ったけど、死んでなかった!

「おっしゃる通りスズメバチじゃなかったです」
「でしょー」

という会話をやり取りしてから、しみじみと生の実感(大げさ)を噛み締めた。


。。。まぁこんなアホだからA氏に「同行しなきゃ」と思わせてしまったのかもしれないな。


という反省はあるが、ありがとうございますA氏。
このアブハチ事件についてはあなたにほんとうに120%感謝しています。

帰宅して検索すると、私を刺した奴はどうやらアカウシアブという種類っぽい。
スズメバチと並べてみた写真があったけど、見た目も大きさもスズメバチにそっくり。

おそらく、乾徳山で襲われた奴もアカウシアブだったのだろう。

「スズメバチロード」などと不名誉な呼び方をしてしまってごめんなさい乾徳山。
ひどい濡れ衣でした。
単に私があほだっただけです。

のろのろ歩いていたせいか、この2日間、アカウシアブにやられたところを含めて両足10か所以上はアブやブユにさされて足がひどいことになった。
しかし登山道で私を脅かすあいつがスズメバチではないと知ることができただけでものすごく心が軽くなった。。。。

私は何を恐れていたのだろう。。。
奴などおそるるに足りなかったというのに。。

というかアブの分際で人間様をこんなに怖がらせよって絶対許さん。
*勝手に勘違いして怖がっていたのは私。
今までの私の恐怖を返して欲しい。
次見つけたらそんな怒りも込めてお前たちの嫌いなハッカスプレーを遠慮なく噴射してやる。

 

この週末は白駒池から入り、1泊2日で天狗岳・硫黄岳・横岳・赤岳・阿弥陀岳を縦走してきた。


2日間とも天気にも恵まれ、冬にお世話になった赤岳天望荘にもまた泊まることができたし、何より、

1人最高だな、

と思った。

というわけで最高だった山行の記録。

企画したのは2週間ほど前。
先週のテント泊に続く山行なので少し軽め(山小屋泊まり)がいいな、と思ったときに、すぐに浮かんできたのはこの景色だった。


硫黄岳山頂から眺めた硫黄ー横ー赤ー阿弥陀の風景は最高of最高だった。
あれをもう一回みたい。
八が岳は冬しか行ったことないけど夏はどんな風景になるんだろう?
冬は断念したけど、今は夏だし、せっかくだから冬に諦めたルート(横岳→地蔵の頭)をやってみたい。
そしてあわよくば天望荘に泊まってあの美しい日の出を見て、赤岳に登って阿弥陀岳まで行ってしまいたい。

冬ではなく夏なので、技術的には「十分に難易度を落とした山選び」をしていると言えるはずだ。
阿弥陀岳は冬はしょっちゅう人が亡くなっている印象があるが、夏の事故はあまり聞かない。検索しても出なかった。
(疲労とか転倒とかそういうのは除く)。
赤岳天望荘は今夏は個室対応であることは確認済。
先週のテン泊の時と同様、「東京都民ですが泊ることはできますか?」もやった。
というわけで1日目の宿泊地は赤岳天望荘に決定。

で、どこから入るか。

これは少し悩んだ。
冬のように渋の湯から入って黒百合ヒュッテに泊まりたい。
でも今回土日しかないので1日目は天望荘まで行きたい。とすると渋の湯入りも黒百合ヒュッテ入りもあきらめざるを得ない。
しかし天狗岳から硫黄岳に続くあの稜線は歩きたい。
というわけでアルペン号を活用し、「白駒池」からスタートすることにした。

アルペン号が白駒池に着くのは朝6時。
6時半にスタートするとして、考えている一日目のコースと「山と高原地図」のコースタイムを使って試算するとこういう風になる。

6時30分 白駒池駐車場スタート
6時45分 白駒荘
7時20分 高見石小屋
8時50分 中山
9時15分 中山峠
10時35分 東天狗岳 5分休憩
11時10分 根石岳
11時25分 根石岳山荘 10分トイレ休憩
11時55分 夏沢峠
12時55分 硫黄岳 20分お昼休憩
13時35分 硫黄岳山荘 10分トイレ休憩
14時35分 奥の院
15時25分 赤岳天望荘 到着


経由する根石岳山荘や硫黄岳山荘が全て空いてるかやトイレ利用可能かはウェブ上で確認した。

夏に15時25分到着は少し遅い。
が、これまでの経験からすると夏の山小屋泊装備なら、コースタイムよりは早く歩けるので、15時前には着くだろう。という予想。
それでもぎりだけど。。。

。。と思っていたところ先週の山行でコースタイム6時間40分のところを8時間40分もかかってしまったことに衝撃を受け、この予想は甘すぎるのではないか、自分の今の体力は相当落ちているのではないか、という疑念にとらわれ始める。
さらに、山行日が近づいてくるにつれ、なんと、当日の天気予報に15時頃から雷マークが入りだした。

雷のことを考えると余裕をもって14時には天望荘についていたい。
しかしそんなに早く歩けるだろうか。。。コースタイム6時間40分のところ8時間40分かかった私が。。。
冬は黒百合ヒュッテから硫黄岳まで4時間かかった。冬にそれなら夏はもう少し早く行けると思うけど。。。でもコースタイム6時間40分の(以下略)。

仕方ない。
根石岳からの下りと夏沢峠までの下りでめっちゃ時間を稼いで、硫黄岳での休憩をもう少し短くしよう。

というわけで白駒池までのあるぺん号(ダブルシート)を予約。

天気予報は二転三転し、雷マークが消えた日もあれば、18時に雷マークがつく時もある、という状態。
如何せん不安定ということなので、午後早めに天望荘に着きたい。

1日目は19時過ぎには就寝し、23時頃、人の話し声で目が覚めたものの、そのまままた爆睡、3時頃に自然に目が覚めた。

隣のA氏のテントはごそごそ音がするので、既に起きている気配。
これで私が起き出したら完全にかち合うなぁ、とげんなりしたものの、外の天気を確認するには起きて動き出すしかない。

さっと確認してさっと戻ろう、と思った焦りが裏目に出たのかテントの前を開けるときに布地をジッパーに絡めてしまいA氏に外から助けられる、という痛恨のミスを犯す。
朝一で既にもう心折れそう。

とどんよりしながら外を見たら、思いっきりガスガスでご来光は期待できそうにもない。

「これは何も見えないし危ないよ」
「。。。そうですねー」
「5時頃にするか」
「。。。ソウデスネー」

なんかもう一緒に行く流れになってるが、もう私にこの流れを変えるだけのエネルギーはない。

だってもうさんざん昨日から言った。

私は1人が好きなんだと。
わたしのことは気にせずどうぞご自由にしてください、と。

それ以上戦うエネルギーは私に残っていない。

というわけでのろのろと朝食を作り身支度を整え、6時前にテントから出た。
隣のA氏はすっかり装備を整えている。
先に行けばいいのにな、と思いながら靴紐を結んでいると、A氏がちらっと時計に目をやり「6時か」と一言。

この時点で私のいらいらは外気圏を突破し宇宙に飛び出した。

私は、待ってくれなんて一言も言ってないのに、自由にしてくれと昨日からさんざん言ってるのに、なんで私のせいで出発が遅くなったみたいな雰囲気醸し出してんの?

私は一緒になんて行きたくないんだよ。
頼むから私を1人にして。

と思ったもののチキンハートなんでそんなこと言えるはずもなく「遅くなっちゃってすみません~」と反射で返してしまう我が身に対する憤怒で憤死しそうになる。

登り始めたものの、昨日からばてばての私はすぐに引き離される。
別に急ごうとも思わないので、休み休み写真を撮りつつ登っていく。
A氏はそのまま先に行ってくれてばよいものの、少し行くと霧の中からA氏が現れて待っているので「あの、ほんとに先に行ってください」「いやいや、別に急がないしねー」というやり取りを何度繰り返しただろうか。

いつの間にか山頂到達。
辺りはガスガスで何も見えない。

なんかいつもに比べて感動が薄いような気もしつつ、それでもやっぱり嬉しい。頑張った。標高差2200mを登り切ったぞ私。。。
と感動に浸りかけていた私を「写真撮ろうか?」というA氏の声が現実に引き戻した。

写真?御冗談を。
私はいつも山登るときに自分の写真なんか撮らない。美しい風景に異物が入るのが嫌だから。

「いえ、いいです。写真嫌いなので」
「えーせっかくだから記念に一緒に撮ろうよ」
「・・・」

私写真嫌いなんだ、って今言ったよね?


とぶちきれそうになるも、年季の入ったチキンハートの私には「嫌です」との一言が言えず、仕方なしにA氏と一緒に写真に納まる。

「写真送るよ。Lineしてる?」

あ、そう来たか。
まぁいいけど。Lineなんて返信しなければいいだけ。

しばらく山頂でガスが晴れるのを待っていたけど、その間もいらいらは募っていく。

ほんとなら私は1人でここにいるはずだった。
何にも考えずに頭からっぽにしてガスに囲まれた周りを眺めたり、ガスの間からちらちら見える青空に心躍らせたりしてるはずだった。
なのに何で私の隣には見知らぬおっさんがまるで同行者のような顔で座っているんだ?
私は1人で登り1人で山頂を味わいたかった。
この人のせいで、そして断ることができない弱い自分の心のせいで、達成感が半減だ。


ぼんやりとそんなことを思いつつ待ってみたが、ガスは一向に晴れる気配がない。
10分程して諦めて、降りることにした。

テント場に帰りついてみると、私たちのテントと後2組以外は既に撤収している。
しかしまだ9時過ぎ。この時間ならまだ急ぐ必要はないだろう。とりあえず先にA氏に降りてもらいたい。

「私ちょっと休憩していきますんでお先にどうぞ」
「いや、俺も休憩していくよ。急がないしね」
「・・・」

そうか、じゃあ私は休憩するふりして先に撤収するか、とテントの中に入り、ごそごそとザックの中に荷物をまとめ外に出てみると、なんとA氏は既にフライシートを外し始めている。

休憩するんじゃなかったでしたっけ???

もたもたと片付けている私の横でA氏はさっさと荷物をまとめ終え、なぜかそのままつったっている。

確実に、待たれている。

「降りた後どうするの?」
「バスがあるんで(大嘘)バス乗ります」
「バスがあるったってこんなところそう何本もないでしょう~」

で、何?あなたの車に乗れって?

この時点で私のいらいらは月に向かって飛び始めた。

「時間合わなかったらタクシー呼ぶんで大丈夫ですよ~」と言いながらのろのろ荷造りするが、A氏はまだ待っている。

「あの、ほんと先行ってください。私ももう終わりますし、私下りは早いので追いつきますんで」

と2回くらい繰り返したらようやくA氏は「あなた下りは早そうだからじゃあ先に行ってるね」と立ち上がってくれた。

ありがとうございます!!

下りは早いなんてのは大嘘である。
というか普段は早いけど今日は荷物も多いし疲れてるしどうせタクシー呼ぶし、ゆっくり下る気満々。

荷物をまとめながら、1日ぶりの自由に感涙に咽びそうになった。

1人最高。

心なしか目の前の〇〇山も昨日より輝いてみえる。
荷物をまとめ終わった後しばらく〇〇山をのんびり堪能した後、出発。

前日よりはガスもましで、美しい景色が見えている。
こういう景色も1人でみると何倍も美しい。

ゆっくりのんびり写真を撮りつつ降りて半分程まで来たころだろうか、ふと、前方に休憩している人影が見える。

A氏だ。

認識した瞬間テンションが垂直落下した。

あんなに時間を空けたのに。。。ゆっくり降りたのに。。。待ってたのか。

と思った瞬間、

 

私のいらいらはついに月に着陸した。

もう繕う気持ちが失せた。
どうせこの後お別れである。相手の機嫌をうかがう必要もない。

一緒に歩き始めて数分もたたないうちに立ち止まり、

「私ちょっとほんとに疲れてきたんでここで休憩していきます。どうぞ先に行ってください」

と道端にザックを放り出して言うと、A氏は一瞬「え?」という顔になったものの、「追いつきますんで。行ってください」と繰り返すと、察したのか、やや引き気味の笑顔で「わかったよ。ごゆっくり~」と降りていった。

さよならA氏。

ザックの重みのせいかそれとも昨日の疲れのせいか日々のトレーニング不足のせいかA氏によるストレスのせいかその後の下山はなんか非常に疲れたものの、なんとかコースタイム内で下山。

A氏には一度も会わなかったし、あの様子だと察してくれていると思うが、念のため、登山口の河原で足を冷やしながらLineを打っておく。

「かなりかかりそうですのでどうぞ先にお帰り下さい。今回はいろいろ有難うございました」

これで「待ってます」、と来たらどうしようかと思ったが、A氏からは「ありがとうございました」的なメッセージが来てほっとした。

A氏と万が一にも再び会わないようにするためぼんやりと河原で時間を潰しながら、いろいろ考えた。


私は登山の一期一会の出会いは嫌いではない。

休憩中や山小屋で話しかけられれば話返すし、会話を楽しいと思うことももちろんある。

しかしそれはあくまで、「一期一会」だと思ってるからだ。

1人で山に登るのは1人でいたいから、1人で山の景色を眺めたいからだ。

A氏だって単独行なのに、なぜそうじゃないのだろう。なぜ私と同行しようなどと思ったのだろう。

ナンパなどではないだろうから、想像するに、長い山行がつらくなったので一緒に登る誰かを探し求めていたのだろうか。。

しかしそれなら、1人で山に登るべきじゃない。


・・・というわけで、私は全ての「登山に出会いを求める人」に言いたい。

相手も自分と同じように出会いを求めていると思わないでください。

1人でいたいから1人で来ている人間もいるんです。

相手が笑顔で相槌を打っていたからといって、その相手があなたの同行を喜んでいると思わないでください。

相手はただあなたとのトラブルを避けたいがために笑顔を作っている場合もあります。

「1人にしてください」ときっぱり言えないチキンハートな人間もいることをご理解下さい。

あなたが親切心からと思っている申し出も、相手にとっては迷惑以外の何物でもない場合があります。

あなたがどれだけ天下のイケメン/絶世の美女であろうと関係ありません。1人でいたい人間にとってはウザいだけです。

繰り返しますが、1人でいたいから1人で山に登っているんです。

あなたが1人でいたくないからといって他人を巻き込まないでください。

1人でいたくないなら山友と登って下さい。

それができないなら、そもそも登らないでください。



…とぼんやり30分程考えたところでさすがにもうA氏もいないだろうと思って駐車場まで戻り、タクシーを呼んだ。

タクシーに乗ったら、安堵のせいか、打って変わって今度は反省の気持ちがこみあげてきた。。

A氏はよい人そうではあった。
たぶん山頂やテント場で2、3、言葉を交わすだけだったら、普通に良い人として記憶に残っていただろう。
私があまりにもへろへろだから、A氏はみかねて「ついていてやらないと」などと思ったのかもしれない。
そう思わせた責任は自分の実力を見誤った登山をした私にある。A氏を責める権利は私にはない。。。
A氏にいらいらする私はなんて心が狭いんだ。。。


と思っていたところでLineの通知が鳴ったので見ると、「写真を送ります」とのA氏からのメッセージとともに、ずらっと写真が表示された。

頂上で一緒にうつっているA氏とひきつり気味の私の写真。
それはまだいい。

しかしその他。

鎖場を登っている私。
頂上の標識を撮ってる私。
ぼさぼさの頭でテント場でぼーっとコーヒーを飲んでいる私。
食事の用意をしている私。
梯子を下りている私。
…etc.


盗撮やろこれ。

私はっきりと言ったよね?「写真嫌いだ」と。

何勝手に撮ってくれてんの???

かくして、私のいらいらは月面を発射し、火星に向けて飛び立った。

「出会い」というのはナンパに限らず、お友達やその場限りの同行も含めて、男→女に限らず、女→男とか、男→男とか女→女とか全てひっくるめて、登山に「出会い」を求める全ての人に言いたい。

相手も自分と同じように出会いを求めていると思わないでください。

特に。

単独で来てる人間は1人が好きで1人になりたいから来ているんじゃないか、という想像力を働かせてください。


今回の三連休はとある尾根を登ってテント泊してきたけど、思わぬ出会いもあってなんとも消化不良に終わった。
なんか登った気がしないので、レコは後日書くこととして、代わりにこの壮年の男性A氏のことを書いておく。

あ、ちなみに小屋には東京都民であることを伝えてテント泊していいかは確認した。
「居住地で制限はしてません。感染症対策はしっかりお願いします」と言って頂いたので行くことにした。
他にも登山に行っていいかどうか自分なりにいろいろと考えて悩んだ末に行こうと決心したのだけど、それはまた今度書く。

A氏と出会ったのは〇〇尾根を半分過ぎたあたりだろうか。
最初の挨拶の時点ではそれほど違和感なく、普通の登山者同士がすれ違う際にかわす挨拶程度で、休んでいたA氏が立ち上がり、私はそこで少し休憩することにした。
装備から、A氏もテント泊だとわかった。

短い休憩を終えて行くと先に行っていたはずのA氏が立ち止まっていて、「珍しい花が咲いている」と指さすので、「ああ、〇〇草じゃないですかね」と言いながら、成り行き上一緒に歩きだすことになった。
この時点でもうばてばてだった私はしばらく行くとまた息が切れだしたので、どうぞお先に、と言ってその場で休憩しようとしたらA氏も立ち止まるので少し戸惑った。

「あの、私休んでいくのでお先に」
「いやぁ俺もばてちゃって。ゆっくり行くよ」
「・・・」

?と思ったものの、ばてばてでうまい返しも思いつかず、ぽつぽつ話しかけられたら答えているうちに荷物を背負って登山再開。当然A氏も再開。

しばらく行って私がまた立ち止まるとA氏も立ち止まる。

「あの、ほんとお先にどうぞ。私遅いと思うので」
「テント場予約してるし大丈夫でしょ。1人がいいっていうなら別だけど俺も一緒に行くよ」
「・・・」

1人がいいんだよ。

察してよ。


といらっとしたものの、あまりに疲れていて、相手を怒らせず断るうまい断り方が思いつかなかった。

こういう場で「1人がいいんです」と毅然と言える人間に私はなりたい。。。
しかし残念なことにこちとら年季の入ったチキンハートである。もちろん言えない。
今晩同じテント場にいるのであろうから、相手の気分を害するようなことは避けたい。

ちなみにこの時点まで私はフェースカバーして目から下は隠れているのでナンパ目的ではないと思う&仮に顔が全部見えていたとしてもゴリラ愛好家以外はナンパしようとは思わないだろう。

なので、なぜA氏が私と同行しようと思ったのかは今もって謎。


A氏は驚くほどの体力でさっさか先に行くのでそのまま先に行ってくれればいいものの、いなくなったかな、と思えば先に行くとまたA氏が休んでいたり立ち止まったりしている、の繰り返し。

会話もぽつぽつとする。
A氏は1泊2日でピストンだというので、私は体力が許せば〇〇尾根を経由して〇〇山まで行こうと思っているという話をした。
話しかけたら私も話返すのでA氏は私が会話を楽しんでいると思ったのかもしれない。

違うから。

これから一緒のテン場に泊まるどんな奴かわからない奴とトラブルになりたくないだけだから。



その後も「休んでいるので先に行って下さい」と10回は言ったかと思うけど、最初に私が「1人がいいんです」と言わなかったせいか、私と同じタイミングで休憩し、歩き出す。
明らかに自分の能力というか体力を見誤りもうばてばてのへろへろになっている所へこのA氏への対応も加わり、いらいらが成層圏に到達しそうになってきたころ、ようやく、小屋が見えて思わず「やった」と快哉を叫んでしまった。
テンションがあがった勢いのまま、A氏に対して「おかげさまで何とか無事につきました~」とおべっかもつかってしまった。
これは今思い返せばよくなかったと思う。反省している。

しかしここでもうA氏とはおさらばである。

テント場は2つあるのだから、私はA氏が行かない方のテント場に行こう。

…と思っていたものの、5分もしないうちに私の心はぽっきり折れてしまった。
小屋から第一テント場に行く5分がもう倒れそうなレベルできつい。

もう第2テント場までさらに登る元気はない。無理。

と思い第1テント場を見渡すと、第1テント場に張れるのは後3張程度。
(小屋の人は密を避けるために一つのテント場に10張を上限にしていると仰っていた。感謝)

〇〇山を目の前にする眺めのいい場所に張れるのは後2張。

眺めを取るか。A氏との距離を取るか。

しばし悶々とした上で、せっかく1700mも登ってきたのだから。という思いが上回ってしまい、眺めの良い方、つまりA氏の隣のスペースに立てることにしてしまった。。。

まぁ仕方ない。

テントが隣だとしても別にこれ以上かかわらなければ、、、と思いながらテントを設営していたものの、A氏は当初他のテントと同じように眺めに背を向けて入口を設営していたのに、私が眺めの方角に入口を設営し始めているのを見て何を思ったか自分もそちらに入口を向け替えた。

この時点で私のいらいらは成層圏の中間に到達した。

そしてようやくマイテントちゃんを設営してコーヒーを入れていた私のところへA氏が地図を広げて近づいてくる。

「〇〇尾根ってどこ?」
「ここです」
「〇時間かかるよ。明日何時に出発するの?」
「3時半とかですかね」
「ここほんと行くの??これきっついよー。標高差〇〇mを降りてまた登り返すんだよ?大丈夫?」
「そうですよねーちょっと休んで体力の回復度合いを見て決めます」

ほんとうは、この登りの自分のバテっぷりを見て〇〇尾根から〇〇山縦走は明らかに身の程知らずな挑戦であることがわかったので今回は諦めようと思っていた。
が、それを言ってしまうと、なんだか「じゃあ明日一緒におりよっか」となる気がしたので、死んでも言うまいと思っていた。

では、昼寝しまーす、と引っ込もうとした私に向かってA氏曰く、

「いつ決めるの?縦走するか降りるかでテント撤収する時間も変わってくるでしょ」

・・・私がいつテント撤収するかがあなたに関係ありましたっけ???

といらっとしたものの「夕飯の時くらいですかね。では昼寝しますんで失礼しまーす」とテントの中に引っ込んで嫌なことは寝て忘れることにした。

1時間ほど寝た後に自然と目が覚めた。

外に出るとA氏に出会う率は高いが、せっかくなので眺めを楽しみたい。
ごそごそやって外に出ると、A氏も外に出ている。
並んで3m程度の距離なので、自然と話しかけられることになる。

一度引っ込んで夕飯の準備に再度ててくると、A氏も出てくる。
隣のテントなので音は筒抜けである。

くっそー。こんなことなら眺めを犠牲にしてもう少し離れたところに。。。いやでもやっぱ眺め大事。

夕飯の準備をしていると、A氏が地図を広げてまた近づいてくる。

「〇〇尾根ほんとに行くの?」
「はい、行けたら行きたいです」

と答えたら、想像を絶する言葉が降ってきた。


「じゃあ俺も一緒に行くよ」

・・・は?

「心配で1人で行かせられないよ」

この時点で私のいらいらは成層圏をぶち破り外気圏に突入した。

一緒に行くって何事?
心配で1人で行かせられないって何??


「心配で1人で行かせられない」っていうセリフはうまく説明できないけど私のいろいろなものを逆なでした。

そりゃ確かに登りの私は見てて笑っちゃうくらいへろへろでしたでしょう。見てて不安を与えたのなら大変申し訳ありません。
しかしなんで数時間前に知り合った赤の他人のあなたが私の心配をするんでしょうか?いらないんですけど?その心配、熨斗つけてお返しします。
私とあなたは何の関係もないので、あなたに心配されるいわれはありませんし、ましてや私の行程に同行される謂れもありません。
そしてあなたがついてきて私がより安全になるというその自信はどこから来るのでしょうか?
身元の知れない数時間前に知り合っただけの男性のあなたといきなり2人きりで縦走するほうが我が身が心配なんですが。


ていうか絶対嫌なんですけど。

1人でゆっくり山の景色を楽しみたいからテン泊縦走したいと思ってた。
誰かと一緒なんて絶対嫌だ。

というわけでこの時、「〇〇尾根縦走し〇〇山まで2泊3日テント泊縦走」計画は完全に私の中で消滅した。

「そうですね。結構ばててますし、明日山頂まで登ってから降りることにします」

と言うと、そのほうがいいよ、とA氏は満足そうに頷いた後、またもや爆弾発言を投下してきた。

「じゃあ何時頃行く?」

・・・は?

なんで私が山頂に行く時間があなたに関係あるの?
まさか一緒に登頂する流れ?

「・・・3時半くらいですかね。ご来光みたいんで」
「3時半!?暗いよ、俺は5時くらいかなぁ」
「そうですか」

よっしゃ、これで別々だな、と内心ガッツポーズをしたものの、A氏は「3時半、3時半かぁ」とぶつぶつ呟いている。

なんか嫌な気配がしたので、

「あの、ほんと私のことは気にせずどうぞご自由にされてください」

と言ったものの、

「そういわずに、せっかくなんだからさ」とのこと。

何が「せっかくなんだから」なのか1mmも理解できないんですが。

ここまで半分A氏と一緒だった。せめてここからはA氏と別行動したい。

ちなみに来る途中の会話の中で、私はA氏に対しては「登山はいつも単独です。誘われることもありますが、1人が好きなんで」と3回くらい言ったんだけど、A氏の記憶からは消失している様子。

ほんとは明日の朝はガスの予報なので遅めに行きたいんだけど、遅め(5時頃)に出発するとA氏と出発がかち合うというリスクがある。

それよりさらに遅いと山頂まで往復4時間もかかるから、テントを撤収する時間が遅くなり小屋に迷惑がかかる。
どうしよう。。。天気予報よ外れろ、と思いながら1日目、就寝。

道満尾根を降りきってこの徳和集落の眺めを見たときに、ものすごく安心して力抜けそうになった。

なんとか生還したわ。。。ハチから。
よく頑張ったわ私。。。主にハチに対して。



連休2日目、天気予報はいまいちだったけどなんとかお昼までは曇りが持ちそうだったので、前から行きたかった乾徳山行を決行。

8時30分の塩山駅発のバスに乗って9時過ぎに乾徳山登山口バス停。
塩山駅のバス停ではおまわりさんが立ってて、ちょっとどきりとした。
どこから来たんですか、と言われるかなと思っていたら「どこへ行かれるんですか?」と訊かれたので、「乾徳山です」と答えたら、「登山者の皆様へ」と書かれたティッシュをもらう。

この日は隣の大菩薩嶺行のバスも含めたら20名くらいの登山者がいたと思うけど、皆に声かけてティッシュを配っていた。お疲れ様です。。。

バスはほぼ座席が埋まるくらいの人が乗ったけど、乾徳山登山口で降りたのは私ともう一人の女性だけ。あまりに少なくて吃驚した。
降りた途端に雨がぽつぽつと来て少しテンションが下がる。午後まで持たなかったか。。。

私がとろとろ準備運動したり装備を整えている間にもう一人の女性はさっと出発してしまい、そして頂上直下の鳳岩ですれ違うまでこの後一度も姿を見かけなかった。
すごいスピードだ。。。

今日のルートはレコでもよく見た八の字型を計画。
最初川沿いに上がっていった方の登山口から入り、銀晶水、錦晶水を抜けて四辻、そこから扇平経由で頂上を目指し、ぐるっと回って四辻まで戻り、来たルートを戻る。
道満尾根経由で降りてもいいけど、道満尾根はつまらない、と書いてる人も結構いるので、どちらで降りるかはその時決めよう。。。

最初の登山口までが意外に遠い。
登山口の標識見逃したけどこれもう登山口入ってるのかな?と思いきや

 

登山口まで0.1㎞の標識があってがっくりきた。


ここから熊鈴を鳴らしながらスタート。


誰もいない。


うっすら霧がかかってて幻想的。ていうかほんと誰もいない。


いつ倒れたのか、倒木が道をふさいでる箇所が何か所かあった。これは下をくぐるべきか迷って上の方にあがり抜けた。


…が、今思えばかなりリスキーな行動だった。
この山で登山道から外れるのやめたほうがいいと思う。何故なら奴の家を踏む可能性があるから。

ほんと誰もいなくて人の気配すらなく、この辺りまではそれがとても快適で、苔むした岩と霧のコンビに「屋久島みたい」と行ったことのない屋久島を妄想して1人テンション高く歩いていた。
西黒尾根以来、3週間ぶりの登山はきつくてぜえはあ言いながらも、写真を撮りついでに休憩しつつ、楽しくのろのろと進んでた。

 

が。

この写真を撮り終わってさぁまた進もうかな、と思った私の耳に「ブーン」という重低音が聞こえてきた。

そして視界をちらりと横切る黄色と暗色の物体。

ぎょっとして慌てて歩き始めたけど「ブーン」はしつこくついてくる。

きちんと目視できないけど、なんかすごい顔の近くまで迫ってくる。

怖い。

これってもしかしなくても奴なのでは?
こんな大きい黄色と黒の虫って他にいた?
奴しかいないよね?
一番山で出会っちゃいけない奴。


防虫ネット被ってるけど、もしこれが「奴」だった場合にはネットなんか意味ないし。
長そで&タイツ&グローブで素肌は晒していないけど甲冑ではないので「奴」の針の前には意味もないだろう。

ちょっと離れて音が聞こえなくなってほっとして立ち止まるとすぐまた「ブーン」が近づいてくる。

止まらなくても歩いてるだけで音が近づいてくる。
きちんと目視できないけどめっちゃ大きい。

怖くて、ぜえはあしてるけど全然休めない。

ちょっとでも奴のいなさそうな所で立ち止まって一息いれようとするとすぐ「ブーン」と来る、の繰り返し。

あまりにも追いかけられるものだからだんだん疲れてきて、ふと、(これは奴ではなくてなんか別の虫なんじゃ。。。奴はカチカチ言うらしいけどそんな音はしないし)と一縷の望みにかけてきちんと姿をみてみようと思ってできるだけ身を縮めながら立ち止まってみた。

と、しばらく辺りを「ブーン」とやってた音源が1mも離れていない前方の岩に着地。

。。。

はい、どうみてもスズメバチです。

ちょっと身を動かすとまた「ぶーん」と飛び始めたので泣きそうな気持で横をそそくさ通り抜けた。

なんで追いかけてくるの?服が暗い色だから?
でも黒じゃないよ。帽子とサポートタイツは黒だけど。
ダークグレーとネイビーだよ。あ、ほぼ一緒か。
いやでも明るい色とか無理だし。レゴブロックになった気持ちになるからきっと。
こんなにネクラなのに明るい色とか着るの無理だから。落ち着かなくて登山どころじゃなくなるから。
あーでもこんなことなら上くらい白とか明るい水色とかそういうのにすればよかった、


と激しく後悔。

そしてポイズンリムーバーを持ってない己を激しく後悔。

どうしよう。「危なくなさそうな山」を選んだつもりだったのに。
ハチに刺されたらもうなすすべがない。。。歩ければ全然いいんだけど、救助要請とかになってしまったら恐怖でしかない。
ていうかこのご時世で救助要請するくらいならハチに刺されて死ぬわ。

でもそれでも「東京都●●区の30代女性が山梨県乾徳山登山道でハチに刺され。。。」みたいなニュースは流されるんだろうな。
最悪だ。

もう絶対ポイゾンリムーバー買う。東京帰ったら石井スポーツに走っていってすぐ買う。

と必死で歩き続けて、もはや写真など撮る余裕があるはずもない。

なのでこの間の写真は一枚もなく、次にようやく一息つけたのが四辻っていう。。


登る前はここで高原ヒュッテでトイレ休憩、などと思っていたけど、今は奴の棲息してそうなエリアから脱出したい気持ちでいっぱいで、このまま進み続けることに決定。
もう追いかけてこないよね、と思っていたけど、四辻から扇平の方に進みかけたらまた「ぶーん」という音が聞こえてきて、あまりのいらいらに、もうザックを振り回して奴を一撃粉砕しようかと血迷いかけた。
…いけないいけない。ハチだって別に生活圏をパトロールしてるだけなんだから。

 

そそくさと通り過ぎて開けた場所に出たら、植生が変わったせいでハチの住む場所もなくなったのか?音がしなくなってようやくほっと一息つけた。

幻想的。


あ。



鹿を発見して、ハチに追い回されて荒んだ心がちょっと癒された。

ここで先行していたおじさん(行きに出会ったのはこのおじさんのパーティと、錦晶水の辺りにいた3人組と頂上辺りですれ違った2人だけ)が鹿の注意を惹きたかったのかいきなり「Yo-ho!」みたいな雄たけびを上げて私はびっくりしたけど、鹿はちょっと顔を上げただけでひたすらもぐもぐ。
大丈夫か野生。

鹿の横を通り過ぎ、月見岩の脇を抜ける。
頂上までは1時間、の表示。ここまでで2時間11分だった。帰りの16時08分の最終バスにはできれば間に合いたいけど、何とか行けそう。。

 

再び樹林帯に入ってまた「ぶーん」が聞こえるかと思ってどきどきしたけど、高度の問題なのか、このあたりには巣がないだけなのか、ここから上のゾーンではハチに悩まされることはなくなった。

 

しかしリアルタイムでそんなこと知るわけもないので、「出るかも」という緊張感は続く。
加えて、私が初心者だからかもしれないけど、乾徳山、うっかりすると道を間違えてしまいそうで、それも緊張感を上乗せした。
私は疲れると俯きがちになってしまうんだけど、この山でそれをしてると道を見失いそう。
一応、いろんな人が迷い込んだんだろうな、と思われるところにはロープ張ったりしてくれているんだけど、うっかりすると道を逸れそうで、必死で顔をあげながらピンクリボンを確認しつつ進んだ。

緊張感のせいか、大好きな岩場もあまり楽しめない。
濡れてるし、なんか滑る気がする。。。

 

これがかの有名な髭剃り岩か。。。
よく写真で挟まってる人々をみるけど、単独行のアラフォーが1人挟まってきゃっきゃっしてても不気味なだけなので、スルー。
というかハチの緊張感でそれどころじゃない。


そしてこの高度感。。。


あれ?乾徳山ってこんな怖い山だった?
私が緊張してるせい?なんか、足滑らせたらつるん、と行きそうで怖い。。。

なんか、意外にもスパルタというか、→のままついてったらそのまま中空に飛び出してしまいそうな箇所もある。
一歩先は中空の、端っこぎりぎりを回り込んで登山道が続いてるのを、岩に抱き着くような姿勢でぷるぷるしながらへっぴり腰になって回り込む。。。人がいなくてよかった。


普段ならこういうの大好物なはずなんだけどな。。。
なんか今日は「怖い」が先にきてしまう。。。

 

怖い。。。


再び樹林帯(ハチ怖い)に入ったけど、ようやく「迂回路」の看板が見えてほっとした。あれが鳳岩であれを登り切ったら頂上のはず。。。


ここで、行きのバスで一緒だった女の人が上から降りてきてすれ違ったんだけど、すれ違いがてら「ハチすごかったですよね?」と話しかけられて嬉しさのあまりとび上がりそうになった。

私以外にもいた!ハチ被害者が!

「全然休めなかったですよね?」「ねー。ずっとついてきましたよね?」と少し話しただけだったけど、恐怖(?)を共感したことによってちょっと元気を取り戻した。

というわけで改めてこんにちは鳳岩。


いろんなレコでクラックに手と足をねじこんで、と書いてあったけど、結構苦戦した
クラックに足先ねじこんで、後は腕力であがった印象。絶対これ正しい登り方じゃない。。。
。。。私やっぱりクライミングの才能ないんだな。うん、クライミングはやめておこう。

途中の岩に斜めに切れ目が入ってる辺りで右に移動してきちんと両足つけることができてほっとする。
今日はハチのせいなのか何なのか全体的に「怖い」という思いが脳裏に張り付いててこの鳳岩もおっかなびっくりだったんだけど、振り返ってのこの景色で一瞬でテンションがあがった。


諦めてた富士まで微かに見える。

めちゃめちゃ嬉しい。

しばらく富士を堪能した後に、最後の登りをよっこらしょと上がって(これもかなり足の置き場に困ってへっぴり腰だったと思う)、ようやく頂上到達。


富士の側は結構雲が厚かったけど、反対側は割と雲が切れていて、緑が目に眩しい。


頂上にいたのは4人組の若者1組だけ。この人達も途中で降りてしまって、しばらくは1人でこの景色を堪能した。


お昼のアンパンをもぐもぐやりながら、出そうで出ない富士山を待つ。

もう少し待ってみたかったけど、帰りのバスの時間もあるし午後から雨予報だしで、20分程で諦めて頂上を後にした。

帰りは迂回路から降りる。
ほんとは高原ヒュッテの横に出る道で行きたかったんだけど、迂回路を降りた後道がよくわからなくて、結局来た道を引き返すことになり、鎖場でまたてこずって時間をロスした。
。。。私鎖場好きなのに。悲しい。

扇平でさっきの鹿がいるかな、と思ったけど姿見当たらず。
少しがっかりしてたら、高原ヒュッテの近くまで降りてきたところでまたもぐもぐしてた。


よう食べるね君。


四辻まで戻ってきて、いったん高原ヒュッテまで行ってトイレ休憩しようかな、と思ったけどなんかもうハチのせいで半ば心折れかけてて一刻も早く下山したかったので、結局そのまま行くことにする。

登る前は、「道満尾根はつまらない」というレコを幾つか読んでたせいで来た道を引き返す方に気持ちが傾いてたけど、今は違う。

もう道満尾根一択で。

往路のあのスズメバチストリートを引き返すとかまじ無理。

というわけで四辻から道満尾根方面に向かう。
道満尾根方面に向かう直前で壮年のおじさまとすれ違ってちょっと会話する。
岩を一回も登らない迂回路がある、と聞いて、やはり私は帰り道間違ったんだな、と知った。
地図を改めて見返してみると、なるほど、頂上で鳳岩とは反対側に黒金山の方に少し進んだら道があったんだな。。。
そういえばレコにもそんなこと書いてあったような気がする。。。駄目だ、すっかり頭から抜けてる。こうして人は遭難するんだな。。。

ちなみに、帰り道はカミナリ岩のあたりで頂上にいた4人組を抜かしたのと、登ってくる人にこのおじさま含め2人あったの以外は、誰にも会わなかった。

道満尾根方面。普段ならテンションあがるはずの風景だけど、ハチのせいで疲れ果ててるせいか、(なんか怖い)という気しかわかない。


ハチが寄ってくるのはもしかして熊鈴の音が原因なんじゃ?と思い扇平から上は熊鈴を止めてたんだけど、さすがにこの人気のなさと視界のなさだと物陰から飛び出した熊さんと少女漫画みたいな出会いを果たす可能性もあると思って、ここから熊鈴オン。
しかしたまたまなのか、道満尾根には棲息してはいないのか、この後一度も「ブーン」が聞こえることはなかった。

足元が悪いせいか、早くおりたいと思ってるせいか、あんまり休憩しなくてふらふらしてるせいか、樹林帯の中で2回くらい滑ってしりもちついた。。。痛い。
ちょっとこれ以上人の心折るのやめて欲しい。。。

ちょっとどろっとなりながら道満山到着。

みんなにつまらないとかしょぼいとか言われて可哀そうに道満山。。。
ここまで「ブーン」が一度も聞こえないだけで、私にとって君は素晴らしい山だよ道満山。。。

と感謝の気持ちを抱えつつ下山続行。
一瞬だけ、この二股に分かれてるところでどちらに進むか迷った。→は直進だけど、地図みるとここで右に曲がるべきな気がする。。。
*後からきちんと地図を見返したらそんなことはなかったけどこの時は何故かそんな気がした。

5分程地図を見ながら迷ったけど結果直進。

曇りなせいか、深い木立のせいか、まだ3時にもなってないのにどんよりと暗くて、少し怖かった。

結局山頂での20分以外殆ど休憩しないまま、5時間半で登山口に到着。
なんかもう、「安堵した」以外の言葉が見当たらない。


そして車道をしばらく降りて人里を見たときほんと、あまりにほっとして力抜けそうになった。

よかった。。。「東京都●●区の女性が乾徳山でスズメバチに刺されて死亡」とかならなくてほんとよかった。

憧れだったはずの乾徳山なのに、本日の山行の感想、それに尽きる。。。
岩場の感触をじっくり楽しむためにまた行きたいけど。。。もう夏行くのは嫌だ。

晴れてなおかつハチのいない季節に行きたい。
 

 

*後日追記*

別記事に書いた通り、この時乾徳山でぶんぶんしていたのは恐らくアカウシアブでスズメバチではなかったと思われる。

「スズメバチストリート」なんて濡れ衣を着せてごめんなさい、乾徳山。。。