海と山、時々きもの -72ページ目

海と山、時々きもの

ダイビング記録+きもの試行錯誤の覚書。…だったはずなのに最近は山歩きの記録簿と化しつつある。
23年秋から山のない国に滞在中のため山歩き頻度は低下中。

今回の山行の反省点、自分なりに纏めると、まず何よりも

元々の計画が無謀だったこと、

があるだろう。

行動時間が11時間、というのは、夏山でもやったことはない。
なのに「下りメインだから」と自分の体力を過信してそれを冬山でやろうとした。
「余裕をもたせて見積もった」などと書いているけど、このぎちぎちの行動計画のどこに余裕があるつもりだったんだ、と今ならツッコミたい。
黒百合ヒュッテの到着時間をぎりぎりの16時に設定している時点で、悪い見本みたいな計画だと思う。

さらに悪い点は、

寝坊+睡眠不足+お腹の調子が悪いというコンディションの悪さにもかかわらず、当初計画を決行しようとしたこと。

もともとぎりぎりの計画だったのに出発が1時間遅れてなお当初計画を通そうとする…これも駄目の見本みたいな行動だと思う。
以前自分でも、「寝られなくても夏山は登れるけど冬山は無理」と書いていたにもかかわらず。

素直に、赤岳と横岳を諦めて赤岩の頭から硫黄岳に登ればよかった。
そうしたら余裕をもって硫黄岳からの美しい景色を楽しめただろう。

もう1つ悪い点。

未熟。

二十三夜峰で躓いた事については1週間たつ今も凹んでいる。
誰も躓いていない、二十三夜峰「なんか」で。

膝上まで沈みこむくらい、雪山に慣れた人にとっては当たり前だろう。
勇気を出して進めばよかった。
なのに私は踏み抜いて足が抜けなくなったことに怖気づいて進めなかった。
そんな奴見たことない。。。

もし自分のルートファインディング能力に自信があれば、あそこをぐいぐい進めたんだろう。
私を抜かしていった人のように。
「ここは進んでもいいところだ」と判断することができなかった。それが情けなくて悔しい。

最後に、これは反省というか、「こうできたのでは」と後悔していることがある。

やまびこ荘の前でビバークできたのでは、ということ。

そうしたら黒百合ヒュッテに直前キャンセルのご迷惑をかけることは避けられなかったとしても、本沢温泉に直前予約のご迷惑をかけることは避けられた。

装備はたぶん十分だった。
冷静に考えれば、建物の影に入れば風は防げるし、気温も氷点下になるとはいえそんなに寒くない予報なんだから、ビバークできる状態だったと思う。
ものすごく疲労していたたから多少体力は削られたかもしれないけど、死にはしなかったと思う。
でも、それにチャレンジする勇気がなかった。
そして何より、山で夜中に一人になるということが怖かった。
だから、自分にとって楽な方に逃げてしまった。

…というのが反省点。

総括すると、「私は覚悟以上にダメダメ人間で調子に乗っていた」ってことだろうか。

体力作りは課題であるとして、ビバークや雪道のルートファインディング能力を身に着けたい。。。

諦めた後携帯を取り出して、それでもしばらく迷ったけど、決心して黒百合ヒュッテに電話。


今夏沢峠にいること、今の自分の体力ではとてもたどり着けないと思うので、大変申し訳ないけど宿泊をキャンセルさせて欲しいこと、キャンセル料はお支払いしたいので、もし可能であれば明日直接伺ってお支払いしたいこと、を伝えた。
黒百合ヒュッテの人には、キャンセル料は気にしないでください、安全が第一です、と言って頂いたけど、申し訳なさと自己嫌悪で泣きそうになった。
お客さん私一人だったのに。。。ご迷惑をおかけしてしまった。
こんなことになるとは。。。

まさかこんなことになるとは、と茫然としながらも、ここで、やまびこ荘の前でビバークするか、それともどこかに下るか、の二択を迫られた。
今は寒くはない。まだ着てないフリースもある。サバイバルシートもツェルトも持ってる。何ならカイロも後2個ある。
建物の影に入れば寒さと風の心配はしなくてもよさそう。
でもここで一晩越せるかというと自信がない。真っ暗な山の中で一人。…怖い。正直すごく怖い。
そして今はビバークできると思っているけど、夜になって耐えられないほど寒くなったりしたらどうしよう。
樹林帯だから安全とは限らない。去年根石岳の樹林帯で遭難して亡くなった人もいた。
今年もこの前天狗の奥庭でビバークした2人のうち1人は亡くなっている。

…だめだ、そんな賭けはできない。

根石岳山荘まではとても登れない。
オーレン小屋は下りで一番近いけど閉まっている。
開いている小屋で下りで一番近いのは本沢温泉。

今年はコロナでどこも宿泊は事前予約必須なのはわかっている。
仮に予約必須じゃなくともこんな3時近くになって電話しても迷惑なだけだ。
でもお願いするしかない。。。と思って本沢温泉に電話。

急で本当に申し訳ないけれども、今晩泊めてもらえないだろうか、と言ったところ「今年は事前予約必須なんですよ」と予想通りの返答。
ですよね。。。
どうしよう、無理をおして再度お願いするか。。。でもご迷惑をおかけするのは。。。いや、そんなこと言っている場合か。。。と葛藤していると、「どういう状況ですか?」と問われたので正直に、今日黒百合ヒュッテに泊まろうと思っていたけど、今夏沢峠で、もう、自分の体力だと根石岳と天狗岳を超えられそうにないこと、登るのが厳しいので、下りで行ける本沢温泉に泊めて頂けないか、と事情をお話してお願いした。
すると、「それは危険ですね」との返答。
本沢温泉にご迷惑をかけないよう、他に選択肢はないかと思って下りで行ける一番近い出口はないか、と聞いたところ、さらに3時間歩いた稲子湯ならタクシーが呼べるとのこと。


この疲れ切った状態でこれから暗くなるなか初めての道を3時間は。。。無理だ。
 

「どうしますか?」と言われて、本当に申し訳ないけど今晩泊めて頂きたい、とお願いした。
いいですよ、と言っていただけて、座り込みそうになるくらいほっとした。
食事つきにしますか、と聞かれ、急な予約にそんな選択肢まで頂けて大変ありがたかったけど、一瞬迷った。

食糧はある。正直疲れすぎてお腹もすいてない。
今から食事を用意するのはお手数になるのではないかと思う一方、以前山友に「山小屋で素泊まりは山小屋にとって得にならないのでは?」と聞いたのも頭をよぎって迷い、結局、食事付きでもしお願いできるなら大変ありがたい、とお願いした。
これはどっちが正解だったのかいまだによくわからない。

すごいきちんとした食事を出して頂いて、こんな短期間で、ご迷惑になったような気もする。。。

やまびこ荘の方まで少し引き返し、分岐手前で地図をみる。
yamapのアプリだと55分、山と高原地図だと40分か。。。基本下りっぽいのが唯一の救い。
人が多いのかトレースははっきりしている。根石岳方面へ向かう道よりもはっきり踏み固められているので、苦しくはない。
道も基本下り。
しばらく歩いて野天風呂の分岐の後にようやく本沢温泉の立派な建物が見えたときは、心底ほっとした。

これは翌日撮った本沢温泉。

 

そしてお風呂。

お客は私一人だったので貸し切りで入ることができた。
心身ともにぼろんちょだったけど、この日ここでお風呂に入ることができて、少し生き返ったような気がする。

翌日は本当は黒百合ヒュッテに行ってお詫びしたかったけど、朝起きたときにもうどうしても疲れている自分を自覚したので、素直に稲子湯まで下ることにした。
しらびそ小屋までのちょっとの登り返しにも立ち止まり青息吐息、という態だったので、結果正しかったと思う。
8時前に本沢温泉を出発し、しらびそ小屋前を経由して11時頃に稲子湯に下山。
黒百合ヒュッテには再度、行けません、というお詫びの電話をした。

 


稲子湯から予約してたタクシーに乗りながら、山行を反芻する。

いつものような終わった達成感や開放感のない山行だった。
なんというか。。。未だに現実感がないような気がした。
強いていうなら、結構凹んでいた。
誰も躓いていない二十三夜峰でもたついてしまったこと、おそらくそのせいで体力を消耗し、あんなにふらふらになってしまったこと、そのせいで宿泊予定の山小屋を直前キャンセルしてしまったこと。。。
何度も何度も後悔した。

反省点は別途纏めるとして、何はともあれ主張したいのは、アポなし直前という迷惑なお願いにもかかわらず泊めて頂き、丁寧に対応していただいた本沢温泉さんと、「安全が第一ですから」と何度も言ってくれた黒百合ヒュッテさん。

お詫びと感謝しかない。

予想外に出だしから躓いてしまったけど、「核心部」と呼ばれる部分はまだこれから。

 

日ノ岳のルンゼは岩沿いに上がってから上部をトラバース、というレコを見ていたけど、さっき降りてきた(そしてまた登り返した)人も、私を抜いていった人も、下をトラバースしてから上がってる。
そっちのルートの方が鎖が出ていて安心だし、もう再び踏み抜き地獄には陥りたくないので、有難くそのトレースをなぞった。


核心部ときいていた日ノ岳ルンゼは雪が少ないせいか怖くはない。
ただ、少し登るだけでかなり息が切れる。
そして焦る。

 

これが鉾岳のトラバース(左側に降りる所)の入り口。



そして左側に降りるところ。
この日は雪は殆どなかった。夏道とほぼ一緒。

 

三点支持で降りればいいだけ。特に怖くはない。


そして鉾岳のトラバース部分。
ここも直近のレコで見ていた通り殆ど雪がない。ほぼ夏道。


特に苦もなく通過。

が、ここから登って遠くに横岳の奥の院を見てちょっと絶望した。
遠い。こんな遠かったっけ。。。奥の院の手前にピーク一つあるし。。。
登り返しが結構ある。

予定よりだいぶ遅れ始めていることに気持ちは焦るのに体がついていかない。
私を追い抜かしていった人はもう姿も見えない。


ようやく横岳山頂についた頃にはほっとした。

 

遠くにみえる雲みたいな稜線がきれいだ。

しかしそんなにゆっくりもしていられない。
時計を確認すると12時30分。

予定では12時に硫黄岳を出発している予定だった。だいぶ遅れている。
内心非常に焦るも、努めて心を落ち着けて時間を計算しなおす。

横岳頂上から硫黄岳まではコースタイムは1時間程度。
1時半までに硫黄岳につけば、前回黒百合ヒュッテから硫黄岳までは3時間程度で来られているんだから、逆の下りメインなら何とかギリギリ16時までには行けるかも。。。とこの時はまだそんな甘いことを考えていた。

時間がないので、休憩もせずに出発。
出発してすぐ、ここが3つ目の核心部のナイフリッジだな、と思った。


ナイフリッジ突き当りまでいくと右手に梯子があるのでそれを降りる。

梯子を下りて振り返ったところ。


降りて、たぶんこれが「左手に降りるかヤセ尾根を進むか」の分かれ道なのだな、と思った。


鎖が出ているので迷わず左手を選択。
左手(茅野側)の横ばいは怖くはない。



その後の右手(山梨側)の鎖は半分くらい雪に埋まっていて、少し緊張はした。
が、これも二十三夜峰の、自分の足元がないかもしれない、という怖さに比べればはるかにましだった。



ナイフリッジを終えて、一息つく。
ここからは巻ける。。。巻くぞ、と意気込んで数歩歩きだしたところで、左側からの風に押されてよろけて、この時はじめて、違和感を感じた。

風が重い。
別に立っていられる程度の風、少しよろめく程度の風なのに、風を横から受けながら歩くのがすごくつらい。

ようやく、もしかして自分は思ってるより相当疲れているのでは?と気づく。

雪が殆どない所をアイゼンで歩くのもつらい。バランスを取ろうとしてよろける。そのことによってさらに消耗する。
外してしまいたいけど、それも怖い。

数歩歩いてはよろめいて立ち止まり、を繰り返しながら進もうとしたけど、息切れが酷くなり、ちょっとこれはやばいのでは、という気持ちが大きくなり、風を盾にできる岩陰に逃げ込んで腰を下ろしてしばし休憩。

なんでこんな疲れているんだ私。。。もうへろへろ、という言葉がぴったりなほどに疲れている。

エネルギー切れかな。。。とお湯を飲んで行動食を食べたら少し元気が出たのでまた岩陰を出て進み始めるけど、進み始めた途端風のせいか今までの疲労のせいなのかすぐに体が重くなって息が切れ、足が進まなくなる。
そしてまた岩陰に逃げ込んで腰を下ろして休憩。

これを繰り返しながら硫黄岳山荘を通過し、前を見てちょっと絶望した。

登りだ。

しかもここからは風から逃げられるような岩場がない。
いや、知ってたけど。

ここから動きたくない。
でも行くしかない。硫黄岳山頂に行く以外にエスケープルートなんてないんだから。
そして今相当予定より遅れているんだから。早くいかないと。。。

でも今のこの状態で、これをコースタイムの20分で行ける気がしない。
これはもう16時には着かない、早めに山小屋へ連絡したほうがいい、と黒百合ヒュッテに電話。
もしかしたら17時過ぎくらいになるかも、と言うと「その時間はもう暗くなっているのでお気をつけて」「夕食は準備しても大丈夫ですか?」ときかれ、お願いします、と答えると「今日お客さんはおひとりなので、夕食時間は少し遅くなっても大丈夫です」と言っていただく。
私一人なのか。。。それは絶対に行かねば。

覚悟して進み始めるも、またすぐ息が切れる。10歩も進めない。
風に吹かれると寒くはないけど、踏ん張ろうとするので体力は消費される。

目の前には山頂まで点々と続くケルンが見える。
風を遮るものはケルンしかない。

ケルンの影で休みながら山頂を目指そう。
と思うものの、ケルンとケルンの間を移動するにも、一息にいけない。
数歩歩く毎に風を背に立ち止まり息を整え、ふらふらになりながら進み、ケルンの影に座り込んで数分休憩、を繰り返しながら進む。

たぶん3つ目くらいのケルンだったと思うけど、倒れるように座り込んで、あれ、これやばくないか?と思い至った。

この調子で一体いつになったら山頂に着くんだ?
というか着くのか?
なんでこんなに疲れてるんだ私。
なんかもう体が重くて重くて動きたくない。

そして、なんで自分がこんなに疲れているのか全く理解できなかった。
赤岳鉱泉から赤岳ー横岳ー硫黄岳を来ただけなのに。
夏は白駒池から天望荘まで一息に行けたのに。

今回その半分の距離も来ていない、しかも夏と違って今日は下り。
なんでだ。

二十三夜峰で雪に嵌ってじたばたしたことでそんなに体力を消費したのか?
今の自分の状況が信じられない。

もう動きたくない。
でも予報ではこれから風はさらに強くなる。
こんだけ疲れてふらふらなのに、ここに長くとどまってもっと風が強くなったら大丈夫なのか?

…いや、だめだろう。

あんまり考えたくなかった、「遭難」という文字が頭をちらつく。
それくらい、かつてないくらいに疲弊していた。

でもとにかく行くしかない。

と必死でケルンの影からはい出て、ふらふらと進み、立ち止まり、また進み、立ち止まって。。。と繰り返してケルンの影に逃げ込む。

を数回繰り返しただろうか。

ようやく山頂が見えてほっとしたけど、もうきちんと写真を撮る気力も残っておらず、写真は休みがてらのこれと、


これだけ。


ここからの景色をあれだけ楽しみにしていたのに、全く楽しむ余裕などなかった。
というか記憶にない。。。

時間は、後から時計のレコを確認すると、たぶん奥の院からここまで本来コースタイム50分のところを1時間20分かけてきている。
この時点で2時近く、ということを認識はしていたと思う。

この時の私はただひたすら焦っていた。
早く降りなければ。黒百合ヒュッテまで行かなければ。
何より風の当たらない所に行きたくて、無人の山頂をそそくさと通過する。

硫黄岳からの下りで少しは巻けるか、と思ったけど、雪が少なくて足元が露出しているせいか、それとも自分がふらふらなせいか、これも数歩進んでは立ち止まり、の繰り返しになった。
得意なはずの下りでこんな状態になるとは、相当疲れているんだな、と実感する。

ふらふらになりながらなんとかやまびこ荘の辺りまで降りてきて、ようやく風からは逃れられてほっとした。

しかし目の前に続く根石山荘方面への登りを見て、再度絶望する。

これ超えられるのかな。。。


いやしかし超えるしかない。。。
でも超えたら根石岳山荘手前から根石岳、天狗岳までまたあの強烈な吹き曝しに合うんだよね。進めるの?特に根石岳から天狗岳って風を遮るものがない。
でも行かなかったら黒百合ヒュッテにご迷惑をかける。お客さん私しかいないのに。夕食もお願いします、って言ってしまった。待ってくれてる。
でもこれ登れるの?
もし根石岳山荘まで行ってみて、それ以上進めそうになかったら、ご迷惑だとはわかってるけど宿泊をお願いできるかもしれない。。。今日は営業しているはず。。。
いや、その前にこれ登れるの??

と自問自答を繰り返した。
この時点で3時近くなっていたと思う(レコを記録する余裕がなく記憶もあやふや)

登れるのか、という不安と、行かなければ黒百合ヒュッテにご迷惑がかかる、という不安の間で揺れ動いた。

そして、行くしかない、と決意して、根石岳の方に向けて数歩進んだところで、ずぶずぶと深みにはまり、すぐに立ち止まってしまった。
二十三夜峰のように膝まで埋まるような深みではない。

でもふくらはぎ半分くらいは埋まる。進むのに体力がいる。

…こんな足元でしかも登りで、根石山荘までの道を登り切れるのだろうか。
登り切れたとして、その後吹き曝しの根石岳から天狗岳までのアップダウンに耐えきれるのか。
こんなにふらふらなのに。

…無理だ。

とここで、ようやく、諦めた。

これ以上進んだら危険だ。
情けないけど、自信がない。

結局明け方になってようやくうとうとして、でもすぐにアラームの音に起こされた。
2日続けての睡眠不足、結構つらい。


引き続きお腹の調子も悪く、食欲はなかったものの朝食のあんぱんをなんとか全部押し込む。
押し込んだ後はもう一度布団にもぐり、眠たくて寒くて、なかなか布団から出られず、気づけば出立予定時間だった5時30分をオーバー。
慌てて荷造りして、ストッパーを2錠飲んで、出発。
この時点で本来の出発予定時間を1時間過ぎていた。

支度をしながら、非常に迷った。
2日連続でたぶん2,3時間しか寝られていないし、お腹の調子がいつになく悪い。
夜中トイレに起きるレベルで悪い。
そして既に1時間遅刻している。
自分の体のコンディションは非常に悪い。

これはもう、赤岩の頭から硫黄岳に直に登るべきなのでは?

でも、とも思う。
今日は気象条件は最高だ。
そんなに何度も有休はとれないし、うまく好天にあたるとも限らない。
要するに、冬の赤岳ー横岳をやってみる機会はそうそうなくて、今回を逃すと次のチャンスはいつになるかわからない。

悶々と悩みながら支度して、結局「やっぱり赤―横ー硫黄を縦走しよう」と決意した。
出発時間の遅れは1時間。余裕もって予定組んでるので硫黄から下りで巻けばまだ遅れを取り戻せるはず。

赤岳鉱泉にお礼を言って出発する。
SDカードの事といい、たった2人のお客さんのために素敵な夕食を用意してくれたことといい、ほんとに感謝。

外はうっすら明るい。ここからみる横岳がほんとに好きだ。


行者小屋まではストックフル活用でコースタイム通りにはいけた。
美しい阿弥陀岳を眺めるとやっぱりわくわくする。

ここでチェーンスパイクからアイゼン、ストックからピッケルに持ち替えて出発。

文三郎尾根を登るのは途中で敗退して以来。
直近のレコで「雪が少ない」と読んでたけど、ほんと雪が少ない。
階段が全部埋まらずに露出している。去年は全部雪の下だったので新鮮。


左手に横岳を眺めながら登る。


他に登る人はいないのかと思ってたけど、ずいぶん先に先行者が一人見えた。
赤岳鉱泉でもう一人いたお客さんはまだ出発していなかったので、この人はテント泊の人だろうか?すごいな。。。


硫黄岳。今日はあの先までいける。。。とこの時はぜーはーしつつも、まだわくわくしていた。


右手の阿弥陀岳も美しいし。赤岳に登る途中に見える阿弥陀岳、ほんと好き。

このグラデーションになった八が岳の晴天もほんと好き。


こちらから登ってよかった。。。とこの時はまだ思っていた。



これ、講習の時にフロントポインティングのトラバースした箇所だと思うんだけど、雪が少なすぎて何の苦も無く通過。


全体的に殆ど夏道のような道を上がり、9時30分、赤岳登頂。
予定より30分遅れ。


いつも混んでいる赤岳山頂をこの日独り占めできた喜びに浸る。


美しいけどうっとりしている余裕はない。
遅れを取り戻さなければ、とすぐに下りにかかる。
赤岳頂上山荘までの細い尾根は過去に人が落ちてるし、慎重に。。。
それを過ぎたら巻こう、と思っていたら道がこれ。

うーん。。。歩きにくい。

歩きにくくて、かといってアイゼン外すのも怖いし、苦心しながら地蔵の頭着。


30分遅れはこの時点ではまだ維持できてた。
先行者は横岳方面には向かわなかった様子。
少しどきどきしながら、横岳縦走スタート。


たぶんあの中央の大きな岩と右横の岩の間が核心部①の日ノ岳ルンゼだな、ここからだとそんなに怖くはなさそうにみえる。

と思った時の私はまだ余裕だった。

想像すらしなかった。
日ノ岳にたどり着く前の二十三夜峰でつまずくとは。

この写真中央より少し左の岩、梯子を上ってすぐのあたり。

 

ここで躓いた。

「赤岳から硫黄岳方面に向かうとき、鉾岳のトラバース以外は基本右に巻けばいい」と読んで記憶していて、この二十三夜峰も右に巻こうとした。
実際、足跡も途中までは右についてた。

が、足跡は途中で消えている。


こっちじゃないんだろうか。と思ったけど、上に足跡らしきものは見えない。
基本、鉾岳以外は右巻きでいいはずだ。行こう。

と判断して足跡のない箇所を2,3歩歩いたけどすごい深い。膝あたりまで嵌る。

…ほんとにこっちであってるんだっけ?

と不安に思いながらそのまま歩こうとしたら、いきなり左足をずぼっと膝上まで踏み抜いた。

そして、引き抜こうとした足が全く動かない。
突っ張ろうと手をついても手も沈む。

?え、何これどういうこと?

 

嫌だ。

怖い。
何だこれ怖い。

いや、大丈夫。落ち着け私。左足を掘り出せ。

と、ピッケルで左ひざ辺りの雪をがしがしと掘るとようやく足を引き抜くことができた。

ほっとする。。。すごく焦った。
怖い。。。夏道も確かこっち(赤岳方面からみて岩を右巻き)だった気がするけど、記憶違いか?
上にも足跡ついてないしな。。。こっちでいいはず。でもこのまま進めるのか?この下に道はあるのか?
確かこの下夏道があったはずだし、雪の付き方みても道あると思うんだけど。。だとしても沈み過ぎじゃないか?

怖い。

先に進んでもっと深く踏み抜いたら?

腰まで沈んだりしたら完全にスタックするぞ?

平日で前にも後ろにも人いないのにこんな所で嵌ったらどうすればいいんだ。
一番怖いのは実はこれは道ではなくて、もっと踏み抜いたらそのまま山梨側に落ちること。

いやだ、怖すぎる。

想像したらぞっとして、それ以上先に進むのを躊躇してしまった。

いろんなレコを読んだけど誰も二十三夜峰でそんな苦労していない。
例年より雪が少ないはずなのにこんなに踏み抜くのはおかしい。
ルートが違うのか?

と思って引き返して、岩を這い上ろうと努力してみた
岩が露出しているのに岩と岩の間は思うよりもずっと深くて苦労しつつ、途中まで上がったところで、今度は右足がずっぽり嵌った。

しかも岩と岩の間に変な挟まり方をしたのか抜けない。
 

再び焦る。
今度は先ほどよりも結構もがもがとし、何度か休憩しつつ何とか足を抜いたけれども、この時結構疲弊した。

…どうする。こんなところで時間を取られるとは。

こんな苦労するはずがない。おかしい。
いったん梯子の所まで戻ってみて落ち着いて足跡を探そう。
と思って戻ってみたものの、よくわからない。右のトレースは途中で消えてる。
上の方に行く岩も足跡が途中までありそうに見えるけど、上の方は岩が露出しているため足跡が見えず、わからない。
あんな上歩いたっけ?そんな怖い思いした記憶はないんだが。。

と、その辺りをうろうろしたり、またちょっと岩を登ったりしている間に、また嵌り、抜け出し、さらに疲弊した。


うろうろしている間に日ノ岳ルンゼを向こうから降りてくる人が見えて、あの人がこっちに来てくれたら正解ルートがわかるのに、などと他力本願なことを考えながら、しばらく右往左往しているうちに、完全に疲弊した。


日ノ岳の人は途中であきらめたのか登り返していくのが見える。


絶望。


だめだ、少し落ち着いて休憩しよう。だいぶ疲れてきた。
と岩に腰かけ、後ろの赤岳と富士山を眺める。


雲海を眺めながら、落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせるも、相当時間をロスしていることに内心結構焦っていた。
時計を見る余裕もなかったけど、たぶんここで1時間近くうろうろしている。
…今冷静になって考えれば、誰も苦労していない二十三夜峰にこんなにまごついている時点で私に横岳を縦走する資格なんてないんだから引き返すべきだった。

どうする、引き返すべきか、と赤岳方面を振り返ると、人が来るのが見えた。
あー。。。もう恥を忍んであの人に訊こう。

とその人が近くに来たときに思い切って「これどっちに巻けばいいか知ってますか?」と聞いてしまった。
たぶんすごくあきれられたと思う。自分でもあきれる。
それがわからないなら本来はここを進んじゃいけない。

「右に巻いて。。。」とピッケルですっすと逆S字の字を書いてその人が進んでいくので、最初ので合ってたのか、とほっとして岩を降りてその人の跡を辿った。

その人も膝くらいまで埋まっていたので、なんだ、これくらい埋まっても大丈夫なのかな、とその人の後に続こうとした途端、再び片足が埋まって抜けなくなった。

なんでだ。前の人は埋まってない場所なのに。
私が重いってことか?

と再びげんなりしながら、また一人でもがもがとし、足を掘り出し、何とか前進した。

岩を回り込んでしばらくすると普通に立って歩けるようになり、ほっとする。
結局、この人のように右に巻いても良かったようだけど、岩を巻いてから見たら岩の上部からも足跡が続いて合流していたので、上部を通ることもできたようだ。
思い切って上から行けばよかった。。。

この後から来た人のおかげでようやく二十三夜峰を抜けた。
でもこの時、雪に嵌ったり抜けだしたりを繰り返したことで、相当体力を持ってかれたのだと思う。情けないけど。
そしてこの時は時間をロスしたことに焦っていて、自分がかつてないくらい消耗したことに気づかなかった。

この日は赤岳鉱泉に行けばいいだけのゆるゆる一日目だったけど、思えばこの1日目から不吉な予兆はあったのかもしれない。

予兆1つ目は寝不足。
前日仕事は早めに切り上げたけどその後山装備を点検したりしていたら、結局睡眠時間が2時間程度しか取れなかった。

2つ目はバスの時間。
茅野駅から始発(9時25分)のバスに乗るつもりで、あずさ1号に乗った。
時間的にはちょっと早すぎるので、ほんとは茅野駅10時20分発のバスがいい。
でもこの10時20分発は時刻表上では▲印。

▲印とは注意書きによれば土日祝と年末、GWしか運行していない。

なので平日の今回は始発のに乗るしかない。
八が岳山荘でゆっくりご飯でも食べてから赤岳鉱泉に向かえばいいか、と思ってた。

。。。思ってたのに、茅野駅で待ってもバスが来る気配がない。
どういうことだろう、と思って時刻表の下の注意書きを見て、ふと▲印の下に●印があることに気づいた。
「●印:12月29日ー1月4日、4月29日~5月5日のみ毎日運航、5月8日以降の土日祝日運行」

始発のバスは●印。

・・・。

要するに冬の平日に美濃戸口に行くバスはないのか。

ていうか同じ注意書きで▲印読んでるのに何故その下の●印を読まなかった私。。。

何のために早起きしたんだ。
それならもうちょっと寝てゆっくりあずさ2号とかで来てもよかった。。。
と茫然としながらタクシーで美濃戸口へ。

まぁ、そういうこともあるよね、と気を取り直して八が岳山荘で朝食兼昼食のカレーを食べ、身支度して、出発。
で、出発間際、今回の山行の出発地点の写真を撮ろう、とわくわくしながらデジカメの電源をたちあげたところ、

「カードがありません」

の表示。

…まさかのSDカード、入れ忘れ。。。

幾ら普段デジカメあんまり使わないとはいえ、そんなミス今まで一度たりともしたことないんだけど。

これが3つ目。
いかんせんチキンハートなもので、「これ、今回の山行やめとけという神様のお告げか。。。」などとやや不安になりつつも、スタート。


平日なので前にも後にも人がいない。
天気もいいし、動物の足跡を探したり、写真を撮ったり、途中の山の神様にお参りしたりしながらのんびりと赤岳鉱泉まで上がった。


途中の迂回路はきれいに凍っていた。


これは何の足跡だろう。。。



14時過ぎに赤岳鉱泉、到着。

 

受付を済ませた後ふとダメ元で、と思って、恥を忍んで「SDカードって。。。売ってないですよね?」と聞いたら、なんと、「少しお待ちくださいね」とがさごそした後、
「ありました」と。


赤岳鉱泉様っっ

昔カメラをレンタルしていた時の名残で奇跡的に1枚だけ残っていたとのこと。
恐らく普通に販売はしていないのだろうと思われるけど、親切なことに受付の人がどこかに電話して値段を確認してくれて、売ってくれた。

奇跡。。。

これは今回の山行幸先いいかも、と一転してポジティブ思考になる単細胞な私。


部屋は談話室の手前の個室。
広めの個室で大変ありがたく、机まであるので地図を広げて明日の予習をする。


天気は素晴らしい快晴予報。風も引き続きそんなに強くない。
懸念は横岳の縦走のみ。赤岳と、硫黄ー黒百合ヒュッテ間は去年通ったルートなので不安な所はない。
よし、行ける。

…とここまではうきうきしていた。

うきうきした気持ちが一転したのが、夜。
夕ご飯に呼ばれて食堂に行ったらなんと、お客さんは私ともう一人のみ。


平日とはいえあまりの少なさに山小屋のことが心配になると同時に、この広い小屋にお客が2人きり、と知ったとたんチキンハートな私はたちまち不安になった。
私のいる棟、両隣は人いないんだ。。。もう一人のお客さんがいる大広間と私の個室は棟の端と端。。。。他には誰もいない。。。

何が不安って。。。もちろんアレ的な意味で。
いや、赤岳鉱泉でそんな話聞いたこともないし前回宿泊時にも200%快適・安眠だったんだけど、そういう問題ではなく。


怖い。
しんと静まり返った山小屋が、さっきは嬉しかったはずの広い個室が、2人きりと聞いた途端に怖く感じる。
前回赤岳鉱泉に来たときには外国の団体さんもいて非常ににぎわっていたので、余計に違和感というか心細さを感じるのかもしれない。

こういう、山で霊的なものを怖がるというのは亡くなった人に申し訳ない、と自分でも思う。
自分がもし山で亡くなっても、人に悪さなんかしないし、生きている人に怖がられたら悲しい。
でも、わかっているんだけどこの怖いと思う心は理屈では消えてくれない。。。

と心細く部屋で縮こまってたら、体調にも影響し出したのかなんだかお腹の調子がおかしくなった。
よく山でお腹を壊しがちなので薬はたくさん持ってきている。慌てて整腸薬を飲むも、なんだかずっとおかしい。

…だめだ、早く寝よう。
と布団に頭まで潜りこんだけど、シュラフカバーの中で身動きがとりにくいせいか、寒さのせいか、なかなか睡魔がやってこず、ひたすら布団の中で寝がえりをうちながら一日目、終了。