救急車の中では、懸命な救命処置が続きます。
「○○さん、ブーツが泥だらけですね、自分で脱げます?」
「あっ?はい、すいません。 今、脱ぎます! 痛!」
私の暮らす県内には、救命救急センターが10数か所あります。
心肺停止状態にある患者さんの蘇生処置を行う等、消えゆく命の最後の砦です。
そこは、ドクター、ナースを始めとして、専門教育を受けた医療スタッフたちが、
24時間体制で働く救急医療の最前線です。
救急車の中で問診を受けたわたしは、そんな救命救急センターのひとつ、
ではなく、近所の救急病院へ運ばれました。
ストレッチャーから処置台へ「1、2、3、はい!」と4,5人のスタッフによって
手際よく体を移動されるかと思いきや、今日は忙しいようで、
若いドクターと男性の看護師さんが2人で私の対応にあたります。
「○○さん、そっちに移ってもらえます?」
「あっ?はい、すいません。 今、行きます! よいしょっと、痛!」
ドクターの胸についた「研修医」の名札が気になります。
変形している左肩、バイクに挟まれた足の甲、胸と背中の痛みにじっと耐える中、
研修医の先生が、「あれ?う~ん、」と呟きながら、超音波装置でわたしの胸や腹を検査します。
素人見にもうまくいっていない気配が伝わってきます。
「内臓に損傷が無いかどうかが大事なんですよ」看護師さんがフォローしてくれました。
「肩や足は、骨折していても命に別条ないですから」
専門の教育を受けたプロ達は、時として冷徹です。
結果、CT検査まで行う必要はなさそうで、レントゲンを何枚か撮り、
左鎖骨遠位端骨折、左第3,第5中足骨骨折、肋骨骨折疑いとの診断となりました。
ほどなく、妻と娘が到着しました。
わたしは、泣きじゃくる娘の頭を撫でながら
「しばらく入院することになりそうだけど、お父さんは大丈夫だよ」とやさしく語りかけます。
「○○さん、それじゃあ帰りましょうか?」
「えっ?」
「ベッドは空いてないし、入院してもとりあえずやること無いですから」
間もなく日付が変わろうとする中、鎖骨バンドで肩を固め、
三角斤と松葉杖姿のわたしは病院を追い出されたあとにしたのでした。
(まだ続く?)