・緊張していないと言えばウソになるが、前日夜はほぼいつも通りに就寝。朝は遅めの8時に起床。この頃はなぜだか夜中と早朝にトイレに起きるクセがついていたので6時前には目が覚めているのだが、朝までだらだらとベッドで過ごすことが多かった。
・天気はあいにくの雨。着替えやら仕事道具やら日用品やらで荷物はそこそこ多い。10時過ぎにタクシーで向かえば11時までの受付には十分間に合うはずだったが、こんな日はなかなかつかまらない。結局、11時ちょっと過ぎに到着した。
・入院受付で必要書類を提出して一通り説明を受けると、早速病室に向かう。このあたりもシステマチックに進んでいくので、せっかちな自分としては無駄なストレスが溜まらず嬉しい。
・病室は5Fで泌尿器科系の癌患者が集約されている。ぱっと見た感じではやはり60歳前後の方が多かった。
・部屋は希望通りの個室。差額ベッド代は痛いが、「普通は7-9日で退院」と事前に聞いていたので大事をとって良質な睡眠確保を優先。「二度と来ないのだから多少の出費は厭わない」という願掛けじみたものも含んでいる。それに、そもそも若いのだから、少なくとも短い方の日数で退院できるでしょと高をくくっていた面もあった。
・看護師さん、薬剤師さんへの挨拶もそこそこに入院着への着替えを促され、血液検査・体重測定・ビデオ説明・剃毛と続く。
・若い看護婦さんによる剃毛はちょっとドキッとするかもなどど思ったが、36歳男子に宿る健全な性的感情はここもとすっかり消え失せている。ふと鏡に目をやると、入院着姿の自分はすっかり病人だった。
・その後は、担当医と麻酔医による説明があるとのことだったが、いつになるのかわからないので部屋でじっと待つ。
・最初は麻酔医の先生で、手術室から駆け上がってきたのか肩で息をしながらびっしょりと汗をかいている。それでも終始笑顔で、丁寧にわかりやすく説明して下さった。こんな麻酔医なら、きちんと痛みを止めてくれるんだろうなあと妙に安心した。
・続いて担当医に別室に呼ばれる。部屋に入ると見ず知らずの先生。てっきり主治医が居るのかと思いきや、こちらの病院はチーム制ということで必ずしも執刀医が説明するわけではないとのことだった。
・そんな大事(!?)なことを事前に知らせないのはどういうことだといつもなら怒ってしまうところだがここは我慢。
・チーム制の方が効率化の点でもリスク管理の点でもメリットは大きいのだろうが、こちとら(ある意味では)命を預けている身である。急に見ず知らずの先生が前日に現れても、患者と家族の不安を煽るだけだ。このあたりは、少なくとも事前に一言あってもいいんじゃないかと今でも思っている。
・優しそうな先生ではあったが、初めましてだからなのかその方の性格だからなのか慎重な言い回しが多かった。どうせ明日には手術なのだから、いまさらジタバタしても仕方がない。ちょっとの間だけでも同席する母親と嫁を安心させる一言があれば十分なのだが、淡々と説明は進んだ。
・転移の有無は、術中迅速病理で先ずは判定。ただし速報なので術後の病理検査で白判定がひっくり返ることはあり得る。一方、黒判定であればそれは黒。明日の今頃にはその答えをきいていることになる。母親にはおおよその病状を伝えていたが、医師からの説明を受けてより深刻に事態を受け止めたようだった。
・部屋に戻ってからも浮かない顔の母と嫁。「いまさら心配しても仕方ないでしょ」と自分に言い聞かせるわけではないが、基本的にはこの腫瘍サイズなら転移の確率は低いと説明。実際にそうなのだから、これは先生の口から云って欲しかった。
・考えてみれば、執刀する主治医の先生にはこれまで2回しか会ったことがない。時間にして、せいぜい1時間弱だろう。大人のビジネス感覚(!?)的には、本来は二、三回くらいは一緒に呑みに行って、お互い腹を割って話して信頼関係を築いていくところだ。
・会って三回目で腹を割るどころか腹を切ってもらうというのは、なかなか普通ではない世界だ。ときたま医者は世間ずれしていると叩かれることはあるが、普通のサラリーマンの感覚では、ずれていないとやっていけない世界でもあると思う。公序良俗に反しないのであれば、多少は大目にみてやってもいいんじゃないだろうか、、。
・そんなことを考えながらベッドで横になっていると、唐突に主治医が「体調大丈夫?明日よろしくね~」と部屋に飛び込んできた。いつもの柔和な先生のご尊顔(?)をみて、いよいよ明日で決まる!と腹をくくった。