今年は、元三大師良源が注目される年になりました。

 

 2020年11月21日付けの朝日新聞デジタルに、

 

痩せこけた鬼のような姿が古来より厄よけのお札に使われてきた平安時代の高僧で、比叡山延暦寺の中興の祖・元三大師(がんざんだいし)良源(りょうげん)(912~985)が、コロナ禍の収束を願うシンボルとして各地で注目されている。

 

という記事が出ていました。

 

「人々を救わねば」鬼になった僧侶 コロナで高まる注目 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

 

 良源は、第18代天台座主(ざす)で慈恵(じえ)大師と呼ばれるが、正月三日に死去したため俗称は元三大師。伝承では、ある夜、元三大師の前に疫病神が現れ、体に侵入。高熱を発したが法力で追い払った。「人々を救わねば」と瞑想(めいそう)に入ると、頭から角のようなものが伸び、鬼の姿に。大師は弟子に「この姿を版木に彫り、家々の戸口に貼るよう配りなさい」と命じたという。

 

 いつ頃からの伝承なのかはわかりませんが、虎関師錬『元亨釋書』(1322年)卷四*に、

 

 釋良源。姓木津氏。近州浅井郡人也(略)自把鏡冩照曰。置我之像所必辟邪魅。從茲模印天下争傳。方今人屋間架戸扉之間 黏貼殆徧。諡慈慧

 

とあるので、鎌倉時代後期には良源の像が、邪魅を辟すると信じられていた、ということになるでしょうか。

 

 

 上画像は、『伊勢参宮名所圖會』拾遺(1797年)の挿圖「元三大師」ですが、こちらにも、

 

 元亨釈書曰良源姓ハ木津氏近江国浅井郡の人なり。(略)良源道刀の貌ざしも勇猛に見へけれバ自らかがみを取りて我が真影を寫せり 。これに依つて云ふ、我像を置く所必ず邪魅を除き避くべしとなり。世に元三大師の札と云ふ、これなり。この像に二種あり。 一ツハ角大師と云ふ。これは鬼形なり。(以下略)

 

と、『元亨釈書』を引用する形で、元三大師の像が邪魅を除き避くとの記述があります。

 

というわけで私も、現代の邪魅ということになるのでしょうか、コロナウィルスの収束を願い、少し早い初詣に出かけることにしました。

 

 ただ、朝日新聞の記事に紹介されている東京の深大寺や滋賀県長浜市の玉泉寺まで遠征することは、躊躇されるので、 

 

 

 

四日市市垂坂町にある、垂坂山観音寺に詣でることにしました。

 

 同寺は、秋里籬島『東海道名所圖會』(1797年)の卷二に、

 

 垂坂観音 四日市乾一里ばかり、垂坂山にあり。天台宗。

 

と書かれているように、通称「垂坂観音」。

 四日市の北西、垂坂山にある天台宗の寺院です。

 

 また、山門下の石柱に「國寶元三大師」、赤い幟にも「開運厄除 國宝元三大師」とあるように、元三大師ゆかりの寺。

 

 

観応二年(1351)作の「慈恵大師坐像」が、国の重要文化財です。

 

 

 山門の前には、早くも門松が立てられ、お正月の雰囲気。

 

 また、同図会に、

 

 天正の兵燹に荒蕪す

 

と書かれているように、天正の戦乱で伽藍が焼失。 

 

 

 

山門は江戸時代の建立、本堂は昭和の建築です。

 

 

 本堂は天台宗なので、仏像を安置する須弥壇のある内陣と、礼拝空間である外陣の二つに分かれる形式。

 

 外陣からですが、仏像を拝し、厄除を祈願してきました。  

 

 

 皆様もどうか、よいお年をお迎え下さい。、

 

*『国史大系』第14卷(経済雑誌社、1901年)