[掌編]雑司ヶ谷鬼子母神「七曲りの路地」奥の七曲り荘二〇二号室からずっと | 曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

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元『BURST』、『BURST HIGH』編集長の曽根賢(Pissken)のコラム

 

[七曲り荘日記]

 

巻頭連載[第203回]
「我らの時代の墓碑銘を描く画家――その淫蕩する光線」

 

「レクター博士の部屋」
佐藤ブライアン勝彦●作品&文

 

●この写真はネットから拝借。レクターのフェルという名前や先輩の名前も。この呼び鈴を押すと中から門番さんが出てきて、扉を開けてくれます。

 

 

[今週のブライアンのお勧め映画/『パペットマスター ナチス大決闘』]

●楽しいハッピーエンドの映画も好きだけど、ホラーっぽいのも大好き。シリーズの中ではこれが一番面白かった。パペットマスターはキャラクターも良くて、フィギュアをコンプリートしたっけ。この映画面白いぞ! と小学生の頃の弘和と2人で見てた思い出がある。

 

 

ホラー繋がりの話です。

昔、アムステルダムのギャラリーと契約していた事があった。

震災後にグループ展の話がり、オランダへまた訪れる事に。

ちょうどその頃、仙台に仕事で訪れた先輩がいて、

「今度オランダ行くんです」と話すと、

「ブライアン、ハンニバルとか好き?」

「大好きで、おとといも見たばかりですよ」

と言うと、

「友人が、レクターが司書として潜んでた、カッポーニ宮というお城に住んでいるんだよ。紹介するから行って見なよ」

となり、急遽滞在期間を伸ばし、イタリアへ足を伸ばす事になった。

 

俺の中で、旅のメインが絵の展示ではなくハンニバルになった。

カッポーニ宮には、門番さんもいたりして驚く事ばかり。

お城の中はメディアに公開された事がないらしいので、ほんと貴重な体験をさせてもらった。

お城の中は重厚な感じで、歴史の重みを感じたなあ。

イタリアで何番目かのエレベーターや、カッポーニ家の当主が国王に謁見している絵画が飾れていてたり、歴史好きな俺は写真を撮りまくりでした。

 

レクター博士が住んでいるという設定の部屋は、残念ながら工事中で入れず…Mさんの部屋から窓越しに少し見えたくらい。

それでも甲冑や剣は見えて大興奮。

 

一昨年の個展の時に工事後の部屋の写真を見せてもらえた。

 

●お城の裏側。扉には鋲が打ってあるのは過去に、戦争で使われた事があるという事なんだそうです。

 

●カッポーニ宮からの眺め。

 

 

 

 

3月27日(水)鬼子母神は晴れ。

 

文芸誌『スピン』が届いていた。

この中に私は、掌編を書いている。

[雑司ヶ谷鬼子母神「七曲りの路地」奥の七曲り荘二〇二号室からずっと]

という、長い題を選んだ。

ほら、題を読めば、

「ああ、私小説なんだろうな、じゃあ、読まなくていいや」

と、余計な時間がとられる心配がないからね。

 

『スピン』7月号

河出書房新社刊/330

 

 

PM10時、部屋の戸が叩かれた。

隣室の兵庫くんであった。

もうかなり酔っている。

「今日で、引っ越しが終わったんで」

これまでの礼と、ロングピースを2箱くれて、さあ、呑みにいきましょうという。

 

明日、朗読する詩がまだまとまっていないこと、今夜中に、それをデザイナーと相棒ケロッピーに送らなきゃいけないことを理由に、頭を下げて断った。

それに、もう兵庫くんはベロベロだったし。

 

それにしても、以前の私なら、決して断りはしないのになあ、と我ながら呆れた。

明日が雑誌の校了だろうが、原稿の締め切りだろうが、誘われたら断ることなんてありえなかった。

高校時代、明日から試験が始まるという夕方でも、ダチから「女に振られた」と電話があれば、酒を買ってダチの部屋へ走り、結局、翌日は二日酔いで休んだりもしたっけ。

 

「おまえは、マジメか!」

と、ぶつくさいいながら、その後もまた、朗読用の詩を推敲した。

終えて原稿を送り、遅い夕食のしたくをする。

 

[夕食]

●目玉焼きのせ焼きそば(豚肉、キャベツ、人参、紅ショウガ、青のり)

●ほうじ茶

 

めんどうになり、明日の昼食用に買っておいた焼きそばですます。

しかし、久しぶりのソース味が身に染み、満足する。

で、クスリを飲み、さっさと眠る。

1時間後、悪夢に苦しんで目覚める。

便所に立ち、また眠る。

2時間後、悪夢に苦しんで目覚める。

便所に立ち、また眠る。

2時間後、悪夢に苦しんで目覚める。

煙草を吸い、また眠る。

 

 

NMIXXつれづれ草]

●左がキュジン(17歳)、右がジウ(18歳)、双子みたいな2人だが、KPOP界のトップ・ダンサー。3年後のアーティスト覚醒が見ものであり、同時に爺さんはいらぬ心配をしてしまう。

 

●私がNMIXXに「ポップスの未来を見た」のは、何度も書くが、彼女たちがケチなアーティスト面せず、アイドルを満喫している姿にだった。

●シリアスさと可愛いを一緒に体現できる彼女たちの才能が、数年先、どうしたって本格的なアーティストになるのは必然である。

●そのときこそ、私が見た「ポップスの未来」を、あなたも見るだろう。

●しかし、そのときもまだ、彼女たちはアイドルの笑顔を、私に見せてくれるだろうか?

 

 

[今週の曽根のお勧め作品/坂口安吾『信長』宝島社文庫] 

  

●エッセイは上手いが小説はヘタと散々言われた安吾だが、なに、確かに安吾が目指した、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』のような本格小説は間に合わなかったけれど(享年48は早すぎた)、この時代小説において、ドストエフスキーに負けない筆力とサービス精神で、信長という「魅力像」を創り出し、凡百の時代小説家をかすませ、ついでに「純文学」なんてケチな寝言も吹き飛ばし、あの本格小説しか認めない立場にいた丸谷才一にして「面白過ぎて、びっくりした」と言わしめた、この傑作長編を残していたのだ。周りから「尾張の大タワケ」と嗤われた少年信長こそ、実は知力でもって権謀術数渦巻く戦国の世を戦い抜く英雄であったことが語られる、無頼派安吾の知性が爆発した歴史ロマン、ぜひあなたもガツンとくらってほしい。

(名古屋生まれのボスYも推薦)

 

 

 

 

3月28日(木)鬼子母神は晴れ。

 

東北人の私にとって、春は嬉しい季節だ。

まあ、この時期、宮城はまだ寒いかもしれないが、雑司ヶ谷の某寺の門前の桜並木には、花も咲いていないのに、ずらりと屋台が並び、なんと若い女の「猿回し」まで客待ちをしていた。

さすがに歩くものも少なく、手持ち無沙汰の猿の「おすまし顔」が、たいそうキュートであった。

 

夜の「BURST公開会議」で朗読する詩のプリントを、先日の朗読会同様、客へ配ろうと、ボスYにデザインしてもらった。

(あ、無論ノーギャラでね)

それを10枚コピーして、阿佐ヶ谷タバサへ着いたのが、夜7時過ぎ。

 

今回のトークライブのお題は、釣さんが選んだ「死体映画ベスト10」で、久しぶりに釣さんと映画の話ができて楽しかった。

釣さんと365日、毎晩毎朝、呑んでいた10数年年、映画の話はベスト5に入る話題であった。

 

で、今回朗読した作品のテーマも、そのベスト5に入るだろう。

それは「美」についてだ。

釣さんは「死体写真家」として、多くのバッシングを受ける立場だったためか、最初からかなり「美」についての理論武装が構築されており、そんな形而上学的話題が、酒の肴にぴったりだったのだ。

 

毎夜、そんなことでくだをまいていた2人が懐かしい。

お互い30代であったが、まるで大学生の青春であった。

彼は慶應を卒業しているが、

(パンクスであったそうだ。が、春はテニス、夏はサーフィン、秋は適当、冬はスキーというサークルに所属していたという)

私は大学へいかず、そのころは土方時代であるからにして、答えの出ない命題について、哲学めいた会話をするのが楽しくてしようがなかったのである。

 

あれから15年ほどが経ったが、あの頃を思い出して、以下の作品を書き上げ、推敲し、朗読した。

とはいっても、釣さんとの総意ではなく、あくまで私の考える「美」についてだ。

あの頃だって今だって、お互いの考えは違う。

が、まったく同じな部分、同じ土台、同じ流れが、今だってあるはずだ。

4千日を超える夜、お互いの言葉にはしゃいでは、飽きずに26時間もぶっ続けで呑んだくれていたのだから。

 

尚、今のところ、次の詩を、次回詩集『BALLS』の巻頭に置きたいなあと、まだ編集のりっちゃんへお願いしていないが、考えている。

詩人曽根 賢としての、立脚点であるテーマだと、思うからである。

処女詩集『ハードボイルド・ムーン』の作品とは、あえてスタイルも言葉遣いも大幅に変えた作品群になるので、乞うご期待。

 

 

BALLS用 新作詩(第2稿)]

 

 

「美は欲情する」

 

  1

 

あまたの百科全書と、天草・島原の地図、いくたの世紀と帝国、西欧(ヨーロッパ)と極東、家のない母親たち、絶滅収容所の下水溝に佇むヘラクレイトス、ラウドな捕鯨船、破れた網、ほとばしる民衆の体液、盲目の図書館のちりの積もった本棚、太腿まであるグレーのソックスのほつれ……嗚呼、

美は欲情する。ありきたりな戦地へ赴き、砂時計の砂漠で輪廻転生を繰り返す青年たちよ、

美は欲情する。美は人が見つけるものでも、ましてや、芸術家が造りだすものでも、あなたが見つけたり造りだすものではない、美は駱駝の眼のように実存する、雨音をすくうバケツのように、部屋の隅で凝っと立ち尽くす。美はカラヴァッジョの罪やレンブラントの沈黙に潜み、ある刹那の偶然に、あなたを見そめ、あらがうことなく発情し、いきなりあなたへむしゃぶりつくのだ。

一生、美と無縁であるものこそ幸いである。

切断された男根にまとわりつく、邪推のわだかまりから生まれた、アフロディテの丸い腹をしとねにして、美は淫らな預言者となって、あなたの市民権を剥奪する、美はあまりにあこぎな債権者ゆえに。

 

  2

 

清澄(きよくすんだ)な大気に溶け込む夕日、暗い台所にたたずむ金色の酒、岩牡蠣へ絞るレモン、農道へ転がった自転車の影、かえでの葉むらに映える外灯、雨の最後のしずくと一緒に桃の実から漂ってくる香り、わら束が煙る庭で、あなたは胸に抱き寄せる、日陰で熟れ、陽光のじゃれつく、彼女の乳房を……嗚呼、

美は欲情する。糸ひく不遜な言葉を誇り、他国の子どもたちの指を食い散らかす若き愛国者たちよ、美にはルールもモラルもポエジーもない、ただひたすらに美は欲情する。神秘を礼賛する俗なるものに、美は喉を鳴らし腰を浮かせはしない。勇気のない画家やジャーナリストや中学教師へ、美ははだけた胸を弾ませはしない。ぐずぐず弱音を吐く料理人や外科医や牛飼いの腰へ、美は毛を剃った脚を絡めてはこない。

一生、美と無縁であるものこそ幸いである。

美の「不在」とは、最も確かな、最も生き生きとした、最も破壊しがたい、最も忠実な「存在」なのだから、美と無縁なるものよ、今夜も安眠すればいい、天変地異を予言する件(くだん)を冷蔵庫へしまい、靴紐が燃えるにまかせ、アイヒマンの集う善人面した街で、市民生活という硬質なまやかしに、一生をついやせばいい、ひとりの死は悲劇だが、数百万人の死は統計上の数字でしかないと日記に記し、献身的に命令を待ちながら、おまえの子どもをつくればいい。その子どももまた子どもつくるように。

 

  3

 

さだかならぬ美徳のよろめき、路地という路地に手足を伸ばしてくつろぐ黄昏、薄れゆくインパールの記憶、ものうく乾いた内ももには溢れ流れた恋人の名残、ぼんやりとしたものが優しくなり、身近なものが遠くなる、さりげない別れの背後に、永遠の別離が潜んでいるように……嗚呼、

美は欲情する。あなたが女であればあなたを孕ませ、あなたが男であればあなたの子を孕む、戦況を左右する山場の司令官へまたがり、三十センチの死を孕むように。

美は欲情する。美はパレスチナ人の入れ歯のように実存する。美はそこらの街角に待ち伏せ、少女を羽交い絞めし、少年を絞め殺す。同時に、美と共に彼女は生まれ、美と共に彼女は死に。美と共に彼は生まれ、美と共に彼は死ぬのだ。

一生、美と無縁であるものこそ幸いである。

マルキシズムは哲学ではなく運命であり、宗教が人類の詩であるならば、美の欲情こそが人間の原罪なのだ――神は沈黙の言葉だが、言葉が愛を形作れないように、言葉巧みなものが美を引き寄せはしない、欲望の血のたぎりだけが美を引き寄せるのだ、美の歓びは、人間の単純な心にとって余りに複雑ゆえに、マスタード・グリーンで包んだコック・サッカーの知性と、あなたの性器にみあった形の美だけが世界を彩るのだ。

 

  4

 

蜘蛛の糸にすがった、憂国の政治家、徳を積んだ官僚、実直な警察官と自衛官、謀略を説く経営者、淫猥な契約を紐解く聖職者、差別と虚言のブローカー、血族を誇るトラック運転手、労働者階級の英雄、生活保護受給者の詩人、掟を破る漁民、捏造された幸せに魅入った市民、ちんけな寝言をほざく少年少女、日本の魂と花々の腹心の友、歴史の荷役人たち……嗚呼、

呪われたものたちよ、一生、美と無縁なおまえら民衆こそ、世界にとって幸いである。

けれど、夜の明け切らぬうちに彼は死に、その彼とともに、笑いながら死んだゼウクシスの老いた

女神像や、アペレスの引いた地平線も一緒に死んで、甦ることはないだろう。

彼が息絶えるとき美もまた心中し、ほんの少し世界は貧しくなるのだ……嗚呼、

美が欲情するとき、あなたはどこへ向かっているのか?

美が欲情するとき、あなたは何を求めているのか?

美が欲情するとき、あなたは誰を許しているのか?

その視線の先にこそ幸いあれ。

 

 

 

(第2稿20240327

 

 

 

3月30日(土)鬼子母神は雨のち晴れ。

 

[夕食]

●グリーンピースごはん

●カツオの刺身(生姜、ニンニク)

●カブとナスの糠漬け

●ほうじ茶

 

さやえんどうが半額だったので、昆布出汁と酒と塩を足して炊いてみた。

けっこう上出来に炊けた。

カツオの刺身もぴったりだ。

 

 

おやすみなさい。

今週はずっとブルーだった。

季節の変わり目は病人には辛い。

それに、どうしても不動産屋へ足が向かない。

それといっしょに引っ越しのことを考えるせいか、今週は連日の悪夢に苦しめられた。

 

この七曲り荘だって、ボスYが決めて、気がつけば突っ込まれていたようなもんだし、自分ひとりで部屋を借りるなんて、上京以来なのだ。

ほんと、何にもひとりじゃ出来ないんだよなあ。

地図は読めないし、運転免許証は持ってないし、そもそも運転が下手だし、泳げないし、釘が真っすぐ打てないし、ゴキブリが怖いし――どうすりゃいいんだオレ?

良い夢を。

 

 

 

[処女詩集販売中]

『火舌(かぜつ)詩集 Ⅰ ハードボイルド・ムーン』

著者:曽根 賢(PISSKEN

ドローイング:佐藤ブライアン勝彦

 

判型A5/平綴じ/96ページ

部数:300

税込み価格1320

 

さて、販売方法だが、以下の2つの書店で、通信販売、また店頭発売します。

2書店のサイトを検索してもらって注文してください。

ネット注文できない私のようなひとは、誰かに頼んで注文しましょう。

 

詩集には私のサインが入っています。

 

「タコシェ」

http://tacoche.comには、遊離型テストステロン11.8 pg/あれば要注意(ボーダーライン)8.5pg/ml以下の場合は明らかに(シング(シンル小説もセカンド&サードも注文できます)

 

「模索舎」

http://www.mosakusha.com/

 

「阿佐ヶ谷ネオ書房」

書店販売のみ

 

尚、くどいようだが、この処女詩集は、あくまで『火舌詩集』のⅠであって、今後あと2冊を発行します。

3冊合わせて『火舌詩集』となるので、ぜひコンプリートしましょう。

「火舌」とは中国語で、火事の際、窓から吹き出し、壁を舐める炎をいう。

 

[サード&セカンド・シングル通販中]

A面「PISSINTOMY HEROES
B面「七曲荘二〇三号室」

 

セカンドシングルのジャケット。被写体は細菌学者の志賀潔。撮影は土門拳。

 

アドレス:budroll.shelvis.sy3@gmail.com

――以上へ以下のことをメールしてから、お金を振り込んでください。

郵便番号と住所
名前(口座のカタカナ読み振りも)
電話番号
サード、セカンドのどれを希望するか

(ファーストは売り切れ)

●1,600円(発送代込み)
振込先――ゆうちょ銀行

BUDROLL(バドロール)
普通口座:店番908
口座番号:5133817

 

 

『キャンプ日和』(河出書房新社)

キャンプ小説&エッセイのアンソロジー。トリに曽根 賢の短編「二つの心臓を持つ川の縁で」が掲載されています。

 

 

『点線面』5号(ポンプラボ)

曽根 賢の特集と、論評風の新作エッセイが載ってます。詳しいことはネットで検索してください。

P.S.

以下の作品を買ってくれる方、また、仕事をくれる方、メール下さい。
「詩作品」(手書きした原稿用紙――1万円)
宅配便着払い

原稿仕事。

●pissken420@gmail.com