[深雪荘日記]
●[連載第240回]
「我らの世代を看取る我らの世代の墓碑銘」
「」
佐藤ブライアン勝彦●作品&文章
届き次第、
アップします。
9月11日(金)鬼子母神は雨。
午前8時半、都立大塚病院で受付をすませる。
2019年ぶりの大腸内視鏡検査のためだ。
前回には、ポリープが2つ見つかり、切除したひとつの先が癌化していた。
1年後に再検査するようにといわれたが、再検査に向かったのは確か3年半後だったか。
しかし、ブログにも書いたが、予約時間から3時間待たされ、体調の悪さから帰ってしまった。
で、さすがに「こんどこそ」主治医の愛子先生の指示に従うしかなかったのだ。
10時10分から、下剤を飲むが、1リットル(半分)飲んでもなぜかもよおさない。
そこでいったん飲むのをやめ、散歩したりして12時過ぎまで待つが、らちが明かないので浣腸をすることになった。
それも、若い女性看護師の手で。
ようやく、午後2時半、内視鏡検査が始まった。
嫌な予感が的中し、医者も、看護師2人も、みな女性である。
(前回は男の3人チームだった)
先日観た、映画『敵』の1シーンを思いだしだ。
むぞうさな最初の痛撃。
すぐさま2度目の痛撃。
それから、長い長い、旅が始まった。
わが愛する詩人田村隆一は、都庁ビルをして「あれは納骨堂だよ」と評したそうである。
そして、江戸時代の雑司ヶ谷墓地のこの(深雪荘)あたりは、貧乏儒者が住んでいた。
田村は「あの世」を信じているといい、そのあの世とは「遺伝子」のことだと言った。
また、こんなことも言っている。
「死ぬってことは、一つのね、雑誌でいうところの締め切りみたいなもんで(笑)、あれがなかったら、人間ね、原稿なかなか書かないよ。締め切りがあるんで、みんな原稿書けるんですよ。
とくに詩とか、そういったものは、これ完成したらなんて言ったら永遠に完成できそうもないんだから。だからみんな未完成なんですよ。人間の仕事ってのは。
それを次の世代の人たちがいろんな形で受継いでくれて、それはまたその人の選択した範囲で実現してくれればいいんです」
私が死にぞこなった6年(7年?)前からこっち、大事な仲間が6人も死んだ。
そのうち4人は年下である。
「彼らのぶんも日々を大切に生きよう」
なんてことは、金輪際おもわない。
そんな考えは死者への冒涜だ。
とはいえ、やはりショーペンハウアー的な厭世気分に浸ることがままあった。
それは、妻子のない、病人の、独居老人の、気の迷いでしかないけれど。
ニヒリズムなんて、それこそ死者への冒涜だ。
それに、世界を呪うのも、冷笑するのも、身に余る。
そもそも、この「矛盾の谷」を走る列車へ飛び乗ったのは、自分からじゃないか。
私の書く詩とは、正しさ、真実を見つけ語ることではない。
それは哲学者、言語学者、聖職者等にまかせるべきだ。
私が書く詩とは、読者に、正しい、真実の「欲望」へ、眼を向けさせようとする「欲望」そのものである。
私は、犬笛を吹くビッチだ。
その昔、『TATTOO BURST』編集長の川崎美穂は、私を評してこう言った。
「曽根さんの背中のジッパーを下ろしたら、ヤリマンのブスのギャルが出てくるよね」
ブスとはなにごとだ! と怒ったっけ。
[METASEQUOIA用詩 /2026.9.10/第7稿 ]
「狂った俺たちの狂った生活を生き延びる道を教えよ」
それは真夏の正午のこと
ものものしさを引き連れて、セイレーンは遠のき
眼を開くと、アスファルトの血だまりに
ガソリンの虹が浮かんでいた。
タイヤの焦げた匂い
あたりはやけに静かで、耳にするのは数匹の蠅と
遠くであくびするヘリコプターの羽音ばかり
単車のスリップの跡は、針を呑んだ海蛇のように
ゆがんだガードレールに座る、二人の男の足元でちぎれていた。
その足元も、明日になれば、死に花に埋もれるだろう
煙草や缶コーヒーや、スナック菓子に埋もれるはずだ。
けれど、青年が愛した女のことは、誰の口にものぼらない。
彼が口に出来なかった、ポルト酒につけたメロンや
オマール海老のカイエンヌ・ソースの話は語られたとしても
青年に愛した女がいたことは、彼女も口をつぐんだまま
ラプラスの悪魔でさえ、あさってを向き、すっとぼけるだろう。
もどかしいまでにゆるいカーブで、青年は死んだ。
何も見えないもどかしさが、さびしく吠え
逃げ水にすべり、青年の単車はバーストしたのだ。
激しく戦争を夢見ていた彼だったが
いまや水田の側溝へ突っこんだからだを、身じろぎもしなかった。
「何かが終わり、何かが始まってる。
それはいつだって、おれから五百メートル先で」
ここから五百メートル先にあるのは、町役場ぐらいだ
戸籍謄本でも必要だったのだろう
彼の千切れた右腕は、三十メートルを稼いだけれど。
青年にはテロリスト同様、発言権がなかった。
なにより新鮮な仕事がなかった。
狂った彼の、狂った生活の、生き延びる道の途中にあったのは
真夏の正午の、痛みさえない、新鮮な切断面だけだった。
男には常に狂気がついてまわる
女に邪推がついてまわるように。
彼がガードレールを飛び越える間に、千の昼と夜がめぐっていた。
あなたが振り返ると、部屋の隅に、ぽつんと彼の一部が落ちており
窓の外は激しい雨が、夜を騒がしている。
太陽はびくともせず、頭上を占領していた。
男たちはトラブル処理に疲れていた。
鼻血を垂らした相棒の脇で、年上の男が天へ助けを乞う。
「雨よ、ガーゼの匂いがするという雨よ
その角から飛び出してこい
俺たちは当たり屋にだってなるだろう」
相棒が立ち上がった。
「さあ、仕事にもどろう」
ぐずぐずと二人は歩き出した。
あなたもそのうしろをついてゆく。
足元の影が墓穴に見えるから、男たちは顎を上げ
揺れる浮島を目がけ歩いた。
そして三人は思った。
明日の新聞に、あの青年の死亡記事は載らないだろう。
明日の新聞に、俺たちの死亡記事は載らないだろうと。
男たちは途中の酒場に寄り、パイントグラスで黒ビールを六杯ずつ呑んだ。
そのあと同じグラスで、生のシードルを二杯ずつ。
それを呑めるのは、東京ではこの店だけだった。
男たちは酒場を出て、仕事場の床をめざした。
そこしか戻る場所はないのだし、ひび割れた唇は歌を忘れない。
「狂った俺たちの、狂った生活を、生き延びる道を教えよ」
男たちは互いに体をささえ
五百メートル先の仕事場の床を目指した。
狂った男たちの、狂った生活を、生き延びる道を千鳥足で。
ようやく男たちの昼と夜が昏睡して横たわる。
ようやくあなたの昼と夜が昏睡して横たわる。
自ら、今日を終わらせることのできない男たちの、自滅回路が切断される
ビロードの奈落から、マヤコフスキーの屍がシタールをつまびく
ラプラスの悪魔の記憶を呼びおこすように。
明日の新聞に男たちの死亡記事は載らないだろう。
明日の新聞にあなたの死亡記事は載らないだろう。
先走った女たちの亡霊よ
道半ばの側溝へ、あふれんばかりの花を、投げ入れよ。
※「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」は、イギリス出身の詩人W.H.オーデンの詩の一説。大江健三郎の中編「「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」はそれから。高校時代に読んで、内容は憶えていないが、ずっとタイトルだけ忘れなかった。詩の内容は自著『BURST DAYS』の中の掌編「BURST」と同じエピソードからである。
[今週の曽根のおすすめ作品/タイ・ウェスト監督『X』『Pearl』『MaXXXine』ミア・ゴス主演]

●ミア・ゴス主演「X三部作」が、一挙NETFILXで公開された。ミア・ゴス好きを公言ながら、実はこの三部作を観るのは初めてであった。しかし公開の度(海外も含め)映画レビュー動画はかたっぱしから見たし、映像の断片も観ているせいで、もう映画を観た気分だった。が、やはり当然違った。
●いやあ、いいねえ、やっぱりミア・ゴスは。三部作はそれぞれまったく雰囲気は違うし、なんならジャンルさえ違うが、これはミア・ゴスの「アイドル映画」なのだ。ただただ、ミア・ゴスの姿と表情を堪能すればいい。
(あ、できれば吹替じゃなくね。彼女の声は、そりゃうっとりするほど魅力的だ)
●公開は『X』『Pearl』『MaXXXine』の順だが、ミア・ゴス20代最後の映画である。『X』における脱ぎっぷりも、からみっぷりもすがすがしい。一瞬映る尻の美しさよ。あとびっくりしたのが、あのNETFILXシリーズ『ウエンズデー』のヒロイン役で跳ねたジェナ・オルテガがまでが脱いでいるのにびっくりした。ミア・ゴスに負けちゃいられないという女優根性の表れか。
●三部作それぞれ評価がわかれるようだが、私は満足、くどいがこれはアイドル映画なのだから。つまり邦画でいえば『ベイビーわるきゅーれ』だ。設定もストーリーもむちゃくちゃだが、ヒロインの「ちさと&まひろ」の魅力を堪能すれば良し、という「ザ・プログラム・ピクチャー」なのである。
(私は断然まひろ推し)
●とはいえ「X三部作」の映像は、めちゃくちゃスタイリッシュだし、その凝りようと「志」の高さ、なによりミア・ゴスの演技は、スラッシャー映画やプログラム・ピクチャーの枠などたやすく超えている。アイドル・ホラーであり、アート映画でもあるのだ。
●それにしても『X』のパール婆さん(ミア・ゴス一人二役)の夫である爺さん、心臓を心配しながらも、パール婆さんを満足させるのだから、ほんとえらい。『パール』でのダンス・シーン、『マキシーン』での鍵のメリケンサック殴りが、白眉である。
長い旅が「中断」されたのは、なんと午後4時を回っていた。
その間、何度、からだの向きを変えただろう。
「大の字」の時間も長かった。
まるで尻にストローを差しこまれ、腹を膨らました、解剖台のカエルの気分だった。
「前もこんなに長かったっけ?」
かなり苦しい。
いちいちからだが跳ねる。
ときおり看護師が背中をさすってくれる。
その手が、異様に熱い。
「どうしても奥に届かないんで、細いのに変えますね」
どれくらいかかっているのだろう。
時間の感覚が麻痺してきた。
切除する数が多いのだろうか?
それとも、ポリープの数が多すぎて、調べるのに時間がかかっているのだろうか。
田舎の同級生が、1度の検査で22ものポリープが見つかったっていってたっけ。
「腸が長く伸びていて、畳もうとしたんですけど、どうしてもいちばん奥まで届かないんです。血便もないそうだし、ここらへんでやめましょうかね」
私は激しくうなづいた。
長い長い旅は、中断とあいなった。
起き上がって、壁時計を見たら4時を少し回っていた。
1時間半も、内視鏡が入れられていたのか。
どれだけのポリープがあったのだろう。
いちいち切除したとしたら、もはや、大手術ではないか。
「1年後に、また検査しましょうね」
医者が優しい眼で見下ろした。
「ええ」(嘘)
医者が最後の最後になって、むぞうさに言った。
「新しいポリープもなかったですし、前のポリープの跡も大丈夫でした」
「なかったのかい!」(心中)
午後6時、深雪荘到着。
疲労困憊、へとへとである。
とはいえ、さすがに何か腹に入れなきゃ、低血糖症状をおこす。
検査のため、昨日の午後6時から何も食べていないのだから。
[夕食]
●バナナ
●カップヌードル
●サツマイモの天ぷら3切れ(スーパーの半額品)
●半熟の煮卵2つ(スーパーの半額品)
●エクレア(100円)
●ミルクティー
おやすみなさい。
なんとまあ、犬笛吹きのビッチの大腸には、ポリープが無いってさ。
〆切が遠のいた気分だ。
納骨堂、貧乏儒者、あの世、遺伝子、仲間の死、厭世気分、死者への冒涜、矛盾の谷を走る列車。
長い長い旅は、結局、中断したままだ。
ハイデガーは言う。
「哲学は何かのことに役立つ知ではないが、そうであるがゆえに、あらゆることを支配する知である」
田村隆一は言う。
「詩は何かに役立つものではないが、そうであるがゆえに、あらゆる支配に超え得る表現である」
哲学者も詩人も暴君と紙一重だ。
せめて私は言う。
「明日の新聞にあなたの死亡記事は載らないだろう」
よい夢を。
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■鴎外、芥川、太宰、安吾、織田作之助、町田康、他全21編
[NMIXXつれづれ草]
●バルセロナへ立つ空港にて。みなで「ドクター・マーチン」をそろえた、パンクス6人組。
●ソリュンのあざとさは天然の悪女だな。この角度でソリュンを見る男の嬉しさが、なぜか伝わってきちゃうぜ。それにしても、やはり痩せたね。カムバック直前の仕上がりだ。
■[JYPn] 보름달(Full Moon) Cover | QUALIFYING
●プレ・デビューのソリュン初映像。この映像が公開されて5年が経ったそうな。つまり、私がNMIXXにはまり始めてから、もう5年が経つのか。隔世の感とは逆に、なにも変わっちゃいないなあというのが、本心である。
●このときのソリュンは17歳。現在22歳。スタイルも顔も、微妙にしか変わっていないのだから。とはいえ「ちょっとの違いが大きな違い」であるのも事実。ザ・アイドルとして、愛称「将軍」として、現在の歌声の解放感は、大きな違いなのであった。
■NMIXX - “Si Antes Te Hubiera Conocido” | SPECIAL STAGE | MUSIC BANK BARCELONA 2026
●これまでつねづねアカペラで歌ってきた曲を、本国スペインで歌うのは、彼女たちにとっても感慨深いだろうな。9月12日にあった合同コンサートに、ガールズ・グループはNMIXXのみ。しかし、リハーサル直後にへウォンの体調が悪化し、5人のパフォーマンスとなった。が、素晴らしい。
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