ボスYの「報告書」その2 | 曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

元『BURST』、『BURST HIGH』編集長の曽根賢(Pissken)のコラム


[鬼子母神日記]

●ボスYの「報告書」その1からの続き



「日本は中国に負ける」


まだ朝の8時前だというのに、車の中は蒸し暑かった。まだ関東は梅雨明けしていなかったが、連日蒸し暑い日が続いている。
今日も暑くなりそうだ。
「警察は脱法ドラッグについて、どうゆうスタンスなんですか?」
助手席に座っている中肉中背の警部補に僕は聞いた。
「まぁ昔からあるんですよね、この手の脱法ドラッグは」
中肉中背の警部補は、前を見たまま「そこ右ね」などと運転手に指示をだしながら話す。
「ただここ数年で急に進化というか、効き目が強いヤツが出て来て……。我々としては使用者というよりも供給元、つまりお店とかですね、そうゆうところを知っておきたいんですよね」
脱法ドラッグが危険ドラッグと改称される前の話だ。
報道等をみる限り、現在は使用者に対しても厳しい態度で臨んでいるようだ。

「いや、これホントすごいですよ! 刑事さん! 日本は中国に負けますよ!」
僕と刑事との会話に曽根さんが口を挟む。
「なに、曽根さん。どうしたの? 意味がわからないよ」
「いや、だって中国とかで作られてるんでしょ。こんなもん作って日本の若者がみんなやられちゃうよ。あいつらそれ狙ってるんでしょ。あのリキッドは……」
「ほう。リキッド」
助手席の警部補が「リキッド」の言葉に反応して後部座席に振り向く。
「曽根さん。言いたいことは何となく分かるけど、中国はそんなつもりないんじゃないかなぁ、ははは」
もう、頼むから余計なことは言わないでくれ。


「覚せい剤被疑者と警察署」


男ばかり5人が乗った車が、警察署に到着した。
助手席の警部補ににらまれて以来、曽根さんは大人しくなっていた。
警察署に入り、そのまま受付を抜けてエレベータに乗る。
2Fで降りて、組織犯罪対策課の部屋へ入る。
早朝だというのに、20人ほどの人たちがすでに働いていた。
刑事2人に先導されて入ってきた僕らに、その場にいた全員の視線が注がれる。
どの机も書類が高く積まれ、所狭しといった雰囲気だ。雑誌の編集部に似ているなと思った。違いがあるとすれば、部屋の脇に3帖ほどの取調室が2つあるくらいか。

奥の取調室に入れられ、曽根さんが椅子に座り、僕がその脇に立つ。
中肉中背の警部補が書類を3枚持って来て、曽根さんにサインをしろと言った。
「ええ! マジじゃないですか!刑事さん!」
1枚目は、確か任意で取り調べを受ける旨の許諾の書類(これはうる覚え、多分覚せい剤検査キットの使用許諾だと記憶している)。住所と名前、年齢、職業と書く欄がある。
曽根さんが震えながら「住所がわからない」と言うと、そばにいた若い警官がメモを出してくれた。
それを見ながら曽根さんが自分の住所を書き写す。

次に名前だが、なんと曽根賢の「賢」の字が書けないという。
「あれ、どうゆう字だっけ? 書けない。マジか」
見かねた警部補が「こうゆう字ですよ」と紙に「賢」と書いて曽根さんに渡した。
「ええ!? なんで字が書けないの」
「それくらい、薬は怖いもんなんですよ」
あちゃー、まだ自分の名前も書けないくらいヨタってる。

続いて年齢の欄には、震えるペン先で「49」と書く。もうすぐ50歳の誕生日だ。
職業欄になんて書くのか見ていると、本人は「作家」と書きたいらしい。
ただ作家の「作」の字が書けないみたいだ。
「えーっ! 書けない。マジで分からない」
「作」の字によく似ているが、そんな字ないよって文字らしきモノを書いて、曽根さんは絶句している。
「こうゆう字ですよ」またも警部補に教えてもらう。
「作家が『作』の字を書けないなんて、もうホント俺は終わりだ!」
取調室の中にいる誰一人として笑わない。
僕は心の中で「いいぞボンクラ。その調子」と思っていた。

2枚目の書類は、尿を証拠品として提出する旨を了承する書類。
「俺、本当シャブなんかやってないっすよ!」と何度も言いながら必要事項を記入。
3枚目の書類が、その証拠品たる尿の返却を放棄する旨の書類。
「証拠品は基本返却しなきゃならないんですけど、いらないですよね?」
警部補がそう言うので、
「曽根さん。記念に貰っておいたら? 自分の尿」と僕は言った。
曽根さんは軽く無視をした。
3枚の書類にサインをして、右の人差し指で各書類に押捺。もちろん「作」の書き損じにも訂正押捺。計4カ所。

「じゃあ、曽根さん。これから尿を出してもらいますね」
警部補はそう言って、透明なカップを取り出した。
「まず、トイレに行ってもらって、そしたらこのカップのフタを取って、中を水で洗ってもらいます。何も入ってないってことが確認できたら、その中に尿をしてもらいます。分かりましたか? じゃあ行きましょう」
警部補が立ち上がり、僕と曽根さん、それとがっしりした刑事と若い警官がその後に続く。

トイレの前で採尿を待つ間に、さらに2人の屈強な刑事がトイレに入って行った。たぶん「薬班」の刑事たちなのだろう。
後から話を聞いたところによると、トイレのなかでは、空のカップを指差してるところ、洗っているところ、そして尿が入ったカップを指差してるところなどをバシバシ写真に撮られたそうだ。さながらピスケン撮影会。

曽根さんがトイレから出て来て、取調室に戻る。
曽根さんの正面に中肉中背の警部補。その脇にがっしりとした刑事。そして周りには、採尿時から加わった、薬班(たぶん)の屈強な刑事2人(腰には拳銃を下げていた)。
5人で取調室は一杯になった。
僕と若い警官は取調室に入れず、入口から中をうかがう。

「いいですか、今からこの尿を7滴この検査キットに垂らします」
細長い検査キットが机に置かれている。
「7滴垂らしたら、およそ7分待ちます。そしたら、この2本のミゾにラインが出てきます。検査結果はコチラになります」
警部補が検査結果の例が載っているパネルを見せてくれた。
検査結果は「陰性」「陽性」「誤陽性」「再検査」の4書類。
2本のミゾに各2本づつラインが出る仕組みらしい。妊娠検査キットに似ている。
左のミゾに2本ラインが出たら「陰性」。
左のミゾに2本、右のミゾに1本のラインで「陽性」だったかな?(うる覚え)。
「誤陽性」失念。何もラインがでない場合が「再検査」。
警部補が丁寧にその結果を曽根さんに説明する。
曽根さんの目はうつろ。たぶん聞いちゃいない。

「分かりましたか? じゃあ、垂らしていきますね」
警部補がそう言って、尿をスポイトで取って、数を数えながら検査キットに垂らしていく。
「いち、に、さん……」ピー、ピッ、ピー、ピッと薬班の屈強な刑事がその様子をデジカメに収めていく。
しばらくの沈黙。

さすがに、この瞬間はしびれた。
覚せい剤はやっていないから大丈夫だろうと思っても、いや、ひょっとしたらどこか内緒でやってるかも知れない、成人男性の全てなんて分かるはずがない、それに、もし脱法ドラッグの中に覚せい剤の成分が入っていたとしたら……などと、疑い出したらキリがない。完全に疑心暗鬼。

ここで陽性反応がでたら、この取調室の扉はたちどころに閉められ、僕も別の取調室に入れられ、事情聴取されるだろう。
下手したら共犯の疑いで僕も尿検査、そして事務所にはガサ入れがはいるだろう。
ガサ入れがはいったら事務所のPCとか持っていかれるのかな? 共同で事務所使用してる弟のPCも持っていかれちゃうのかな? 仕事できなくなるよなぁ……。

「すいません。このキット壊れたりとかなんとかして、間違った結果がでることあるんですか?」
思わず、入口近くにいた薬班の屈強な刑事に聞いてみる。
「いや、そんなことはありません。フェニルメチルアミノプロパンを検知するだけですから」
屈強な刑事は、フェニルメチルアミノプロパンをまるで早口言葉のように言った。
なんのことだが分からなかったが、要は覚せい剤の主成分であるメタンフェタミンのことだ。
まぁ、しかたない。こうなっちゃったもんはしかたない。僕は腹はくくった。

「僕、こんな場面初めてです」
傍らにいた若い警官が言った。
「そうなんですか? 何年目ですか?」
「配属されて2年になります」
彼も初めての尿検査で緊張しているようだった。
「2年ってことは、大学卒業してからだから……今24歳ですか?」
「そうです」
「そうですか。お若いんですね」
大学出て2年じゃ分からないかもしれないけど、世の中にはこんなおじさんもいるんだよ。決して悪いおじさんじゃないんだけど、こんなどうしようもない人も世の中にはいるんだよ。覚えておいてね。そして、こうゆうおじさんに出会ったら、出来れば優しくしてあげて。
若い警官の顔を見ながら、僕は思った。

「もうすぐ5分たちますけど、ラインが2本出てきましたね」
警部補が腕時計を見ながら言った。
「えええ! 俺、本当にシャブなんかやってないですよ! 信じてください! やってないです!」
あーあ、やっぱり説明をちゃんと聞いていなかったな。ラインが出たからって「陽性」じゃないよ。
「曽根さん。何本ライン出てます?」
「2本ですけど、ホントやってないです! ホントなんです!」
「いやいや、曽根さん。このキットの結果は、結果表のどれになります?」
「コレです。あっ、陰性です」
「一応、まだ少し時間ありますが、陰性ですね」
「あー良かったー! そうですよ。だってやってないもん!」

安堵から曽根さんはふんぞり返った。
パイプ椅子がぎいっと鳴った。
一応は、僕もホッとした。これで今日の逮捕はなくなった。
ただ、曽根さんはこの時点で安心しきっていたが、僕はまだ気を抜けなかった。
肝心の尿の行方である。
どうするの、その尿は? そのおじさんのしょんべんは?

「一応、陰性ってことですので、これでおしまいになります。これからトイレに行ってこの尿を捨ててもらいます」
警部補が言った。
その瞬間、「良かった、終わった」と本気のため息が少し漏れた。
尿は本鑑定には行かずにすむ。
曽根さんのナイスなダメっぷり。
なんとかなった。

取調室にいた全員がぞろぞろとトイレに向かった。
曽根さんがトイレに入って尿を捨ててるだろう時、トイレの前で病院から一緒だった、がっしりした刑事と目が合った。
「本当にご迷惑をかけてすいませんでした」
「いえいえ、付き添いお疲れ様でした」
がっしりとした刑事は僕に笑顔を向けた。
「あっ、ちょっとぬるくなっちゃったかもですけど、良かったらコレ貰ってください」
僕はとっさに、さっき病院内で買った3つのカフェラテを差し出した。
もちろん事案終了の確認の意味もあった。
が、本当に朝早くから迷惑をかけて申し訳ないという気持ちの方が強かった気がする。

「じゃあ、まぁ、本件も終了したことだし、有り難くいただくことにします」
がっしりした刑事は笑顔でそう言って、ビニール袋ごとカフェラテを受け取ってくれた。僕も一気に気が緩んだ。
ちょっと、それ盛っておきましたよ」
ニヤリとしてみてから、軽口が過ぎるぞ、このバカ! と思った。
「えっマジですか。じゃあ自分もこれでちょっとラリってきます」
がっしりした刑事がおどけてそう言ったのには、ちょっとビックリしたが、すぐお互い笑い合った。

事案進行中は決して笑顔を見せず、淡々とミスなく職務を遂行するが、いったん職務を離れると、冗談も通じる朗らかな人柄なのだと思った。こうゆう人たちが日本の治安を守っている。それに引き換え、僕らときたら……。

薬班の屈強な刑事が「いい歳して、もういい加減なことしちゃダメですよ。脱法ドラッグは本当に怖いんですから」的な説教を曽根さんにしていたが、そんなのもちろん曽根さんは聞いちゃいない。
神妙な顔付きで「はい。すいません。はい。すいません」と聞いてるフリをしている。
2人で30回くらい頭を下げた頃に、やっと警察署の出口にたどり着いた。


「外はすっかり蒸し暑かったが、そんなことはどうでもいい」


「いやぁ、刑事とか、マジだったよなぁ。捕まえる気マンマン。書類にサインとかホントびびった」
「いや曽根さん。マジとかマンマンとかそうゆう感じじゃなかったですよ。淡々と決められた手順に沿って流れていった感じでしたよ」
外はすっかり明るくなり、通勤の人たちが通りを行き交っていた。X署から出た僕たち2人は、とぼとぼと事務所に向かって歩き出した。
「ホント、まいったよ。病院出てすぐ、あれ? あれ?って。俺、型にはめられてる?って」
「ひとまず良かったですね。大事にならなくて」
「ホントごめん!」
「今日は、とりあえずいいですよ。もう疲れた」
とても疲れていた。
「ごめん。ホントごめん」
「ああ、蝉が鳴いてますね。今年初だ」

蝉の鳴く音が遠くから聞こえていた。
梅雨明けの宣言はまだ出ていなかったが、これから本格的な夏になる。今日も蒸し暑くなるに違いない。
でも、そんなことどうでもよかった。早く事務所に戻ってひとまず寝たかった。
「俺さー、まだ半分本気で、あの救急隊の美人と結婚できるんじゃねぇかって思ってるんだよねー」

クーラーをキンキンに効かせた部屋で、キューバの老人が見たというライオンの夢でも見られるかなと思った。


「後日談。僕が思ったこと」


後日、コトの顛末を何人かの友人に話して聞かせた。
曽根さんのコトを直接知っている出版関係者と、大手広告代理店に勤める友人を除いて、皆一様に「そんな人と付き合わない方がいいんじゃない」と口を揃えた。
(弟は「はははー、それは大変だったね」と笑っただけだったし、大手広告代理店に勤める友人は「あらー、この時期にダサいことやったねー」で終わりだった)

「そんな人と付き合わない方がいいんじゃない」という感覚は10人が聞いたら9人が思う当然の感覚なのは理解できるし、僕の事を心配してくれての発言だが、どうも違和感が残った。
「そんな人」とは、自分たちとは違う社会の枠組みから外れてしまった人、ということだ。話をした僕の友人たちは、もちろんちゃんとした社会生活を営む常識人であったし、本人たちにもその自覚がある。
僕自身にも、今のところ仕事があるし、まともな社会人であるという自負がある。でも、そんなのは「たまたま」であって今後はどうなるかわからない。
現在の僕があるのは「たまたま」普通の家庭環境に生まれ「たまたま」まともな教育を受けられ、「たまたま」周りの人たちに恵まれ、「たまたま」現在仕事があって、社会と接しているにすぎないない。
本人の努力で変えられることなんて、全体の2割くらいで、残りの8割は運だと僕は常々思っている。
今後、失業して交遊関係が極端に狭くなり、貧困に転落してテレビもネットも……つまり曽根さんのように、社会情報や世相の雰囲気がほとんど入ってこない閉塞した環境に押しやられたら……。
タバコの路上喫煙が禁止されたのも知らずに、平気な顔して路上でタバコを吸った日には、途端に「そんな人」の入口だ。

どんな人も、心のどこかに自分はそうなりたくないという恐怖があると思う。
もちろん僕にもある。
長く続いた不況下において、その無自覚な恐怖が、余計に「そんな人」を叩く感情になってはしないだろうか? ネットなどの「炎上」を見ると余計にそう思ってしまう。
「そんな人」だからと、今回のことで僕が曽根さんとの付き合いをやめると言ったところで、世の中の大半の人は何の疑問も持たず納得してくれるだろう。
「面倒くさい人にはかかわるな。自分が損する」
でもそれが本当に正しい事といえるのだろうか? 僕にはそうは思えなかった。
むしろ逆だろう!ぎゃくギャク!

「そんな人」をそんな人と言って社会からパージ(排除)するのは簡単だし、すればするほど「そんな人」は、より「そんな人」になっていく。パージした側はした側で「そんな人」の惨状が、いつか自分にまわってくるんじゃないかと、恐怖を倍増させる。
叩きの連鎖。ブルーハーツの歌と同じだと思った。
僕は社会学者ではないから詳しい事はわからないが、「そんな人」をパージする社会と、受け入れていく社会と、どちらがより強固で柔軟な社会なのだろう。
社会というと大げさに聞こえるかもしれないが、つまりは自分の身の回りのこういった些細な出来事の連続の結果だ。

勘違いしないでほしいが、脱法ドラッグを擁護している訳ではない。
曽根さんの脇の甘さは批判されて然るべきだと思う。だが、それをもって社会的なペナルティを課すのは間違っている。
本人も充分反省しているし、何も犯罪を犯した訳ではないのだ。
「自分はまっとうな社会人」と思っている人ほど気をつけないといけないと、僕の違和感が言う。
「まっとうな社会人」であるから、社会の枠から外れた人とは付き合わないし助けない、という姿勢は、一見正しいように聞こえるが、結果として社会全体の弱体化を招く恐れがある(みんなでみんなが生きにくい世の中を作る事になる)。
そして、その根源は、自分だけは助かろうという、恐ろしく自分のコトしか考えてない保身から来ているのだ。
ハンナ・アーレントの「悪の凡庸さ」という言葉が頭に浮かぶ。
たまたま運のいいヤツが運の悪いヤツを切るなんて、いったいなんなんだ。偉そうにもほどがあるのではないだろうか?
今回の一件は、曽根さん自身よりも、社会全体に蔓延しているそこはかとない嫌な空気の正体みないなものに気づいてしまい、腹が立った。


「世の中弱肉強食? 情弱が悪い? 運も実力の内? 冗談じゃない。それを言うなら適者生存だ! PissKen最強説」


少子化問題に世界情勢の劇的変化。
今後日本がこれ以上発展することはないと言われて、多くの人が今後の失業などによる生活レベル低下を恐怖に感じている。
曽根さんは貧乏だが、貧乏臭くはない。
生活レベルなんてことを全く意に介さない性格だからだ。
たまに美味しい食事ができて、ゆっくり寝られる寝床があれば、それでいいと本気で思っている。4畳半で充分なのだ。
多くの人が信仰し、強迫観念にかられている「成長至上主義」なんてものには全く興味がない。スマホもウォッシュレットも持ってないが、本当に毎日楽しそうに生きている。
仮に、本当に今後日本がこれ以上発展することがないとしても、成長至上主義から解放されれば、現代人の悩みの8割はなくなるのではないだろうかとたまに思ってしまう(うつ病も半減するだろう)。
そういった意味において、曽根さんは東京スタイル最先端だと僕は思っている。
30年後の日本の生活様式を先取りしているのだ。




――以上がボスYの「報告書」である。

ボスYは書いていないが、この日の夜には、やはり脱法ドラッグで逮捕された友人の母親と会い、相談に乗ってやっているのだ。
翌日から、ボスYは、体調を崩した。


点滴を受けるまで、ひどいバッドトリップが続いていた。
それでも私は、最初から嘘を吐いている。
ボスYに対してもだ。
警官を見てからは、演技さえしている。
ちなみに文中に、盛んに出てくる「ロケット」とは、プラスティック製の「ロケット型」をした、パウダーを入れる「容器」の隠語のことだ。

この「報告書」を読んで、私の思うことはひとつ。
「助けを求めた友人の選択に、間違いはなかった」
ってこと。

私は2日間の大量飲酒の末、「第5期」とも「第6期」とも呼ばれる、最新の脱法ドラッグを一気に飲み干した。
過去のその手の脱法ドラッグの経験から、またイリーガル・ドラッグの経験から、そんなブツをバカにしていたのである。
しかし、それははっきりと致死量であったし、臨死体験もした。
アシッドやマッシュルームでも経験のない、バッドトリップは6時間以上も続いた。

それでも、錯乱し、発狂の恐怖に怯えながらも、私には、はっきりと「レスキュー・ロード」が見えたのだ。
その太く、真っ黒いトンネルのような道は(実際にそう見えた)、まっすぐボスYの事務所へ続いていたのである。
そして、ボスYは「報告書」の通り、私をしっかり守り、助けてくれたのだ。

次のブログで、簡単に、バッドトリップや臨死体験、幽体離脱、そして「報告書」にそって、その時の私の内面を語ってみよう。
アパートの隣の部屋のマンガ家・兵庫くんの4コマ漫画も掲載する。

あの日から約1カ月近く経ち、ようやくクスリは抜けつつある。
(素面で3時間以上、眠れるようになった)

今日も煙草代すらないので、ボスYに本を260円(わかば代)で買ってもらった。
●ウラジーミル・ソローキン『青い脂』(河出書房新社・3,500円!)
食事は、昨日、ボスYが米やオカズを買い(私のために)、それを食べさせてもらっている。
――私という人間は、もともと、ひどくラリっているのかもしれない。
(8月13日)


P.S.

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