ボスYの「報告書」その1 | 曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

元『BURST』、『BURST HIGH』編集長の曽根賢(Pissken)のコラム

[鬼子母神日記]

●7月17日午前未明、私(曽根 賢)は脱法ドラッグのオーバードーズにより、救急車で新宿の国立国際医療研究センター病院に搬送された。

以下は、私が助けを求め、事務所~病院~X署での「尿検」まで付き添ってくれた、ボスYの「報告書」である。
※一部、アルファベット表記に直したことと、冒頭の記事に(中略)を入れた以外、私は文章に一切手を入れていない。
尚、冒頭の新聞記事は、ボスYがネットから拾ったものである。



●[報告書の前に]

<危険ドラッグ>11年以降40人死亡 今年急増24人も
毎日新聞 7月31日(木)8時0分配信

[危険ドラッグの使用が原因とみられる死者数]
危険ドラッグを吸引した直後の事件事故が相次いでいる問題で、2011年以降の約3年半に危険ドラッグの吸引などが原因で死亡したとみられる人が少なくとも7都府県の40人に上ることが毎日新聞の調査で分かった。危険ドラッグを巡る死者の実態が明らかになるのは初めて。今年だけで24人が死亡したことも判明し、規制の強化でも乱用に歯止めがかからない現状が改めて浮かんだ。

【職と家族失い、路上で気絶…】やっと分かったドラッグの怖さ

調査は、全国の警察本部などを対象に実施。関係当局が統計を取り始めた11年から今年6月末までで、危険ドラッグの使用が原因で死亡した疑いがある人の数▽危険ドラッグの使用が疑われる救急搬送者数などを尋ねた。
それによると、死者が確認されたのは、東京▽神奈川▽静岡▽愛知▽大阪▽広島▽山口の7都府県。11年は0人、12年と13年はそれぞれ3県で8人ずつだったが、14年は半年間(大阪のみ7月21日まで)で1都1府4県で24人と一気に急増した。「統計を取っていない」などの理由で16の警察本部が回答しておらず、実際の数字はさらに増えるとみられる。
(中略)
死者数が最多だった大阪では吸引後の死亡例が相次いだことで府警が今年から調査を始め、7月までに14人の死亡が判明した。4月に大阪市北区のホテルで30代の男性会社員が吐いたものをのどに詰まらせて死亡したケースでは、室内から液体状の危険ドラッグが見つかった。
次いで多かった神奈川では、12年に6人▽13年5人▽14年2人の計13人が死亡していた。13年5月に厚木市内の自宅ベッドで死んでいるのが見つかった40代の男性の場合、枕元に吸引パイプと植物片があったほか、室内には他にも危険ドラッグとみられる粉末が見つかり、常習が疑われる状況だったという。

また、名古屋市では今年6月に吸引直後とみられる20代の女性が死亡していたほか、山口県でも今年に入って30代の男性2人が死亡していた。
一方、救急搬送者(搬送されずに健康被害を訴えた人も含む)は、全国で少なくとも1415人が確認された。内訳は、11年が115人▽12年599人▽13年490人▽14年211人だった。やはり約半数の警察本部などが回答していないため、実際はこれを大きく上回るとみられる。

薬物依存症の専門病院である埼玉県立精神医療センターの成瀬暢也副病院長によると、危険ドラッグを吸引した結果、筋肉の細胞が壊れる「横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)」を起こし、腎不全や多臓器不全などで死亡する可能性がある。血圧や心拍数が急上昇するなど心臓への負担も大きく、米国では若者が心筋梗塞(こうそく)を起こした事例も報告されているという。

国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部の松本俊彦・診断治療開発研究室長は「死者数を把握したことはなく、非常に多いという印象だ。体の硬直やけいれん発作など危険ドラッグによる症状は今年に入り特にひどい。ドラッグの作り手と乱用者が求めるのは『脱法』であることだけで、その物質で何が起きるか誰にも分からない危険な状況だ」と指摘する。【まとめ・堀智行】

脱法ドラッグ:「指定薬物」スピード決定…池袋暴走受け
毎日新聞 2014年07月15日 11時27分(最終更新 07月15日 17時50分)

歩道に突っ込んだ乗用車=東京都豊島区で2014年6月24日、小川昌宏撮影
JR池袋駅(東京都豊島区)近くで乗用車が暴走し男女8人が死傷した事件を受け、厚生労働省は15日、逮捕された男が直前に吸っていた脱法ドラッグの成分を特例で専門家の審議など通常の手続きを省略し、「指定薬物」に緊急指定した。25日から販売や所持が禁止される。同省が薬事法に規定する特例措置を用いて緊急指定するのは初めて。事件発生から3週間でのスピード指定で、脱法ドラッグが原因とみられる事故がその後も相次ぐ状況に対し、強い姿勢を見せた形だ。【桐野耕一】

◇初の特例、厳格化
田村憲久厚労相が15日の閣議後の記者会見で明らかにした。同省は指定薬物に定められる前の脱法ドラッグも中枢神経に有害な影響を与える「無承認医薬品」として取り締まる方針を固めており、田村厚労相は「有害性が以前に比べ強くなりつつある。今後も指定の特例措置を含め、あらゆる法的手段を用いて脱法ドラッグを厳しく取り締まる」と述べた。
厚労省によると、脱法ドラッグの新たな成分を薬事法上の指定薬物に定める場合、覚醒剤や麻薬に似た幻覚作用のある有害成分を特定した上で、専門家会議で指定薬物に定めるべきかどうかを審議。会議で指定薬物にすると判断した後も30日以上の意見公募手続き(パブリックコメント)の期間を設けるため、通常は手続き全体で最大6カ月かかるという。

池袋の事件では、男が吸引した脱法ドラッグの一種の脱法ハーブから指定薬物は検出されず、警視庁が捜査の中で幻覚作用があるとみられる二つの物質を特定。厚労省と東京都の研究所で有害性が確認された。同省は事件の社会的影響と再発防止の観点から、通常の手続きを省略して緊急に指定薬物に定める必要があると判断した。
指定薬物にする省令は25日施行され、この物質を含む脱法ドラッグを販売したり所持したりすると懲役刑や罰金が科せられる。
脱法ドラッグを巡っては警視庁が10日、全国の警察本部に先駆け「脱法ドラッグ総合対策推進本部」を設置。東京都と合同で都内の脱法ドラッグの販売店44店舗を立ち入り調査した。東京都は警察官だけでも独自に立ち入り調査できるよう、警視庁の要望を受け条例を改正する方針。



[報告書]-----------(事務所ボスY)


この出来事は2014年7月16日早朝に起きた出来事である。
僕自身の主観によって書いたので、僕にとっては真実だが、逆に言えば僕以外の人にとっては全てフィクションである。
7月22日以降、警視庁と厚生労働省はいわゆる「脱法ドラッグ」の名称を「危険ドラッグ」と改称し、取り締まりを強化している。報道をみる限り「所持」や「使用の疑い」でも逮捕に踏み切っているようだ。
中毒者を真近で見た僕の感想は「本当に厄介で危険な代物」である。
「安酒を飲むと身体に悪い」じゃないが「危険ドラッグをやるくらいなら、ちゃんとした覚せい剤を……」と悪い冗談でも言いたくなるくらいだ。
現に、7月16日から二週間以上たつが、使用した本人はまだ具合が悪そうだ。

もし、このブログを読んでいる人の中に危険ドラッグを使用している人がいるなら、是非止めて欲しい。あなたの身体が……なんて言わない。いざとなったら多くの人が多大な迷惑をこうむることになる。その中にはあなたの大切な人も当然含まれるはずだ。そして近い将来必ずそうなる。法にも触れてないし、だいいち誰にも迷惑なんぞかけてはないよ、なんて思わないで欲しい。
本文では改称前の「脱法ドラッグ」の名称を使っている。


「早朝の事務所にて」

ここ半年ぐらい、逆流性食道炎による胸焼けで、早朝よく目がさめる。
7月16日の早朝も寝苦しさを覚えて目が覚めてしまったので、何時だろう? と思って枕元のスマホをみると、4:45だった。
FaceBook経由で、以前、僕の担当をしてくれていた元編集者からメッセージが入っているというので、胸焼けを抑えるべく牛乳を飲みながら、事務所のソファに寝転んで、返信メッセージを打っていると、玄関が開く音がした。

「盛られたよ! ちくしょう!」
ヨタヨタと入って来たのが事務所を共同使用している弟ではなく曽根さんだったので、ちょっとビックリした。
弟は夜昼問わず仕事をするので、いつでも出入りするが、曽根さんは、だいたい昼過ぎに来て夜には帰ってしまうので、今までにこんな時間に事務所に来た事はない。

「ど、どうしたんですか?」
「脱法だよ、脱法! 盛られた。くそう、誰が……マジで……」
見ると顔面蒼白。首筋には油汗がびっしり張り付いている。
「悪いんだけど、ちょっと休ませて。ホントまじで……幻覚がひどい……もうね……ものすごい。ごめん。発狂しちゃうかも。俺、暴れちゃうかも……」
手が小刻みに震え、怯えきった顔でそう言うので「とりあえず、ソファに横になってください」と寝かせた。
「本当は炙るヤツを、一気に呑んじゃったんだよ。ああ、これホントすごいな。俺はどうすればいいんだ? これを楽しめばいいのか? コレ死んじゃうよ。まずい。ホントにまずい。目を閉じていられない」
尋常ではない様子と言動に僕はまずいなと思った。

脱法ドラッグは、合法的に売れればいい、その為に強力にぶっ飛べればいい、それによって使用者が暴走して人を殺そうが、勝手に狂って死のうが関係ないし、あくまでお香なのだから、自分たちに責任はない、という恐ろしい設計思想のもとで作られているので、何が入っているかも、どうなるかも作った本人すらわかっていない。

池袋で大きな事件があったばかりで、容疑者のよだれを垂れ流した映像が印象的だ。オーバードーズで死人もでている。
僕の身近でも、7月の前半に、地元の友達が脱法ドラッグで狂ったあげく、彼女の家に殴り込み、傷害と器物破損で現行犯逮捕されている。
(彼は、彼女がとんでもなく破廉恥で淫らな浮気をしていると妄想していた。逮捕される1ヶ月くらい前に、電話で延々3時間くらい、その妄想を聞かされている)

炙るヤツを一気に呑んだなんて、最悪、死ぬ可能性がある――。
「救急車を呼んで! ああ、悪魔が出て来た! ホントにまずい!」
迷うところはなかった。
「本当に救急車呼びますよ、いいですね」
曽根さんが苦しそうに2度うなずくのを確認してから、救急に電話をした。


「救急隊の美人女性隊長と曽根さん」


マンションのエントランスで救急隊員を迎えた。
救急隊員は3人で、1人は小柄な女性。マスクをしていたが、目元ははっきりとした二重まぶたで、十中八九美人であることは明らかだ。
部屋は僕の部屋であること、さきほど友人がお酒以外に何かを飲まされて、具合が悪くなり、自分のところに来た、ということを説明しながら部屋の前へと案内した。

救急隊員たちは、玄関前にストレッチャーを置くと、部屋へ入り、持って来た装備を開き、血圧と体温、そしてペンライトで瞳の瞳孔を確認し、メモを取る。
「お名前はわかりますか?」小柄な女性隊員が曽根さんに問いかけると、ソファから起き上がり、一瞬背筋をのばして「あ、はい。曽根 賢ともうします」と神妙に答えた。
額には油汗びったり。
以後、曽根さんへの質疑応答は、全てこの女性隊員が行う。たぶん隊長さんなのだろう。

「お住まいはどちらですか?」
「あっ、わかりません。というか覚えていないんです」
「ご自分の住所が分からないんですか? いつ頃から、お酒は飲まれてます?」
「わかりません。いま何時ですか? 時間の感覚がちょっと……」
「どこで飲んでたのか思い出せますか? 自宅ですか? お店ですか?」
「思い出せません。池袋か新宿2丁目か……お店だと思います」 

引っ越して間がない曽根さんが、自分のアパートの住所を覚えていないのは元々なので、僕がそっと別の隊員に住所をメモして渡す。するとその隊員が「この方とどうゆうご関係ですか? 職業はなんですか?」と僕に聞いてくる。
昔、仕事で知り合って、今は友人関係で、この人は……、一瞬迷って「作家です」と答えた。
これで何かあっても「自称作家」になることはないだろう。

「曽根さん。今、どんな感じですか?」
「いや……、もう、幻覚がひどいです。ものすごい」
「なにか飲んだって言ってますけど、何を飲んだんですか?」
女性隊員の口調は抑揚を抑えたきわめて淡々した調子だ。
「わかりません。脱法です。盛られたんです。ロケットを」
「盛られたって、ご自分で飲んだんですか? それとも無理矢理飲まされたんですか?」
 質問を続けながら、女性隊員が、シートに素早く「ロケット」と書くのが見えた。

「……はい。飲みました、自分で。でも盛られたんです脱法ドラッグを!」
「じゃあ、ご自分で飲まれたんですね?」
「ホモはね! あいつらはホントやることしか考えてないんですよ!」
「危ないですよー」立ち上がろうとする曽根さんを女性隊員が制する。
「その飲んだやつって、今持ってますか?」
「いや、持ってません」
「どこにありますか?」
「わかりません。盛られたので」

僕は他の隊員に部屋の隅に呼ばれた。
「すみません。ちょっと、何を飲んだか分からない場合は、警察に通報することになってます。これから通報するので、ここに警官が来ることになると思いますが、かまいませんか?」
「え! ちょっと待ってください。通報義務があるんですか? ドラッグ関係は通報することにすると、患者が医者にかかれなくなるっていう理由から、医者に通報義務はないと聞いてます」
聞きかじりの知識を男性隊員にぶつけてみたが「いや、そうではないです。通報義務はあります」とはっきりと答えた。
たぶん昨今の脱法ドラッグ事案の急増で、そのようなお達しが出ているのだろう。
「かまいませんか?って、じゃあ、僕が拒否したところで、通報する訳ですね」
男性隊員は申し訳なさそうに「そうゆうことになりますね」と言った。
是非もない。そうゆうシステムなのだ。
「わかりました。そうしてください」と僕は言った。


「若い警官」


すぐ近くの交番からだろう、エントランスで若い警官を迎えた。
1人だ。20代前半といったところか。
部屋では女性隊員が、いつ頃、どのような場所で、どのような状況で、何を飲んだのか、を曽根さんに繰り返し聞いている。もちろん救命措置に必要な情報だが、曽根さんは詰問されているように感じているだろう。
部屋に行くまでの間に、救急隊員にしたように、これまでのいきさつを若い警官に話す。

「なんでおまわりがいるんだよ!」
警官を見るなり曽根さんが叫んだ。

「曽根さん。なんか通報義務があるんだってさ。仕方ないよ」
「おまわりはまずいよ! あっ、おまわりって言っちゃった。おまわりさんゴメンナサイ」
曽根さんがソファから身体をのばし、若い警官の足元にすがりつく。
「いったい、どうされたんですか?」若い警官が聞く。
「いや、何も飲んでません。なんでもないんです。てか、おまわりはまずいよぅ。俺雑誌作ってたんだから、おまわりはまずい。あっ、またおまわり……」
「曽根さんね」
女性隊員が諭すように言う。
「何飲んだかわからないんだから、わからない以上はおまわりさんに来てもらうことになってるの。血圧も高いし、体温も高い。一度病院に行きましょう」
「いやいや、行きません! もう大丈夫、ありがとうございます。治りました。大丈夫です。なので帰ってください」
「そうゆう訳には行かないんですよ。私達も呼ばれて来てる訳だし、だいぶ錯乱状態だし」
「ていうか、あなた、相当クールだな。しかも美人だ。俺と結婚してくれ!」
「ほら、やっぱり錯乱してる」

女性隊員と曽根さんがやり取りしている間に、若い警官は他の救急隊員からこれまでの話の報告を受けている。
「俺は、作家で詩人なんだ! くそう、女がいれば! あなた本当にクールだな。あなたの為に詩を捧げたい! だから病院には行きません。もう本当に大丈夫です!」
「病院に行かないなら、署に来て話を聞かせてください」
若い警官が言う。
「えっ! 俺、捕まっちゃうの!? うそだろ!」
曽根さんが若い警官を見上げて言う。 
「何にもしてないよ! てか、まずいだろ俺。雑誌作ってたんだぜ! それが捕まるなんて俺の最後のプライドが……。おまわりさん勘弁してください。もうしませんから許してください!」
 
明らかに警官が現れた時からの動揺が激しい。
これはまずい。いきなり逆上して警官につかみかかったりしようものなら、完全にアウト。
なんとかしないといけない。
僕は警官を廊下に連れ出し、話を聞くことにする。
「どうゆう状況ですか? 仮に病院に行かないとしたらどうなります?」
「まぁ、一応、救急から通報を受けている以上、話は聞かないといけないんですよ。病院に行かないなら、そのまま署に来ていただいて話を聞くということになりますね。もちろん任意になりますが」
警察の「任意」は「では行きません」で済む話じゃないだろう。ほっておくと何人も何人も「任意」を説得する警官が入れ替わり立ち代わりこの部屋へ来て……。で、曽根さんはパニクっている。
まずい! いよいよ不測の事態が起きかねない。

救急隊員が口を挟む。
「我々としても、無理矢理、病院に引っ張っていくことは出来ないんですよ」
「わかりました。どっちにしろ署で話をしないといけないんですよね? では僕が責任をもって病院に行くのを説得します」
パニクって死ぬかもしれない状態のまま、警察署に行って話をするのと、病院で処置をしてもらって、ある程度落ち着いてから警察署に行くのとの2択だ。当然後者。
僕はソファに座る曽根さんの横に、身体をぴったりと寄せるように座り、肩に手をまわし、耳もとで「大丈夫だよ曽根さん。とりあえず病院に行って看てもらおう。ねっ。俺も一緒に行くからさ」。
そして、救急隊員の方を向いて「一緒に行ってもかまわないですよね?」と言う。
部屋にいる全員がうなずくのを見て「じゃ、行こうよ」と曽根さんに言った。
 

「明治通りを南下する救急車車内」
 

ストレッチャーには乗らず、救急車までは一緒に歩いた。
「歩けない。なんで歩けないんだ!」
「いや、ちゃんと歩いてますよ」
僕は曽根さんの左腕をつかみ、転ばないよう注意しながら歩いた。
「くそ、なんでおまわりなんか来やがるんだ。ファック。Y君、写真を撮っておけよ!」

そんな、救急隊員や警官を刺激するようなことは絶対してはいけない。
この後、警察署に行かなくてはならない。
警察署に行ったら、どうなるかは分からない。
覚せい剤ではないだろうが、脱法ドラッグといっても、売れ残りの昔のモノだったら、現在では規制されてる違法成分が含まれている可能性がある。そうなれば薬事法でアウトだ。売れ残りじゃないという保証なんてどこにもない。
脱法ドラッグなんかをあつかっている連中なんか、微塵も信用できない。
本当に誰かに盛られたのか、自分でやったのかも分からない。ただ、本人がそう言っている以上、そうゆう事にしておけば、仮になにかあったとしても情状酌量もありうるし、そうなる為には、まず突発的な暴力だけは完全に封じなければならない。
最後は心証がモノを言うのだ。

この時点で僕が考えていたのは「とても捜査に協力的な真面目な好青年と、それに普段から迷惑をかけているダメなおじさん。そのおじさんがたまたま変なことに引っかかっちゃって、グダグダになっている、そんな程度のお話」を徹底的に印象付けなくてはならないってことだった。事実そうだし……。

救急車に乗り込み、曽根さんがストレッチャーの上に横になる。続いて、ストレッチャー脇のベンチに僕と若い警官が座る。
「なんでおまわりが付いてくるんだよう」
僕は曽根さんを無視して若い警官にこそっと言う。
「おまわりさん、申し訳ないけど、この人20代の時に警官5人くらいにボコボコにされた経験があるらしく、それ以来警察のことが大嫌いなんですよ。わかるでしょ? そうゆうタイプの人間。制服見ただけで、コノヤロ!って思ちゃいがちなタイプなわけ。だから、あまり高圧的な物言いとか控えてほしい。そのかわり僕が責任をもって協力させるから」
若い警官はうなずいてくれた。
彼も仕事なのだ。決められた仕事の手順を踏まなければならいのだ。出来る事ならスムーズに事を運びたいに決まってる。
 
救急車はサイレンを鳴らしながら明治通りを南下していく。
車内では、曽根さんが発狂したり暴れたり、若い警官に絡んだりしないように最大限気を配った。ほうっておくと独りの世界に没入していき、突然暴れるかもしれないし、意識レベルが急に下がって容態が急変するかもしれないと考え、一生懸命話しかけた。
感覚的には、今にも泣きそうな幼児の目の前にガラガラを持っていき、必死に注意を引きつけ、あやす感じだ。

「曽根さん、幻覚が見えるっていうけど、どんなのが見えるの? そんな面白いもんを僕にも分かるように話してよ」
「なんか、幻覚っていうかビジョンなんだけど……。こう、カンブリア紀からの生命の記憶がバーーーっと脳に入り込んでくる感じ。Yくん! DNAってすごいよ! もうね、いままでの全ての記憶が書き込まれているんだよ! あぁ、ドストエフスキーとか世界の天才たちは、ここまで踏み込んでいるのかぁ……くっそ!……ここまで踏み込まないと作家なんぞにはなれないのか……俺なんか到底無理だ! 気が狂うよ。作家なんか。だから自殺してる奴が多いんだ。踏み込みすぎて、みんな気が狂うんだ!」
「まぁまぁ曽根さん。世の中、天才だけでまわらないから大丈夫ですよ。別に天才じゃなくても作家なんて沢山いますよ」
「あとねYくん。神様になっちゃう奴っているじゃん。新興宗教とかの。あれね、気持ち分かるよ」
「ほう、なんでなんですか?」
「つまりさ、こうカンブリア紀からのビジョンを見るわけじゃない? で、考えるとこのビジョンってのはさ、俺の中にあるものだし、俺が死んじゃったら全ておしまいになるわけでしょ」
「まぁ、そうですね」
「つまり、世界ってのは、俺個人が認識してる世界が全てであって、今みたくカンブリア紀からの記憶とかをみちゃうとさ『あっ、つまり俺が神様だったんだ』って思うわけよ」
「ええ!? じゃあ、いま曽根さんは自分が神様だと思ってるわけですか?」
「いやいや、まだ半分は正気が残ってると思うから、まだそんなふうには思ってないし、必死に抵抗してるけど……でも、半分本気で自分は神様なんじゃないかと思ってるよ。だからこっから先に踏み込んで、それを自分自身で受け入れちゃうとね、つまり発狂しちゃうと、そうなるね、ふふふ」
「うあぁ、神様かぁ。やだなぁこんな神様。こんな神様だったら僕はいらねぇや」
「そういえば、さっきの美人さんはどこに行った?」
「そこにいますよ」
僕と若い警官が座っている横向きベンチの前方に座っている女性隊員を指差す。
「ああ、君に詩を贈りたい!」
「ちょ、ちょっと曽根さん、他の人には絡まないで」
さっきから気配を消して座っている女性隊員はピクリとも反応しなかった。

救急車が病院の駐車場に滑り込んで停止する。
後部のハッチが、隊員によって開けられ、僕と若い警官が降りる。
続いて、曽根さんもストレッチャーから起き上がり降りようとすると、
「曽根さーん、そのままでいいですから。乗ったままでいいですから」と女性隊員に制止され、ストレッチャーのまま救急車から降ろされた。

救急搬送口と書かれた病院の入り口から入ると、すぐに処置室になっているようだった。
僕と若い警官は処置室入口で足を止め、曽根さんはストレッチャーに乗ったまま中へと運ばれて行く。
大きく両腕を上げ、両方の中指を立てながら処置室の奥へカラカラと運ばれて行く曽根さんの後ろ姿を、僕と若い警官は見送った。


「病院と二人の刑事」


とりあえず、病院に着いたので命の心配はなくなった。
これで死んだら、まぁ曽根さんもそこまでの運命だったのだろうと諦めもつくし、ここまでやったんだからと自分への言い訳も立つ。
「本当に、ご迷惑かけてすいません」
処置室の入り口で若い警官に何度も謝った。
「いやいや」
若い警官は笑顔で首を振り「ところで、こうゆう事、これまでに何回かあるんですか?」と、真顔になって聞いてきた。
「いやぁ、お酒は本当に好きみたいなんで、酔っぱらって…てことは何回かあるんですけど、今回のことは初めてですね。ただ本人から聞いた話だと、何年か前に新宿2丁目でゲイと飲んでて、気づいたらその人の部屋で、あきらかに何かされたっぽいって。なんか盛られたんだって話は聞いた事がありますね……もうホントに」

本当にたいした話ではないんです。ただただダメなおじさんなんです。本当に迷惑をかけてスイマセン。僕がそばについていながら……殊勝な青年を通そう。
処置室の入口で若い警官と話していると、緊急搬送口から2人の男が入ってきた。若い警官が挨拶をする。
1人は中肉中背。優しい顔つきをしているが、体つきは引き締まっている。
もう1人は背こそ高くはないが、がっしりとした身体付き。
二人はX署から来た刑事だと言った。
「この方が付き添いの方?」
中肉中背の刑事が僕の方を差して若い警官に聞く。
「あっ、そうです。Yと申します。お手数をかけます」
若い警官が答える前に、自ら名乗り出た。
そこへ、さっきの女性救急隊員がやって来て「警察の方ですか?」と中肉中背の刑事に聞いた。

「X署の○○と申します」
「所属と階級お願いします」
「組織犯罪対策課で、警部補です」
「お名前は曽根賢さんです。脱法ドラッグの……ロケットっていうのを飲んだみたいですね」
「あっ、なんか盛られたって言ってました」
僕はすかさず口を挟むが、女性隊員は僕を無視して引き継ぎを続ける。
「未明にクスリを飲んだみたいですけど、どこで飲んだのかは覚えていないみたいですねー。所持はしていませんでした。幻覚が見えるっていってましたね。救急車の中では付き添いの方が気を紛らわすためにずっと話かけてくれてて……」

とりあえず、口を挟まず大人しく引き継ぎが終わるのを待った方がよさそうな雰囲気だった。コトのあらましは、救急隊員から全て報告されるだろう。
「処置にはあと30、40分くらいかかりそうです。そこ入って右に曲がったところが待合室になってます。それじゃあ、よろしくお願いします」
女性隊員は刑事にそういうと、病院の奥へと立ち去ってしまった。

「ホントにすいません」
刑事と目があったので、そういって頭を下げた。
「よくあるんですか? こうゆうこと」
「いや、お酒は本当に好きみたいで……」
若い警官に話した事を一言一句違えず話した後「で、この後どうゆう流れになりますか?」とたずねた。
「まぁ聞いたところ幻覚が見えるとか。だから覚せい剤じゃないと思うけど」
「覚せい剤なんて、とんでもないです!」
「でもまぁ我々としても話を聞かないといけないんで、署の方に来てもらってって感じになりますね」
「ロケットって言ってましたけど……」
「それもね、来る前にちょっと調べたんだけど、分からなくてね。どっちにしろ来てもらうことになりますね。まだ処置に時間かかるみたいだし、まぁ待ちましょう。お時間大丈夫ですか?」
「大丈夫です。お手数かけます」
頭を下げて「ボク待合室にいます」と言って、その場を離れた。

刑事たちは待合室には来なかった。処置室の入口に立ったまま待っている。
僕は待合室のベンチに座りながら「と、いうことは……」と考える。
完全に被疑者としてみてるんだよなぁ。
だから待合室には来ず、処置室入口で立ったまま待ってるんだよなぁ。
そりゃそうだよね、逃亡の恐れありだもんね。
かーっ、日本の警察はちゃんとしてるなぁ!
これはゆるくない。ゆるくないぞ。
状況をちゃんと整理してコトにあたらないと、ホントとんでもない事になる。

待合室には、ホストっぽい格好をした若者が3人いた。全員シャツもしわしわ、上着もしわしわ、自慢の頭もぼさぼさ。
コソコソ話をしているのが漏れ伝わってくるところによると、どうやら仲間が殴られて、救急搬送されたみたいだった。
そんな青春真っ盛りの若人を横目に、まずは「脱法ドラッグ ロケット」をスマホで検索した。
ロケットニュースというニュースサイトが上位を占めるなか、あった「ハイパーロケットパウダー」これか!?

「合法ハーブwiki」なるサイトの「ハイパーロケットパウダー」の項目を見る。ハーブ系とリキッド系があるらしい。曽根さんは「飲んだ」と言っていたので、たぶんリキッド系のほうか?
読み進めてみたが、効能や副作用、保存方法などが書かれているが、肝心の成分は書かれていない。んー、これじゃ分からないなぁ。他のそれらしきサイトも色々みてみたが、結局、違法成分が含まれるのかどうかは定かではなかった。
刑事が「来る前にちょっと調べたけど分からなかった」と言っていたが、その通りだった。

次は、警察がどこまで考えているかを知ることにした。
まず病院内の売店で自分用のお茶と、カフェラテを3つ買った。
それを持って処置室入り口にいる3人に持って行くことにする。

「いろいろ面倒かけてすいません。もしよかったらこれどうぞ」
一番手前にいた、背丈はないががっしりした体格の刑事にビニール袋ごと差し出した。
「いや、今、関わってる事案中なので、申し訳ないですが、受け取れないんですよ」
刑事は本当に申し訳なさそうに言った。

やっぱりね。そうかなぁとは思っていたけど、やっぱりそうだよね。
でも、全然悪い気はしなかった。ちゃんとしてる。僕はどんな人でも職業倫理が高い人が好きだ。いわゆるプロフェッショナル。こうゆう本当に些細な事だが、そうゆうところをもおろそかにしない人たちが、日本の治安を守っているんだと思うと嬉しくなる。
僕や曽根さんとは大違い。日本は良い国です。

「あっ、そうですよね! 考えが至りませんですいません!」
ハタと気がついたように、やや大げさに言って「ちょっと、たばこを吸ってきます」と、そのまま救急搬送口から駐車場に出た。
これでちょっとは「いいヤツ」と印象付けられたかな? もちろん自分でも善良な市民を自負しているが「ダメなおじさんと面倒見のいい青年」の構図を徹底的に印象付けないといけない。
何度も言うが、しょせんは人対人。どんな状況でも最後は心証がモノを言うのだ。

駐車場でタバコを1本吸ってから(この時、先ほどの女性救急隊員とすれ違った。ずっとマスクをしていたが、この時は外していた。やはり美人だった。「先ほどはどうも」と言うと「お大事になさってくださいね」と笑顔で答えてくれた)救急搬送口に戻って、中肉中背の刑事に話しかけた。さっき警部補と言って救急隊員から報告を受けていたので、多分この人が指揮官だと思ったからだ。

「刑事さん。さっきまで本当に死ぬんじゃないかって心配してたんですけど、病院来てちょっと安心したら、だんだん腹が立ってきましたよ。いい歳していい加減なことしてホントに……。すみません。ホント迷惑かけて……」
「いやいや、まぁ……」
分かりやすい心情変化の吐露。いいヤツっぽいでしょ?

「で、やっぱり大切な友達なんで、心配だから聞きたいんですけど……」
もうあとは直球で。
「この後、警察署に行って、具体的にどうゆう流れになりますか?」
「まぁ、やっぱり採尿してもらってって流れになりますかね」
「それは何を調べるんですか? 覚せい剤ですか?」
「そうですね」
「でも、脱法だって言ってますよ」
「まぁ、一応ってことですね。幻覚が出てるってことだから、症状から覚せい剤じゃないとは自分らも思ってますけど、一応ですね」
「脱法のほうは調べるんですか?」
「まぁ、僕ら薬班じゃないもんで、詳しくはそっちのほうの判断になってくるとは思いますけど、脱法はいろんな種類があってすぐには調べられないんですよ。覚せい剤はそうゆうキッドがあってすぐ分かるんですけど、脱法にはそうゆうキッドがまだないんですよ」
「じゃあ今回、本人はロケットって言ってますけど、それに違法薬物が入っていた場合どうなるんですか?」
「必要とあれば、本鑑定っていって、ちゃんと検査するところに尿をまわして……1ヶ月くらいかかるんですけど、まぁそこで全部出ますので、それで違法なものが入ってたら、1ヶ月後に我々が迎えに行くってことになりますね」
「てことは、今日どうにかなるってことはないんですね?」
「まぁ、覚せい剤がでなければ、今日どうこうってことないですね」
「わかりました。ありがとうございます」

大体の状況がこれで分かった。
警察は、まず覚せい剤かどうかを調べたいと考えていること。
脱法ドラッグは「必要とあれば」検査に出すこと。
覚せい剤検査は、問題ないだろう(たぶん)。
問題は「ロケット」なる脱法ドラッグ。これに違法成分(薬事法による指定薬物)が入っていたら1ヶ月後に逮捕。こればかりは分からない。

ただこの時、僕は知っていた。2000件以上の脱法ドラッグが鑑定待ちということを。
ニュースか何かで見たのだと思う。
脱法ドラッグはとにかく何が入っているのか分からない。その分からないモノを特定するのには相当な手間と時間がかかる。ゆえに2000件以上が現在鑑定待ちで、作業もそれを行う施設も人もまったく追いついていないという。
ということは「必要とあれば本鑑定にまわす」という判断基準はどこにあるのか?
ズバリ事件と事故だろうと思った。つまり脱法ドラッグの影響によって事件または事故を起こしたかどうかなのだ。
脱法ドラッグをキメて車で暴走したあげく女性1人をひき殺した池袋の事件などは重要度MAX。当然マストで本鑑定行き。あとは脱法ドラッグの使用者が、議員だったり警察官だったり教師だったりと社会的に地位のある人といったところか。
そうゆう世間的に関心が高い事案が優先的に本鑑定にまわされるのだ。
かなりの確率で大丈夫。そう思った。

手間のかかる本鑑定にまわされ、「ロケット」から違法成分が検出されるという2つのハードルを越える確率は今のところ低い。
ただし、今後気をつけなければならない点が2つ。
1つは、曽根さんが突発的に暴れたり採尿を断固拒否して心証を悪くすること。
もう1つが『BURST HIGH』の編集長であったことが知れること。
この2つを徹底的に気をつければ大丈夫。もしダメならポンポーンと2つのハードルは軽く越える。
「あの、お時間大丈夫なんですか? お仕事とか……」
時計を見ると、すでに7:30過ぎだった。
「大丈夫です。こんな事態なんで、出来る限り協力させていただきます!」
「助かります」
中肉中背の警部補は笑顔を見せた。
少なくとも僕の心証はMAXにしておかなきゃならない。

「処置が終わりました」
医者が僕らのところに来てそう言った。
見ると、曽根さんが処置室の奥から、冬眠から目覚めたばかりの熊のように、のそーっと歩いて来る。髪の毛ぼさぼさ。服はよれよれ。うつろな目で、出口で待つ僕たち4人をいぶかしげに観察している。
「ど、どうも、すいません…」
おどおどした表情で、こちらに歩いてくる。もちろん全員が、冷ややかな視線を送っている。たぶん薬の抜けきらない曽根さんからみたら、出口で待つ僕たち4人が敵に見えているに違いない。

あっ、それは良くないと、とっさに思いなおして、4人の輪を抜けて、
「もう大丈夫なんですか? 具合はどうですか?」
と満面の笑顔で歩みより、背中に手を回した。
「う、うん……だいぶ良くなった。点滴打ってもらった」
「それはよかった」
「なんか人、増えてない?」
「うん。刑事さんが来てる」
「ええ! なにそれ!俺どうなっちゃうの!?」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと話を聞きたいってだけだから。さぁ来ましょう」
「ええ、行くってどこに!?」
「警察署」
「マジで!?」
「ホント大丈夫。ちょっと警察署行って、しょんべんして帰りましょう」

話ながら、緊急搬送口を通って駐車場に出る。
若い警察官も2人の刑事も曽根さんには話かけず、僕らについて来る。
一瞬、病院の会計が頭をよぎったが、曽根さんはどうせお金持ってないし、僕もさらさら払う気はない。後で曽根さんがありもしない金を持って払いに来ればよいのだ。

「これちょっと、なくすといけないから、僕あずかっておきますね」
曽根さんがもっていたルーズリーフを受け取った。中には病院の請求書と診察券が入っている。
「尿検ってマジかぁ。俺捕まっちゃうの?」
「大丈夫、大丈夫……。って知らんけど(笑)」
「えええ!!」
「うそうそ。大丈夫ですよ。少なくとも今日は(笑)」
「今日はって、どうゆうこと? ホントどうゆうこと?」

駐車場に車は1台しか停まっていない。よくあるシルバーの覆面だ。
車の前で「僕も一緒に行っても大丈夫ですよね?」と中肉中背の警部補に聞いた。
「お時間とか大丈夫であれば、その方が曽根さんも安心するだろうし、助かります」
「だって、曽根さん。僕も一緒に行くから、さっ、乗って乗って」
後部座席に曽根さんを押し込み、僕も乗り込む。
中肉中背の警部補が若い警官に何か指示をする。
若い警官は車の後部から回り込み、反対側から後部座席に乗り込む。必然的に曽根さんを挟むカタチに。
あぁ、いちいちちゃんとしてるなぁ。
助手席には中肉中背の警部補。運転手はがっちりとした刑事。
5人の乗った車は駐車場を出て、いざX署へ――。

●以下「報告書」その2へ続く