バーナム博物館 (白水uブックス―海外小説の誘惑)/白水社

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みなさんこんばんは。

もうすっかり寒いですね。町はクリスマス一色です。みなさんクリスマスのご予定は決まりましたか?管理人にはもちろん男の影などあるはずもなく、家で楽しくミステリーを読んで過ごすことになりそうです。うるせぇ!!泣いてねぇよ!!!!!

本日の本はスティーヴン・ミルハウザー『バーナム博物館』です。

 バーナム博物館の、バーナムはP・T・バーナムというアメリカの興行師からつけられたようです。このバーナムという人物を形容するのに「ほら吹き」「胡散臭い」という言葉が使われるように、人をだまして面白がらせるのが得意な人物だったんだとか。サーカスや見世物小屋で一躍有名になったんだそうです。血液型占いなんかでよくあるような、誰にでも当てはまることを言って、占いが当たったように思わせる『バーナム効果』という言葉は、このバーナムさんからつけられているんです。まさにキングオブ胡散臭い!!!

 本書はそんな奇妙で、胡散臭くて、でも思わず読まずにはいられないお話が10編収録された短編集です。

 読んでいて思ったのが、とにかく描写がこまかい!!!大体の小説って読者が創造しやすいポイントだけ抑えてあとは読者の想像に任せて話の本筋に入るものだと思うんですけど、この作品は建物の構造、扉の位置、壁紙や置いてある調度の色、すべてに綿密な描写があるんです。作者さんは多分建物に詳しいんでしょうね。最初は読みにくいな~と思ったのですが、この細かい描写があってこそ奇妙な空間がしっかり表現できるのだなぁと感じました。

 以下一言ネタバレ感想

①シンバッド第八の航海

 日本ではシンドバッドという訳のほうがメジャーかな?『千夜一夜物語』で七つの航海を終えて引退したはずのシンバッドが第八の航海をしていたら……というお話。引退したシンバッドと、シンバッド薀蓄と、第八の冒険が交互に切り替わるテンポのいいお話です。
 シンバッド薀蓄によると、シンバッドのお話はいくつも訳が出ていて、同じ話のはずなのに端折られたり付け加えられたりしていてまったく別ものになっているそうですね。それだったら第八のお話があっても良いじゃんっていう発想なのかな。

②ロバート・ヘレンディーンの発明

 イマジナリーフレンドという想像上のお友達がいるというお話はよく聞きますが、これは「彼女がいないなら自分で想像上の人間を作ってしまえば良いじゃない!!」というとんだ童貞アントワネットのお話です(すいません主人公が童貞かどうかは分かりません。全国の童貞の皆さん大変失礼いたしました)。わかるよー、わたしもねー中学のときはオリキャラとか作ってたよー黒歴史だね!!でもこの主人公はちょっとやそっとの想像では終わらなかったんですね。血管の一つ一つ、動作の大小まできっちりきっちり想像してしまったんです。最後には想像に飲み込まれて……幻想的な一遍。

③アリスは、落ちながら

 ご存知『不思議の国のアリス』でアリスが落ちた穴が永遠に続いていたら……という興味深いお話。アリスは落ちながら、穴はどこまで続くのか、これは夢なのか考えます。あるときは心細くなり、あるときはまったく現実味が無くなり、それでもまだまだアリスは落ち続けているのです。ヴィクトリア朝スキーの管理人には調度の描写が美味しかったですね!!!!

④青いカーテンの向こうで

 映画の中に入り込んでしまったら……というこれまた想像力たくましい少年の話。小さいときの映画館って独特な思い出ですよね。初めて味わう劇場の独特の空間。この少年はどうやらこちらの世界に戻ってくることができたようです。

⑤探偵ゲーム

 クルーというアメリカの探偵ゲームを通して、プレイヤーである兄弟とその彼女がお互いの心の中を詮索しあうというユニークなお話。どうでもいいことなんですが、このクルーというゲーム、英国ではクルードという名前で親しまれているんです。でね!!このクルードね!!私が大好きなシャーロックバージョンが出てるんですよ!!!!めちゃめちゃほしい!!!シャーロッククルードやりたい!!!でも一緒にやる友達いない!!!!

⑥セピア色の絵葉書

 滞在先のホテルの近くにある古道具屋で手に入れたセピア色の絵葉書は、男女のいがみ合った姿を映した物だった……。なにもかもうまくいかない、雨で憂鬱で嫌な気分になるときってありますよね。

⑦バーナム博物館

 バーナム博物館案内ともいえる本作。バーナム博物館は一言で言えばぐちゃぐちゃ。建築もばらばらで、部屋の数すら判然としない、置いてあるものは古今東西から集められた統一性の無い奇妙なものばかり。その様子を、詳細に記録したブンダーカンマー好きに捧げたい作品。作者さんの頭の中には、本当にバーナム博物館に言ったときの記憶が残っていて、それを思い出しながら書いたんじゃないかしらというくらい詳しいです。これを元に誰か建ててくれないかしら、バーナム博物館。

⑧クラシック・コミックス #1

 これよく分からなかったのだけど、どうやらT・S・エリオットの「J・アルフレッド・ブルーフロックの恋歌」という詩を漫画化し、さらにその漫画を文字で説明したものらしい。こ、これ絵で見たいんですけど……。

⑨雨

 これいまいちよく分からない。洪水のようなものすごい雨に存在がにじみ、流されてしまう幻覚を見た男のお話。

⑩幻影師、アイゼンハイム

 これ映画になってます!!!!管理人の大好きなエドワード・ノートン先生がアイゼンハイムやってらっしゃいます!!!かっこいい!!かっこいい!!19世紀末のウィーンで一人の幻影師が名を上げて、そして忽然と自らの姿を消してしまうまでのお話。19世紀末ヨーロッパスキーだからもちろん美味しくいただきました。
 オレンジの木がにょきにょき生えて、婦人のハンカチを蝶が持ってくるくだりなんかは映画でとても美しく再現されていましたね。映画はこの作品にプラスして恋愛ストーリーを絡めてきてるので、幻影感はちょっと薄れているのですが、本書は煙のごとく消えた男の不思議さが強く伝わってくる仕上がり。特に、悲惨な戦争が始まる前に姿を消したっていうのが印象的な余韻になっています。
 このアイゼンハイム!なんと連続ドラマ化が決定しております!ノートン先生は多分でないんだろうけど。とっても楽しみ。舞台がニューヨークになってしまっているそうですけど……。


 最近幻想小説を読んでいなかったので大変楽しく読めました。
1990年に書かれたお話なんですけど、19世紀末の雰囲気を纏ったお話が多くて個人的にうれしかったです。
なぜ勉強させるのか? 教育再生を根本から考える 光文社新書/光文社

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 踵が破れていた過去の相棒とおさらばし、
新たな相棒となるウォーキングシューズを購入しました。管理人です。

 でもね、重大事実発覚。この靴、靴擦れできんの。
ウォーキングシューズですよ??????
華やかさとかオシャレ感をそぎ落としてウォーキングに特化して鍛え上げられてきたやつらですよ。たとえて言うならスナイパー専門の軍人のようなものですよ。
そのスナイパーが視力0.1以下だったみたいなもんですよ!!!!!
亀山薫の後の相棒が神戸尊だったみたいなもんですよ!!(神戸さん好きですけど)
ショックでしたね。絆創膏を足に貼ってウォーキングシューズ履く悲しさね。

 気を取り直して。本日の本は諏訪哲二さん『なぜ勉強させるのか?』です。

 勉強というものから逃れ逃れてこの体たらく。
今一度、勉強というものを勉強してみようとこの本を手に取ったしだいであります。

 「ゆとり教育」って記憶に新しいんじゃないでしょうか。
近年新社会人となってきた若者たちを「ゆとり世代()」と揶揄するような意味で使われることもあるこの言葉。実施されたのは2002年からです。
 ゆとり教育をざっくり言うと「子供を学校に無理やり合わせるのではなくて、学校の教育を子供にあわせていこう」というものだったそうです。へぇ、知らんかったわ……。でもこのゆとり教育、「学力低下」論争に負けて姿を消してしまいます。今では親が積極的に子供を管理・教育する「学力向上」世代になっているんですね。

 でも、学力低下の問題は必ずしもゆとり教育だけの責任ではないと筆者は言います。そもそも近年では子供が「自分は自分、それでいい。みつを」みたいに、変に自分を肯定しだしているというんですね。自分をすでに完成されたものだと誤認しているので、先生が何を言っても自分をよりよく変えていかないというわけです。このような生徒のことを「新しい生徒」と筆者は表現しています。

 自分は自分であるという「個性化」と社会の一員であるとする「社会化」のバランスが大事なんですね。どちらが大きくなりすぎてもいけない。子供たちは「自己」を形成していくためには、一度社会によって自己を失わなければならないということに、なかなか気づけないんです。社会的な個人になるということは、決して自分の主義主張を押し通してなるものじゃないんですね。

 次はじゃあ何のために学校や教師がいるのか?という話になります。そもそも勉強って何をするためのものなんでしょうか。私はこの本を読むまで「知識を身につけるため」だと思っています。でも諏訪さんはそうではなく、「知識を身につける」ためと「人間的に成長するため」であるとおっしゃっています。
 人間は自然にしていては絶対に勉強なんてしません(する人もいるでしょうけど)。勉強しないほうが普通なんです。でも、それでは近代化した社会を生き抜くことはできません。だから学校の先生が口うるさく根気強く、勉強できるような人間になる手伝いをしてくれているのです。

 他には無宗教者である筆者が「唯一神」の存在を意識していたのが印象に残っています。欧米マンセーをしているわけではないのですが、私たち日本人には絶対的な『神』という存在がいませんよね。だからややもすると自分に全能感を持ちがちです。「なぜ勉強しなければならないのか?」の問いを発しているのはいまだに全能感を捨てきれないでいる幼い私であるのです。そんな質問、誰も答えられないに決まってます。だってなぜ勉強するのかは「わからない」が正解だもの。
 でもそうやって自分に全能感を持ったまま、自分でなんでもできるというものはただの思いこみです。人は絶対に一人では生きてはいけないのに、自分を曲げずに人とともに生きてこなかった人にはかならず不備が生じます。これが現代の生きにくさなのかもしれません。

 最後に、筆者は「勉強」というものは、今の自分にはない新たなものを取り入れて、自分を一度否定して、再構築するものであると言っています。それが、独りよがりな自分を、社会的なものにしていくプロセスなのだと。自分自身の「ありのまま」は、そのままでは社会に通用しないんです。なんだか大ヒットしたアナ雪の歌が、現代の肥大化した自意識を表しているような気がして、背筋が寒くなりました。

 なんか自分用メモみたいになってしまった。
 

 
すべてがFになる THE PERFECT INSIDER S&M/講談社

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 みなさんこんばんは。
先日靴が破れていることを記事に書いたはずなのに、
すっかり忘れてそのまま使い続けてしまい
今日雨の中を歩いていて
「異様に足がぬれる。つーか踵中心に濡れてる。あっ!!」
と踵が破けていることをやっと思い出した管理人です。
買い替えよ!!早く!!衣食住の出費くらいはちゃんとしよ!!!
最低限人間的な生活しよ!!!

 本日の本は『すべてがFになる』です。
昨日ドラマの解決編だったようですね。
私も母が見ていたので所々見ました。
この作品に出会ったのが中学のころだったんですけど、
「賢い人々」というのはこういう会話をするのだなぁと
馬鹿みたいに感動していた記憶があります。
今でも私の中の賢い人イメージは真賀田四季博士です。
そのぶれない生き方は永遠の憧れでもあります。

 超絶天才美少女☆真賀田四季は孤島にある研究所で半分監禁されたような状態でお仕事をしていました。冒頭の博士と萌絵の会話は当時諳んじられるくらい何度も何度も読み返しました。解説の瀬名秀明さんが「森さんは思考回路を描写することで天才の頭の中を表現する」的なことをおっしゃってるんですが、まさにそんな感じ。天才と天才が会話するとこんな風になるんですね……。

 その孤島になぜかキャンプにやってくる犀川研究室ご一行。国枝さんかわいいよ国枝さんハァハァ。もちろんS&Mは研究所にお邪魔して殺人事件に巻き込まれます。殺されたのはなんと天才美少女☆四季博士!!四肢を切断されてウエディングドレスを着せられ、P1という運搬ロボットに乗せられるという奇妙な状況で発見されました。今までの15年間、四季博士の部屋に理由も無く出入りした人物は誰もおらず、24時間稼動している監視カメラにも犯人らしき人物は写っていませんでした。いったい誰が、どうやって博士を殺したのか……?

以下ネタばれ

 『すべてがFになる』というタイトルは、数ある小説のタイトルの中でもなぜか心に残ってしまう不思議なタイトルなんじゃないでしょうか。好きです、このタイトル。
でもこのタイトル、理系の、特に情報系の方が読んでしまうとおもいっっっっっきりネタバレしてしまうようです。学生時代に物理学科の大学院生の方と偶然この小説の話をしたのですが、「あー、あれタイトル見た瞬間わかっちゃうよねー」とおっしゃっていました。つ、つまんねぇ……。私なんか何度16進数を説明されても分からないのにwwwww

 このお話はトリックがわかってすっきりするのに、動機が理解できなくてもやもやしますね。理解できないのは四季博士と私があまりに違いすぎるからなんでしょうけど。でも、予定調和な「自由」を求めるような下らない動機で博士には人殺しなんてしてほしくないのでこれでよかったのかなと思います。(何がだ

 ドラマの四季博士の方はミステリアスな魅力のある綺麗な方でした。年齢不詳なところもぴったり。次の森作品は『数奇にして模型』!