虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)/早川書房

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 インフルエンザにかかりました。管理人です。

 最初、ただの風邪かな~と思ってひたすらベッドで寝ていたのですが、熱が39.6度をマークしたときにこれはまずい。死ぬ。ちょっと三途の川見えてきた。と思ってあわてて救急病院へ。検査をしてもらったらインフルエンザでした。
 ERのお医者さんって本当にすごいですよね。夜中の1時とか2時だとかにバリバリ働いて……。私を診察してくださったお医者さんは若い女の先生だったのですが、めっちゃ咳してました……先生……あなたこそ大丈夫ですか……?すいませんこんなときに診察してもらっちゃって……。

 さて、本日の本は伊藤計劃さん『虐殺器官』です。

 ゼロ年代ベストSFに選ぶ人も多いこの作品、今度アニメ映画化するようで。ミーハーな私は早速読んでみました。

 舞台は2020年頃のアメリカ。主人公のクラヴィス・シェパード大尉は米軍の特殊検索群i分遣隊というところで暗殺の任務を請け負っていた。今回彼のところに来た仕事はジョン・ポールという男を生け捕りにすること。ジョン・ポールは発展途上国のPRを行う会社に勤めていた男だが、彼が行く場所行く場所で激しい虐殺・内乱が起こっているというのだ。いったいどうやって内乱を起こすのか、そしていったいなぜそんなことをするのか。SFとしてだけではなくミステリーとしても評価の高い作品です。

以下ネタバレ感想

 これは偶然なんですけど、この本を読む数日前、私は「言語が思考を規定する」のだな~となんとなく考えていたんですよ。思考は必ず言語がないと行えないから、言語の範囲が思考の範囲なんだと思っていたんです。でもこの本は真逆のことを言っていて面白いなと思いました。つまり、思考というものは言語なんてものを使う前からすでにそこにあって、言語は後から発達したただの「器官」に過ぎないというんですね。キリンの首が長いほうが生存に有利だったように、言語を持ったほうが生存に有利だったからそれを獲得したまでだと。なるほど、と思いました。

 ジョン・ポールはこの器官としての言語を「虐殺器官」として用いることで行く先々で内乱を起こしていくわけですが、その理由が「ええええ!そんなのありかよ!……でも確かにそうだ……」と納得せざるを得ない理由なんですよね。一流のホワイダニットという評価も頷けます。愛しいものの平和を守るための虐殺。持てる者がそれを持ち続けるために、持たない者のすべての死を背負う覚悟をしたジョン・ポール。決して許されてはいけないのだけど、日々の生活に追われてそんな場所には目も向けないというのは本当にそのとおりだと思ってしまいました。

 このお話はシェパード大尉の一人称で進むわけですけども、痛覚や良心の呵責が外部からコントロールされている大尉の思考はなんとなく鈍磨していて、グロテスクな描写が多いにもかかわらず「見えているのに見えていない」感覚なんですね。私達のような普通の人間は自分というものの範囲がきっちりと自分で保有している肉体として想像できるけれども、彼らにとっては自分の範囲がなんだか曖昧なんじゃないでしょうか。この曖昧さの心地悪さはシェパード大尉のお母様の状態のときにも感じました。曖昧な死。生と死は完全に分かれているわけではなくて連続的につながっているというところ。月並みな言葉で言うと科学の発展に心の理解が追いついていない感じ。

 ラストにシェパード大尉はアメリカで「虐殺器官」を発動させますが、私はなんだか「博士の異常な愛情」のラストシーンを思い浮かべてしまいました。アメリカ大変なことになってるのに、大尉の鈍磨した感覚では何も感じないんでしょうね。

 どうでもいいのですが、私の好きなモンティ・パイソンネタがところどころ出てきてうれしかったですw特に『モンティ・パイソンとホーリーグレイル』は傑作だと思うので、興味をもたれたかたは是非ご覧になってくださいね!
19世紀絵入り新聞が伝えるヴィクトリア朝珍事件簿―猟奇事件から幽霊譚まで/原書房

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 そろそろ節分の時期に食べる豆を一気食いできなくなってきました。管理人です。

 皆さん昨日は節分の行事をしましたか?鰯を食べましたか?豆を撒きましたか?食べましたか?恵方まきを頬張りましたか?管理人は大豆を年の数だけ食べるという歳を重ねるごとにハードルの上がるイベントに参加しましたが、もうね、アラサーになって久しい今日この頃。つらい。一気に食べられない。口腔内の水分消える。お茶を飲みながらゆっくり頂きました。

 さて、本日の本はレナード・ダヴリース
『19世紀絵入り新聞が伝える ヴィクトリア朝珍事件簿
~猟奇事件から幽霊譚まで~』をご紹介。

 管理人が愛してやまないイギリスはヴィクトリア朝時代。おさらいしておきましょう1837年から1901年までのヴィクトリア女王がトップにいたころの時代です。シャーロック・ホームズや蒸気機関、産業革命、クリスタルパレスで万国博覧会。そんな時代のお話。

 当時はテレビもねぇ、ラジオもねぇ、インターネットなんてあるわけねぇ。そんな時代ですから、民衆の毎日の知的欲求を満たす楽しみは新聞くらいのものだったんですね。シャーロック・ホームズも何紙も新聞をとっており、その中から事件の種を見つける描写があります。
 新聞にはいろんな役割があります。ニューヨークタイムズのように事実を正確に伝えようとするものもあれば、東スポのように「もう面白けりゃなんでもいい」というタイプの新聞もあります。この本で取り上げられているのは後者のほう。大衆向けのポリス・ニューズという新聞です。当時、すでに写真の技術はありましたが、印刷技術がまだそこまで良くなかったので新聞ではイラストがまだ使われていたようです。

 本書は当時のイラストもそのままに、タイトルや記事を日本語に直した新聞記事集です。しかも普通の新聞じゃなくていわゆるタブロイド紙ですからね!残酷で猟奇的なものを望む読者の背徳的欲求をたっぷり満たしてくれる記事ばかりです。

 おおまかな内容によって記事が分類されていて、
第一章 猟奇事件
第二章 残酷な親たち
第三章 無残な事故
第四章 路地裏の噂話
第五章 悲惨な自殺者たち
第六章 動物奇譚
第七章 世界の死刑
第八章 幽霊譚
第九章 痴情のもつれ

に関連する記事がまとめられています。

 当時の線画イラストに、おどろおどろしいタイトル、やけにドラマチックに描写された事件、昔『ムー』や江戸川乱歩の作品を愛読した方なら絶対に嬉しい内容のはず。

 写真じゃなくてイラストだから白骨死体も犯行の瞬間も思いのままに描いてしまえるんですよ。そのぶん逆に想像力をかきたてられて、不謹慎ながらワクワクしてしまいます。もちろんタブロイド紙ですから捏造記事も多そうです。日本の記事を見てもよく分かるようにありもしない事件をでっち上げているようですし。もちろん面白ければなんでもありなんですけどね!幽霊も普通に記事になってるし!

 興味深かったのは貧しい人たちの死がとてもリアルに書かれていること。働いても働いても貧しい暮らししかできない階級の女性が自殺したり、高級な織物を織っていた男性が過労死したり、ヴィクトリア朝の闇の部分まで浮き彫りにされています。当時の暮らしの厳しさが新聞記事から生々しく伝わってきました。

 事実は小説よりも奇なり、という言葉がぴったりなこちらの本。ヴィクトリア朝にタイムスリップしたつもりになって、楽しんでみてください。

 
filiateId=29132385" alt0="BlogAffiliate" target="_blank" rel="nofollow">黒後家蜘蛛の会 2 (創元推理文庫 167-2)/東京創元社

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 皆さんこんばんは。
筋トレをはじめたらぶくぶく太ってきた管理人です。
原因は明白なんです。絶対飲んでるプロテインのせい。甘くて美味しいんですよ……だから嬉しくてそんなにトレーニングしてないのに飲んじゃうんですよ……<<ダメ人間の極み>>

 さて、本日の本はアシモフ『黒後家蜘蛛の会 2』です。

 自分が男だったらこんな会に是非とも入りたい!知識人たちの集まる女人禁制クラブで繰り広げられる推理合戦集第二段です。濃ゆいキャラクターのおじ様たちは健在。ちょっとおさらいしておきますと、
アヴァロン(特許弁護士)はしっかりものの常識人
トランブル(暗号専門家)とルービン(作家)は一回黙れwww
ドレイク(化学者)はニヒルなヘビースモーカー、
ゴンザロ(画家)はちょっとおバカないい人、鮮やかな色の服
ホルステッド(数学教師)はポエムに詳しいロマンチストという印象。
ヘンリー(給仕)は有能だがあくまで控えめな紳士。

以上の6名+1名がすばらしい推理と衒学的会話を繰り広げてくれます。

以下一言感想。

①追われてもいないのに

ゲスト:モーティマー・ステラー(作家)

なぜか出版されなかった原稿に関する秘密。
ゲストは作家なんですが、この人、アシモフ先生ご自身をモデルにされているのだとかwアシモフ先生はブラック・ウィドワーズが大好きな模様で、ちょいちょい自分のことをメンバーに語らせたりしていますw

②電光石火

ゲスト:ロバート・アルフォード・ブンセン(トランブルの上司)

スミスという情報屋がレストランで受け渡しをするのを張り込んでいたブンセン、しかし、衆人環視のまっただなかで彼はその仕事をやってのけた。いったいどうやって?
いわゆる見えない犯人(犯人が郵便配達韻だった系)なんだけど、このパターン前にもあったよね……。
ゴンザロはねぇww画家だからね……知識の面ではほかの人に劣る部分が少しあるかもしれないけれど、降りるの早すぎwwwwもうちょっと粘ろうぜwww

③鉄の宝石

ゲスト:ラティマー・リード(宝石商)

そんなに値打ちも無いものと思われる隕石を、あまりに高値で欲しがる男がいた。いったいなぜ?
注目しているものではなくその付属品に価値があったという良くあるお話なのだけど、ヘンリーの最後の言葉「お金のことだけでございます」がかっこいい。物の価値をお金で測るなんて滑稽ですよ言いたかったのかしら。

④三つの数字

ゲスト:ドクター・サミュエル・ブンチュ(物理学者)

ブンチュに残された金庫と数字のタイプされた紙。しかしその数字のとおりに鍵を動かしても金庫は一向に空かない。数字が間違っているはずは無いのに……いったいなぜ?
タイプライターを使ったネタなのですが、作家さんってやっぱりタイプライターやパソコンの前でうんうんうなってネタをひねり出そうとするのかなぁ。英語圏の人じゃないとぴんと来ないネタだな……。

⑤殺しの噂

ゲスト:グリゴーリ・デリュアシュキン(科学評論家)

 ロシアからやってきたこの科学評論家は、なんでもニューヨークの公園で青年達が殺しの相談をしていたのを耳にしたと憤っているらしい。まさか白昼堂堂殺しの相談なんてしないだろうと半信半疑で話を聞くメンバーだが……。
 珍しくルービンがちゃんとした小説の話をしていると思ったらこんなオチがあるのねw最初EQMMに出したけどかってもらえなかった原稿だそうな。確かにファンタジー好きな人とミステリ・SF好きな人ってちょっと畑が違う気がする。『指輪物語』が読みたくなりました。

⑥禁煙

ゲスト:ヒラリー・エヴァンズ(人事担当)

 アシモフ先生自体はものすごく嫌煙家だそうですが、ブラック・ウィドワーズのメンバーはほとんどが愛煙家!1970年代の喫煙率を考えたらきっとそんなものなんでしょうね。
 ゲストのエヴァンズは過去にタバコの吸い方がぎこちないという理由で一人の男の昇進を認めなかったことがあったが、それは彼の犯した唯一の過ちであった……。
当時はマッチでタバコをつけるのがまだ普通だったんですね。時代を感じさせます。

⑦時候の挨拶

ゲスト:レックスフォード・ブラウン(グリーティング・カード関連の仕事)

 ブラウンの元には仕事の関係もあって毎年膨大な数のグリーティング・カードが届く。その数が多すぎるために郵便配達員がわざわざ部屋までそれらを届けてくれるくらい。そんな中に、一通の見覚えの無いカードが届く。そしてそのカードが届いた日、何者かに家が家捜しされる事案が発生。そのカードのあて先も宛名もすべて自分なのに……。このカードはいったい誰に届けられるはずのものだったのか?
 一瞬の隙を突いたトリックでしたが、奥さんのせいで台無しになりましたww

⑧東は東

ゲスト:ラルフ・マードック(カトリックの長老)

 父親の死に際、手厚く最後を看取ったラルフは、賭け好きだった彼にひとつの賭けを申し込まれる。6つの都市の中から「唯一無二の東」の都市を当てることができたら、彼の遺産をすべてゆずるというのだ。
 アメリカの州に詳しくないとちょっとぴんと来ない気がします。実は管理人は海外の作品を読む機会が増えたので、アメリカの州をちょっとずつ覚えるようにしています。確かにノースとサウスで分かれている州って多いけど、イーストとウェストってなかなかないんだよね!

⑨地球が沈んで宵の明星が輝く

ゲスト:ジャン・セルヴェ(宇宙関連映画製作?)

 月面都市を舞台にした映画の天体に関するアドバイザーをしているというセルヴェ。しかし共同のパートナーだった男が、その月面都市の位置を決めたとたん急に反対するようになった。いったいなぜ。アメリカは様々な人種の人がいるためか、こういう異言語による思い違いを利用したトリックがよくありますね。

⑩十三日金曜日

ゲスト:ドクター・エヴァン・フレッチャー(経済学者)

 ゲストの経済学者は、過去にクーリッジ大統領暗殺を企てたと思われていた犯人ジョゼフ・ヘネシーの親戚筋であった。自分の家系の名誉のためにも、彼の無罪を証明したい。ジョゼフが犯人であるという確信が強まったのは、彼がしたためた犯行予告とも取れる手紙のためだった。その手紙が犯行と無関係なことさえ証明できればいいのだが……。
 今月は丁度13日の金曜日なんですよね!なんとタイムリーな時期に読むことができました。いつもあんまり目立たないホルステッドが賢すぎて引いたwww純粋に推理と思考だけで結論を導き出すまさに推理小説。

⑪省略なし

ゲスト:ジェイスン・レミンスター(系図学者)

 今回の会合では珍しく中華料理。あまりブラック・ウィドワーズではシェフの話題はないけれど、毎回とてもおいしそうな料理にデザートまで作る凄腕の料理人なんだろうなぁ。フォーチューンクッキーなんてどうやって焼いてるんだろうww
 ジェイスンは叔父の残した高価な切手の場所を探していた。ヒントは「省略なしの本」という彼の残した言葉だけ。しかし家中の本という本のページの間を調べてもそれらしいものは一向にでてこない。いったいどこに……?
 これも英語の言葉の勘違いによるものがトリックで日本人には「へー、そう」という感じで終わってしまった。

⑫終局的犯罪

ゲスト:ロナルド・メイスン(シャーロッキアン)

 管理人には嬉しいシャーロッキアン向けのお話。シャーロッキアンとはその名のとおり、シャーロック・ホームズを愛して愛して愛しすぎて「あいつは現実にいる。シャーロックの物語を書いたのはガチでワトソン」なんてことを半ば本気で信じている夢を忘れない大人たちのこと。そのファンクラブ的なものがベイカー・ストリート・イレギュラーズなのですが、参加資格にホームズ作品を研究して論文を出していること、というものがあるんですね。それにアシモフ先生がチャレンジした内容。
 論文のテーマは「モリアーティが出した『小惑星の力学』という論文はいったいなにを発見した論文だったのか」。すごいぜ……この考察はアシモフ先生にしかできないぜ……。当時の科学の有名な発見や、後のアインシュタイン理論に伝わるものだということ、さらに犯罪者だからという理由で葬られた研究結果などまさにすべてのつじつまの合うすばらしい結論。これ一本で小説かけるくらいすごいお話だと思います。


 ちょっとアシモフ先生が出会ったネタ出会ったネタ何でもかんでも書いてる気がしないでもない本作wネタなら何でも黒後家蜘蛛の会で使っちゃえ、供養しろみたいなねwおっちゃんたちがわいわいしてるの好きだから読むけどね!!!