謎の侍に名前が与えられていた件 | 笛吹きの備忘録

笛吹きの備忘録

おばあさんのモノワスレ対策ブログです。
アマチュア楽団でフルートを吹いています。
お芝居が大好き!
母の着物をリメイクして、着る(ここ大事♪)ことを老後のミッションと決めました。

『中村仲蔵ー歌舞伎王国下剋上異聞』を観てきました。


芝居小屋は池袋にある東京建物Brillia HALLです。外壁の宣伝用大型ビジョンで藤原竜也さんを堪能できますよ。
この姿、見たことあるような気がしませんか?
そう! 2年前、NHKで放送された『忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵出世階段』というドラマに登場した、黒羽二重に破れ傘の浪人…。

江戸時代の歌舞伎役者、中村仲蔵は『仮名手本忠臣蔵』の五段目、山崎街道の場に登場する斧定九郎役をもらったのですが、それは出てきたらすぐに鉄砲で打たれて死んでしまうツマラナイ役でした。
何とか目立ってやろう…と思案する仲蔵の前に現れたのが、藤原竜也さん演じる謎の破れ傘浪人なのです。
あのシーン、強烈でした。雨に濡れた着物の袂を絞る所作、今でもしっかり記憶に残っています。
主人公(中村仲蔵ね)を演じた中村勘九郎さんよりも、あの場面にしか登場しなかった藤原竜也さんのほうを、鮮明に覚えていますよ。

仲蔵は、この浪人の所作にヒントを得て、出たらすぐ死ぬ斧定九郎を、とても印象的に演じ、それが評判となり、四代目市川団十郎に認められ、異例の出世をとげます。
梨園の血縁ではない芝居好きの若者が、才覚だけで役者の出世階段を登っていくという、江戸時代のバックステージ物語なのです。

…で、そのテレビドラマが舞台化されたのです。脚本はテレビと同じく源孝志さんですが、江戸歌舞伎についての細かい描写は省き、芝居に取り憑かれた役者たちに視点を据えて、舞台芸術とは何か? をストレートに問いかける物語になっていました。

主人公の中村仲蔵を演じるのは、もちろん藤原竜也さんです。
そして、テレビドラマで彼が演じた謎の侍(NHKドラマではそういう役名でした)は市原隼人さんで、なんと!舞台では酒井新左衛門という役名が付いてましたよ。
しかも、なぜ、あの時、ボロボロの黒羽二重の着流しに、朱色の鞘の刀を差し、破れ傘を持っていたのかが、きちんと描かれているのです。

武家に生まれた新左衛門は、仲蔵とは真逆の人生をたどります。つまり、どんどん落ちぶれていくのね。
二人の人生を別々に描きながら、節目ごとに出会いと別れがあり、最後には、仲蔵の芝居に合わせて新左衛門が三味線を弾くことになるのです。
市原隼人さんの三味線がそこそこ上手かった!  役をもらって、去年の8月から特訓を受けたそうです。

「芸」という特殊な才能を持ってしまった人間は、不要不急と言われたって、芸の道を歩むしかないのよね。

そして、その「芸」に心を奪われる快感を知ってしまった人間は、劇場に足を運ぶしかないのですよ。文化予算は気になるけれど…。