「奇術と手品の習い方」に出て来る谷崎潤一郎の随筆「三つの場合」のこと | アジアのお坊さん 番外編

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先日、芥川の「尼提」という作品に関して谷崎潤一郎についても少し触れさせて頂いたが、谷崎と言えば、私が小学生の時に愛読した「奇術と手品の習い方」(石川雅章・著)という本の中に、その名前が出て来る。

 

著者の石川雅章氏が、戦前の奇術家・阿部徳蔵氏について、「著者(石川氏)と阿部さんのことは谷崎潤一郎氏の『三つの場合』という随筆にも登場する」みたいなことを書いておられて、子供の時から何となく気にはなっていたのだが、この度、初めて図書館で「三つの場合」が収録されている谷崎全集の該当巻を借りて読んでみた。

 

そうしたら何のことはない、石川氏が当時の新聞に阿部徳蔵氏との思い出話を寄稿したことが少し書いてあるだけで、後は谷崎と阿部氏の関係が延々と書いてあるばかりだった。

 

しかもその内容たるや、肺を患った阿部氏の下を訪なう谷崎がひたすら感染を恐れ、さらに感染対策を気遣わない阿部氏の人柄に悪態を突くだけの感想文で、読んでいて甚だ不快なことこの上ない。

 

さて、読了後に「三つの場合」のことを検索してみたら、奇術家の方のサイトで、阿部氏と谷崎の「三つの場合」について書かれている方がたくさんおられることに初めて気が付いた。そして皆さまが阿部氏の奇術家としての偉大さについて改めて記しておられたので、少しは胸をなでおろした次第だ。

 

ちなみに「奇術と手品の習い方」の中には、国木田独歩の「牛肉と馬鈴薯」中の「僕はアッと驚きたいのです」(『喫驚(びっくり)したいというのが僕の願(ねがい)なんです』というのが正確な文章らしい)という台詞が何度も引用されていて、こちらも子供の時からずっと気になっていたので、これもこの際、読むべきかどうかを、現在、思案中です。

 

 

 

 

                おしまい。

 

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