泡坂妻夫の随筆 2篇 | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

昔に古書店で購入した、奇術家にしてミステリ作家でもある泡坂妻夫師の奇術と探偵小説に関するエッセイ「トリック交響曲」と「ミステリーでも奇術でも」の2冊を、久々に続けて読んでみた。

 

どちらも奇術とミステリの両方の世界において優れた業績を残された師の面目躍如な珠玉の随筆なのだが、さて、何度も書かせて頂いていることながら、10代の頃に「11枚のとらんぷ」や亜愛一郎シリーズを読んだ私はいたく感動し、感極まって泡坂師に奇術と探偵小説が好きな旨を認めたファンレターを出したところ、師は丁寧なお返事とご自身の奇術作品集「四角な鞄」(ご本名の厚川昌男名義)を署名入りで送って下さった。

 

にも関わらず、「四角な鞄」はまだ手元にあるが、大事な大事なお返事の封書を、その後お坊さんになって国内外をあちこち転々とする内に、あろうことか私は失くしてしまったのだ。

 

泡坂妻夫ファンの皆さまに対しても申し訳ないと思い続けて今日に至るのだけれど、この頃ふと思い付いたことがある。私はお坊さんになってからタイとインドに修行に行かせて頂いたのだが、その直前くらいに、当時まだ付き合いのあった在家の友人に久々に再会したら、彼が泡坂妻夫の新作なども読んでいると聞いたがために、それは思いも掛けないことだから、良ければ日本を離れる私よりも、君がこれを持っておいてはくれないかなどと、半ばは自慢げにその手紙を手渡したのではなかったか?

 

今となっては茫とした記憶だし、後悔が募ってそんな都合の良い妄想が起こっただけかも知れないけれど、もしこれが本当の記憶だったのなら、どうか今どこで何をしているかも知れないその友人が、どこかにその手紙を寄贈してくれたらいいのだけれど。

 

 

                   おしまい。

 

 

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