シガレットスルーコインの思い出 | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

12月3日は「ワン、ツー、スリー」の掛け声にちなんだ「奇術の日」なのだが、何度も書かせて頂いてるように、私はお坊さんになるよりもずっと前の子供の頃に、奇術師になりたいと思っていた。

 

さて、そんなある時、今では誰でも知っているデビッド・カッパーフィールド氏を日本のテレビで初めて見て、彼が演じているシガレットスルーコイン(シグスルーコイン、シガースルーコイン)に衝撃を受けた。

 

火の着いたタバコがワンダラー(1ドル銀貨)を通り抜けるこの奇術は、後にマリック師によって日本でも有名になったのだが、当時、全く見たこともなかったこのトリックに大変驚いた上に、さらにその後、「テラー・トレイン」という映画にマジシャン役で出演したカッパーフィールド氏が、やっぱりこの奇術をわざわざ映画の中で演じていて、スクリーンいっぱいのクォーター(25セント銀貨)を見てもタネが分からず、溶けるようにタバコがコインを貫通する現象に目を見はったものだ。

 

さらに年を経て、私は高校卒業後、お坊さんになりたくて寺社や史跡を巡ったり、図書館で調べ物をしては試行錯誤の毎日だったが、そんな道中に立ち寄った百貨店の奇術売り場で、年老いたディーラーがこの奇術を演じているのに出くわした。

 

しばらくの奇術談義の後で、今あなたが持っているお金だけでこのトリックを売ってあげよう、いくら持っているか言いなさいと彼がしきりに勧めてくれるのだが、定価が高価なことを知っている私としては、どうしても手持ちの額が言い出せない。

 

奇術仲間というのはそういうものだから、大丈夫だからとまで言ってくれているというのに、若い私は世間に慣れておらず、断るにも応じるにも上手い言葉で返すことが出来ず、結局そのトリックを入手することはなかった。

 

それからさらにまた紆余曲折を経た挙句、今の師匠のお寺に飛び込んで得度させて頂き、晴れてお坊さんになることができてから早何十年、少しは心も落ち着いて、きちんと正しい言葉を口にできるように私は成れたのだろうかと、時々考えてみたりする。

 

 

 

               おしまい。       

 

 

「ホームページアジアのお坊さん本編」もご覧ください。