天台宗における「山川草木みなほとけ」というコピーに関する覚え書き | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

「衆生」とは本来「人間以外の生き物を含む全ての生類」を指す。

 

「縁なき衆生は度し難し」といった言葉のニュアンスから、「衆生」=「衆人」的な意味で、「衆生」が「娑婆世間の人類」のみを指すと思っている人がお坊さんの中にすらおられるが、それは俗流の解釈だ。

 

ただ、その解釈が余りに人口に膾炙したために、仏教辞書の「衆生」の項にまで「衆生とは特に衆人を指すことも多い」などといった説明が付け加えられていたりするが、あくまで「衆生」は本来「すべての生き物」を指す言葉だ。

 

また、「衆生」が人類のみを指し、人類以外のすべての生き物を含めた場合を「有情」と言うと思っている人もおられるようだが、「衆生」と「有情」は旧訳か新訳かの違いに過ぎず、いずれも梵語「sattva」(パーリ語「satta」)の漢訳であり、「生きとし生けるすべての存在」を指す同じ言葉だ。

 

ところで、「一切衆生悉有仏性」というのは、「大乗涅槃経」に出て来る言葉だ。天台六祖の湛然は「有情(意識を有する生き物)」だけでなく、草木や国土、瓦礫などの「非情」にも仏性があると考えたのだが、これを踏まえて日本では、「草木国土悉皆成仏」という言葉が生まれた。

 

謡曲などに頻出するこの言葉を「山川草木悉皆成仏」と改変したのは梅原猛ではないかと言われているが、この表現は耳触りが良いために、環境問題やエコロジーとの関連において語られることも多くなった。

 

さらにその言葉を基に、平成24年4月から令和5年3月まで掛けて行われた天台宗の「祖師先徳鑚仰大法会」において、天台宗内自身から、「山川草木みなほとけ」というキャッチコピーが生み出されたという訳だ。

 

 

                    おしまい。

 

※画像は大法会のポスターの一部です。

 

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