1990年代の半ばに林巧氏が「アジアおばけ街道」(扶桑社)、「アジアおばけ諸島」(同文書院)という2冊の本を著されたが、内容はともかくとして、アジアと旅と妖怪に関する三題噺本としては嚆矢だったという意味で、意義があったと思う。
続いて少し間が空くけれど、2009年に出版された「怪奇映画天国アジア」(四方田犬彦著・白水社)という本は、怪奇映画をテーマにしてはいるが、アジア全般の妖怪についても何かと参考になる内容だった。
さらに飛んで2018年発行の「タイの地獄寺」(椋橋彩香著・青弓社)という本は、これも地獄パノラマを境内に有するタイの寺院建築がテーマではあるけれど、タイの妖怪についてもよく分かる内容ではあった。
さらに台湾の妖怪に関しては、「現代台湾鬼譚 海を渡った学校の怪談」(伊藤 龍平・謝佳静共著・2012年・青弓社)、「[図説]台湾の妖怪伝説」(何敬堯著・甄易言訳・2022年・原書房)という2冊の良著がある。
「現代台湾鬼譚」は、台南の大学に勤める日本人民俗学者の伊藤龍平氏が、日本と台湾の学校の怪談を比較研究した謝佳静氏の修士論文を基に台湾の怪談事情を解説した研究書だ。
戦前の日本統治によって学校制度を含む社会の制度に日台共通の地盤があり、現代に至っては日本のサブカルチャーが好意的に台湾の若い層に受け入れられているため、新しいタイプの怪談や伝承が両国に共通しており、日本で1980年代の後半から学校の怪談の民俗学的な研究が盛んになった結果、1990年代から2000年代以降に漫画や映画で学校の怪談が定番になった現象が、現在の若い台湾人たちにも幅広く浸透している事情が記されている。
一方で、「[図説]台湾の妖怪伝説」は、台湾各地の怪談・伝説・妖怪譚などを地域ごとに豊富なカラー写真入りで採録・紹介している本なので、これも久々のアジアと旅と妖怪の三題噺本だと言えるのだけれど、それだけでなく、ちょうど上に述べた台湾の妖怪研究の最近の歴史が実を結んで若い研究者に引き継がれた成果でもあるという意味で、意義のある本だ。
ちなみに、この本にはタイの「メーナーク・プラカノン伝説」同様に人口に膾炙し、頻繁に映画化などもされている台湾の有名怪奇譚「林投姐伝説」の映画化事情も載っていて、とても興味深い。
おしまい。
※ホームページ「アジアのお坊さん」本編もご覧下さい。