残暑の宿題 | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

 しばらくは 滝に籠るや 夏の初(げのはじめ) 芭蕉

 

ずっと籠っていたお盆期間もようやく一息、いろんな事情も重なって、読みたい本が溜まっている。

 

中国での盂蘭盆会という行事は、4月15日から7月15日の3ヶ月の安居(あんご)期間の最終日に、安居を終えた僧侶たちに供養することによって徳を積み、亡くなった先祖に回向するというのが本来の趣旨だった。

 

漢語には雨安居(うあんご)、夏安居(げあんご)、夏行(げぎょう)など、安居を表わす言葉がたくさんある。
 
「奥の細道」に見える「しばらくは 滝に籠るや 夏の初」という芭蕉の句は、ちょうど4月の初め、安居入りの頃に滝の裏に詣でたから、自分もしばしの籠り行だと洒落てみたものだ。

 

夏休みの終わり一週間、自分が子供の時はさっさと宿題を済ました方だったか、ずっと溜め込んで最終週に慌てた方だったか、もはや遠い記憶で覚えがない。

 

ただ、夏休みはまだ一週間ある、まだもう少しは自由に本が読める、読めるだけもっと読もうと、毎年思ってはいたものだ。

 

今年のお盆もやっと過ぎて、もう少ししたら、また本を読み出そうと思いながら詠んだ拙い川柳一句、

 

 しばらくは 宿題残す 夏の終(げのおわり)

 

 

                  おしまい。

 

 

※「旅行人」2006年春号に掲載して頂いた「バックパッカーのためのアジアお坊さん入門」を大幅加筆し、2019年に全面的にリニューアルした「ホームページ アジアのお坊さん 本編」も是非ご覧ください。

 

 

※「安居」のこと

 

インドから東南アジアにかけてのテーラワーダ(上座部)仏教諸国で現在も行われている安居の期日は、大乗仏教とは違って、おおよそ太陽暦の7月から10月くらいだ。

安居とは抑もブッダの時代から続く雨期の定住の事で、この日から3ヶ月間、僧侶は一つの寺に住み、遍歴・外出・外泊を厳しく制限される。

タイではこの期間に一時出家者が増え、寺によっては特別な修行プログラムが組まれることもある。

安居入りのことをタイ語でカオ・パンサーと言うが、ちなみにパンサーというのは、安居や法臘(ほうろう)を表わすパーリ語「vasa」のタイ語訛りであり、あくまでもタイ語なので、他のテーラワーダ仏教国で「パンサー」と言っても通じない。

 

ブッダの在世時代に、既に安居の習慣を持っていたジャイナ教などの他宗教から、仏教は虫の多い雨期に遍歴修行して虫を踏み殺しているではないかという批判を受けて仏教でも安居をするようになったのだという由来話があるけれど、実際には雨期に外を出歩くのは大変だからと言う理由で、一ヶ所に定住するようになったのではなかろうかと私は思う。

 

熱帯の上座部仏教諸国に暮らしたことのある人ならば、酷暑期を過ぎて徐々に雨の降る日が増え出し、やがて本格的な雨期が到来すると共にお寺で安居入りの行事が始まることを、身を以って知っているに違いない。