先日、生まれ故郷の町を久々に訪ねた時に、自分は今までの経験を断ち切るべく出家したのだから、子供時代の思い出に執着すべきでないと思い、藤原兼輔の
人の親の 心は闇に あらねども 子を思ふ道に 惑ひぬるかな
という歌にちなんで、
親の家 出てこそ闇に 差す光
という拙い川柳を詠ませて頂いたのだが、兼輔と言えばもう1首、百人一首に採られて有名な
みかの原 わきてながるる いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむ
という歌がある。
私が出家を考え、お坊さんになる前に一人で試行錯誤しつつ寺社霊場を訪ね歩いての巡礼中、寺や石仏の多いこの泉川(木津川)一帯の風土は誠に好ましく、いつかこの辺りに庵を結んで修行したいと思ったものだ。
(※当尾の石仏群は今でこそハイキングコースのような観光地と思われがちだけれど、真摯な修行を求めて南都(奈良)から移り住んで来たお坊さんたちの隠遁地であった。)
ところで、「みかの原 わきて流るる いづみ川」の歌碑というものがあるそうなのだが、私は見たことがなかったので、この機会にと思って今回訪ねてみたところ、立ち寄る人も少ないのか、ずいぶん草むしていたのが下の画像だ。
この辺りは伊賀と大和を結ぶ街道にも当っているので近くの神社に「伊賀 伊勢道」と記した道標もあり、その神社の少し向こうでは泉川の渡し船が街道の南北を繋いでいたそうだ。
笠置寺、浄瑠璃寺、岩船寺、海住山寺、神童寺、蟹満寺といった付近の寺はどれも素晴らしく、ああ、その後、晴れてお坊さんになれたのは本当に有り難いことだなあと思って、またまた詠んだ拙い一句、
いづみ川 いつか見し寺 いつつ六つ
おしまい。
※「ホームページ アジアのお坊さん本編 」もご覧ください。