「お寺の収支報告書」の話 | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

ご自分のお寺の檀家制度を廃止し、葬祭業者を入れずにご自身で葬儀を行っている、埼玉の見性院というお寺がある。

見性院というお寺がある、などと偉そうに書いているが、よくメディアにも採り上げられているという、このご寺院のことを、私自身は全く知らなくて、人に教えられて、このお寺の住職さんが出演されていた番組を、ごく最近に見たばかりだ。

その番組を見て、その上でお寺のホームページを見させて頂いたのだが、それだけでは、いろんな変革を目指している他の日本のお寺と違う、見性院さんの特異性が今ひとつ分からなかった。

そこでご住職の書かれた、「お寺の収支報告書」(橋本英樹師 著・祥伝社新書)という著作を読ませて頂いたのだが、これが滅法、面白い。細かい点で気になるところや、100%賛同できない箇所もなくはないが、細部が気にならない程に、大筋が共感できる。

不遜な言い方ながら、日本のお坊さん、学者さん、知識人、文化人、物書きの方などが書かれた日本仏教改革案的な本を読んで、今までに私が感心した試しがないのだが、それは多分、私がもっと優れた改革をしようとしているからではなく、単純に偏屈だからなのだと思う。

その私がこの本を読んで感心した。つまらない仏教イベントを企画しては、さも抜群の改革であるかのように面白おかしく身内で自画自賛しているお坊さんたちの集まりでもなく、或いは仏教の本質を知らずに、的外れな日本仏教批判をこれ見よがしに繰り広げている在家の(お坊さんでない)方たちの言動でもなく、この著者は世襲制の檀家制度を基本とする現在の日本仏教の枠組みの中にいながら、真剣に仏法の本質に基づいた改革をしようとしている。

禅僧としての修行経歴も申し分なく、戒律に関しても、「日本仏教」の枠内で無理のない程度に、けれど厳格に矜持を保つよう、賛同する僧侶に求めておられる。

ご自身は家庭を持つ普通の日本のお坊さんでありながら、自坊の檀家制度を廃止し、「葬式は要らない」のではなく、正しい意味での「葬式仏教」を普及すべく、机上の理論で批判をするだけでなく、きちんとそれを行動に移しておられるところが大したものだ。

そう、私のような、仏教に理想を求めてお坊さんになっただけのスタスタ坊主が、遠吠えで日本仏教批判をしているのではなく、普通にお寺で生まれた日本のお坊さんが、着々とその改革を実行しておられるのが素晴らしい。

いつか人類全体が仏法を体得して、地球上に安寧が訪れるのだとしたら、その前に本当の意味での日本仏教の改革が行われることが必然の条件だが、重ねて不遜な言い方ながら、この方はきっと間違いなく、その改革の中心を担って行かれることになるだろうと予感する。


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