諸行無常の覚え書き | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

「諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽」(しょぎょうむじょう ぜしょうめっぽう しょうめつめっち じゃくめついらく)という諸行無常偈のパーリ語原文は、
 
anicca vata sankhara
upadavayadhammino
uppajjitva nirujihanti
tesam vupasamo sukoho
 
と言い、テーラワーダ仏教では、死者の回向によく使われる。「全てのものは移り変わる、これが生滅の教えであり、生滅すらも滅した所で、安らぎが得られるだろう」といった意味だ。
 
ちなみに、漢文の「諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽」という偈文(げもん)の後には、「如来証涅槃 永断於生死 若有至心聴 当得無量楽」という語が続くのだが、これは大乗の涅槃経の文に依っていて、こちらは「如来は生死を断ち切って悟りを得たのだから、もしこの教えを真剣に聞くならば、永遠の安らぎを得るだろう」といった意味。
 
ところで、パーリ語の「anicca vata sankhara…」の後には、
 
sabbe satta maranti ca
marimusu ca marissare
tathevaham marissami
natthi me ettha samsayo
 
という語が続くのだが、こちらの意味は「すべての生き物は死んでしまう、今までもそうして死んで来たし、これからも同じように死んで行くだろう、それが自分の身の上にも起きることを疑ってはならない」というような意味だ。
 
「テーラワーダ仏教の出家作法 タイサンガの受具足戒・比丘マニュアル」(Phra Takashi Mahapunnyo(落合隆)師 著・中山書房仏書林)の108頁~111頁にも「死念行法とその善果」108頁~111頁として、これらのパーリ偈文の訳文が載っている。
 
パーリ文がテーラワーダ仏教で死者の回向に日常よく使われるように、漢文の諸行無常偈は、例えば大乗仏教である天台宗でも「例時作法」(常行三昧)の中などで、日々、頻繁に唱えられている。
 
パーリ文、漢文ともに、死者の回向・追善供養に際して唱えられることが主なのだが、この偈文は誠に仏教の要を尽くしていると思うので、私は常日頃から、利他の読経や法要以外に、自利行に際しても、始終唱えることにさせて頂いている。
 
 
注*
 
「諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽」
anicca vata sankhara
upada vaya dhammino
uppajjitva nirujihanti
tesam vupasamo sukoho
 
上記の所謂「無常偈」は、岩波文庫の仏典シリーズ中、
 
「ブッダの真理のことば」161頁
「ブッダ 神々との対話」22頁
「ブッダ 悪魔との対話」122頁、213頁
「ブッダ 最後の旅」160頁
 
などにも採られています。