江戸川柳には、日本の神話伝説にちなんだ句がたくさんあるので、いくつか例を挙げてみる。
・日本神話の始祖神、イザナギノミコトとイザナミノミコトは夫婦の営みを知らなかったので、鶺鴒(せきれい)という鳥が睦まじくしているのを見て、男女の道を覚えたのだという。古事記に見えず、日本書紀にのみ見えるこの説話にちなんだ江戸川柳、
鶺鴒の 教えたままを 色々に
・スサノオノミコトの八岐大蛇(ヤマタノオロチ)退治神話は、古事記にも日本書紀にも出ている。まず酒で八岐大蛇を酔わせた上で退治した故事を詠んだ江戸川柳、
神代にも だます工面に 酒が要り
・酒で騙すと言えば、源頼光も神変鬼毒酒という酒を大江山の鬼である酒呑童子に飲ませて退治した、その故事を詠んだ江戸川柳、
良いお宅 などと頼光 ほめて飲み
・インド、中国、日本と三国の皇帝の妃に化けた九尾の狐、日本では玉藻の前という名で鳥羽院をたぶらかした。その後の鳥羽院の気持ちを詠んだ江戸川柳、
さてこそは 毛深かったと みことのり
・石川五右衛門が釜茹でにされたことも有名なら、「石川や 浜の真砂は…」というも辞世の一首も有名だ。それを踏まえた江戸川柳、
五右衛門は 生煮えの時 一首詠み
さて、タイやインドで暮らしていると、仏教やアジアに関する知的好奇心は満たされるので、それらに関する日本語の本を読みたいとはそんなに思わないが、日本に関する事柄について調べたいことが出来た時には、やはり日本の活字が恋しくなる。だから例えば、あの川柳、下の句は何だっただろうか? などと思った時に、日本からわざわざ本を送ってもらったりした。
インドのブッダガヤ日本寺図書館に、インドとは一見、無関係な、岩波文庫の「柳多留」が置いてあるのは、そうした訳だ。
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