明智小五郎が上海やインドを旅したのは、谷崎潤一郎の影響か? | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

10月21日は江戸川乱歩の誕生日なので、それにちなんで今日は明智小五郎の話題を。

 
貧乏書生風、もしくは高等遊民風の探偵趣味青年だった明智は、いくつかの事件を解決後、上海を旅した後に「一寸法師」事件に出会い、その後すぐに、今度は中国とインドを放浪して日本に帰り、「蜘蛛男」事件を解決する。
 
それから明智はめきめきと頭角を現して、多くの大事件を解決し、その合い間に旧満州や朝鮮半島にも出かけたので、これを評して、明智小五郎は戦時中は国家権力の手先となって、しばしば大陸方面へ出かけていたのだとする評論家やミステリ愛好家の方が多い。
 
けれど少なくとも、上海やインドを旅していた頃の明智は、異国のまだ見ぬ文物に探偵趣味を刺激されて、海外へと出かけていたのではないかということを、以前、このブログにも書かせて頂いた。
 
ところが最近に、芥川龍之介のアジア趣味に満ちた小説には、谷崎潤一郎へのオマージュ的作品が多いということを書いた時に、自分で年表をメモしてみて気が付いたことがある。
 
明智のデビュー作である「D坂の殺人事件」は大正14年の作品で、諸々の条件から、実際の事件は大正14年以前に起ったと思われるが、谷崎の異国趣味作品は、全てそれ以前に書かれている。
 
また、「D坂」の中で明智が言及している谷崎の「途上」は、異国趣味作品群が発表された直後の大正9年に発表されている。ざっと列記すると以下の通り。
 
 
T6 谷崎「玄奘三蔵」「ハッサン・カンの妖術」「人魚の嘆き」「魔術師」
 
T7 芥川「蜘蛛の糸」
   谷崎、中国旅行へ。
 
T8 谷崎「秦淮の夜」「西湖の月」「天鵞絨の夢」。T7年からT8年頃にかけて、谷崎のミステリ的名作多し。「人面疽」「金と銀」「白昼鬼語」「柳湯の事件」「呪はれた戯曲」など。
 
T9 谷崎ミステリの代表作「途上」
   芥川「南京の基督」「杜子春」「魔術」
 
T10 芥川「アグニの神」
    芥川、中国旅行。
 
T12 乱歩処女作「二銭銅貨」
 
T14 明智デビュー作「D坂の殺人事件」
 
この表を見ても分かる通り、例えば「幻影城」所収の「一般文壇と探偵小説」で、谷崎の探偵趣味的ミステリ作品群に親しんだ経歴を吐露している乱歩同様に、それらの作品を愛読していたであろう明智小五郎は、谷崎の異国趣味的作品を読んだ影響で、中国やインドを旅したのに違いない。
 
谷崎作品に登場する異国は、主に中国とインドだ。だから明智の初期の海外旅行先は、中国とインドだけだったのではないかと私は思う。
 
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