坊主川柳…夏安居にちなんで | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

 2013年は7月23日が上座部仏教の安居(あんご)入りだ。安居とはブッダの時代から続く雨期の定住の事で、この日から3ヶ月間、インドや東南アジアの上座部(テーラワーダ)仏教国では、僧侶は一つの寺に住んで遍歴せず、外出・外泊は厳しく制限される。一時出家者が増え、寺によっては特別な修行プログラムが組まれることもある。
 
 安居入りのことをタイではカオ・パンサーと言うが、パンサーというのは、安居や法臘(お坊さんになってからの年数・安居回数)を表わすパーリ語「vasa」のタイ語訛りだから、他の上座部仏教国で「パンサー」と言っても通じない。
 
 パーリ語で雨期の定住を「vassavasa」、サンスクリット語で「varsavasa」と言うが、「varsa」は雨のこと、「vasa」は安居のことだから、これの漢訳が雨期の定住=雨安居となる。現代ヒンディー語でも雨のことは、「ワルシャ」と言う。
 
 中国経由の大乗仏教でも陰暦の4月15日から7月15日までが安居とされ、雨安居(うあんご)、夏安居(げあんご)、夏行(げぎょう)など、安居を表わす漢語もたくさんある。日本でも禅宗では日常的に使う言葉だし、天台宗では回峰行者の葛川夏安居という行事に、名残を留めている。
 
 「奥の細道」に見える「しばらくは 滝に籠るや 夏の初(げのはじめ)」という芭蕉の句は、ちょうど旧暦の4月の初め、安居入りの頃に滝の裏に詣でたから、自分もしばしの籠り行だと洒落てみたものだ。
 
 ブッダの在世時代に、既に安居の習慣を持っていたジャイナ教などの他宗教から、仏教は虫の多い雨期に遍歴修行して虫を踏み殺しているではないかという批判を受けて仏教でも安居するようになったのだという由来話があるけれど、単純に、雨期に外を出歩くのは大変だから、一ヶ所に定住するようになったというのが、実際のところではなかろうかと思う。
 
 熱帯の上座部仏教諸国に暮らしたことのある人ならば、酷暑期を過ぎて徐々に雨の降る日が増え出し、やがて本格的な雨期が到来する頃と、仏教寺院の安居の時期が本当に重なっていることを、身を以って感じておられるに違いない。
 
 というわけで、カオ・パンサー(安居入り)にちなんで川柳一句、
 
     スコールの 滝に籠るや 夏の初め
 
                              おしまい。
 
 
※毎夏、安居入りの時期に書いているお話を今年も改稿し、川柳を付け加えてみました。

 
 
 
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