台湾の怪談と妖怪…「現代台湾鬼譚」 | アジアのお坊さん 番外編

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 「現代台湾鬼譚 海を渡った学校の怪談」(青弓社)という本は、台南の大学に勤める日本人民俗学者の伊藤龍平氏が、日本と台湾の学校の怪談を比較研究した謝佳静氏の修士論文を基に、台湾の怪談事情を解説した、珍しい書物だ。
 
 戦前の日本統治によって、学校制度を含む社会の制度に日台共通の地盤があった上に、現代に至っては日本のサブカルチャーが好意的に台湾の若い層に受け入れられているがために、新しいタイプの怪談や伝承までが、両国に共通しているという報告は、大変に興味深い。
 
 日本では1980年代の後半から、学校の怪談の民俗学的な研究が盛んになり、そうした研究をも包含する形で、1990年代から2000年代以降には、マンガや映画などでも学校の怪談は定番になった。そうした様々な事象が、現在の若い台湾人たちに、幅広く浸透しているのだそうだ。
 
 私の知っている台湾人の方たちにも、敬虔な仏教徒であると同時に、日本人的な感覚からすれば「迷信深い」とされるような、霊的なものの捉え方や、風水などに対する深い信仰を有している方々が多い。
 
 この本では、台湾の宗教事情に根ざした台湾人の精神世界に始まって、日本統治時代に日本語教育を受けた方々への日本式こっくりさんに関するインタビューや、若い世代への学校の怪談に関する聞き取り調査(この部分が、主に謝佳静氏の論文に基づいているらしい)、さらには「ゲゲゲの女房」が台湾でも放映されて評判になった話や、南投県の妖怪テーマパークといった、日本の方の台湾ブログなどでもよく見かける最新のネタまでが、詳しく解説されている。
 
 日本統治時代を知る年配者の方たちへのインタビューを読んで、私が台湾でお寺巡りをする時にお世話になる、苗栗県在住の彭雙松(ほうそうしょう)先生のことを思い出していたら、驚いたことに彭先生ご自身が、この本の中に登場して、インタビューに答えておられた。先生、その取材を受けられた話、お聞きしてないんですけれど? 
 
 今度お会いしたら、是非、このことをお尋ねしてみなければと思いつつ、楽しく本を読み終えた。
 
 
※京都の妖怪ストリート、一条通商店街を訪れる外国人も、圧倒的に台湾人が多いと聞いたので、一条通の百鬼夜行資料館の来館者ノートを調べに行ったら、2013年1月からのノートしかなかったが、確かに外国人の署名は台湾の方のものばかり。
月に1、2件のペースではあるものの、同商店街への来訪自体はもう少し多いだろうから、これも台湾人の妖怪嗜好を表す、一つのデータと言えるのではないでしょうか?
 
 
 
                                 合掌