インドの作務衣 | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

 タイでのテーラワーダ(上座部)仏教修行を終えた後、インドのブッダガヤにある印度山日本寺に赴任することになった。
 
 日本の全宗派協力の下に設立されたブッダガヤ日本寺を運営する財団法人、国際仏教興隆協会における事前の面談があって、この時、私は何を思ってだったか、さっぱり覚えていないのだが、現地の仕立て屋で法衣や袈裟が作れますかというようなことを、わざわざ尋ねた。
 
 そうしたら、インドに何十回も行っておられる現地通の先生方が、作れます、作れます、こちらが日本の着物を見本に渡したら、すぐにコピーして、日本の物同様に、何でも器用に仕立ててくれますよと仰った。
 
 さて、現地に赴任した時に、当時の駐在主任だった日本人上座部僧・三橋ヴィプラティッサ比丘から、折角あなたもテーラワーダ経験があるんですから、午後に食事をせず、戒律だけ同じく守って、テーラワーダと同じ黄衣で暮らしたらどうですかと誘いを受けた。
 
 だが、現時点で上座部僧としての戒を受けていない状態でテーラワーダの黄衣を纏うことは、戒律違反だと思うから、それはお断りします、その代わりに、現地の仕立て屋で黄色い布から日本式の作務衣を作って法要時以外は常に着用し、他国の仏教徒に恥じない僧院生活を送りますとお答えした。
 
 作務衣が出来上がって来たのを初めて見たヴィプラティッサ師が、これはいい! これはいい! と驚いた表情で、嬉しそうに仰って下さったのを、今でも覚えている。
 
 その後、後任のH師やY師が赴任して来られた時にも、こんなことが出来ますよとお伝えし、供養で頂いた黄衣を日本の袈裟に仕立て直したり、みんなで色々工夫したものだが、段々と、日本の法衣の形にないアジアっぽい衣を仕立てようと考え始め、正式な衣体の形式を離れるのは反則だと、お互いに戒め合ったこともある。
 
 初期の日本寺駐在僧の方々の古い写真を拝見すると、上半身は作務衣で下はテーラワーダの腰衣みたいな格好をしている方が大勢おられて、過酷な時代に礎を築いて下さった功績には重々敬意を表しつつ、テーラワーダ仏教での得度経験がある自分からすれば、それは重大な戒律違反だと思えたものだ。
 
 それはさて置き、ある時、日本式法衣の依頼を受けたことがない初めての仕立て屋さんに作務衣の製作を頼んだら、左の内側と右の外側で紐を括る上っ張り式の、作務衣の上着の四つ紐の仕組みが分からなかったらしく、どうしたらこうなるのかと言うような、複雑な、絶対着られないような紐の付け方になっていたことがあるのだが、その時以外は、おおむね何でも上手に日本の法衣のコピーを作ってくれたものだ。
 
 日本から持って行った頭陀袋をファスナー付きに改造したり、茶色やねずみ色の布で日本でも着れる色の作務衣を作ったり、坐禅用の坐布をオリジナルで作ってみたり、いろいろ試してみたものだが、後日、バンコクのパフラット(インド人街)で同じように作務衣を作ろうとしたら、費用が割に合わずに諦めたことがあり、やっぱりインドだから融通が利いたのだと痛感した。
 
 そんなこんなで、今も私はインドで作った作務衣を身に着けている。ゴムがすぐ緩くなったり、多少の難はなくもないが、それらを差し引いても随分長持ちしているなあと思った瞬間に、心に浮かんだあれこれを書き連ねてみました。
 
                             おしまい。
 
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