お正月にちなんでカルタの話だ。カルタというのがポルトガル語であって、英語のカードという言葉やドイツ語のカルテという言葉などと同じ語源だということは割りに知られているが、現在の日本でカルタと言えば、百人一首やいろはカルタのような、読み合せカルタを指すことが多い。
百人一首と言えば歌合せも有名ながら、何と言っても魅力的なのが坊主めくりだ。勝負事やゲームの苦手な私が、子どもの頃から唯一負けたことのないのがこのゲームなのだが、そのことがお坊さんになるであろう私の将来を暗示していたのかどうかは、知る由もない。
とりあえず百人一首には、「愚管抄」でもお馴染みの我らが天台座主慈円を始め、喜撰法師に能因、西行といった綺羅星の如きお坊さんたちが、たくさん選ばれている。
一方で、やはり日本的なプレイング・カードである花札のことは、今ではカルタと呼ばないが、伝統的な貝合わせと西洋のカードが習合して出来た読み合せカルタと違い、花札は西洋のトランプやタロットと起源を同じくする、西洋カード直系のカードゲームだ。
花札の8月のススキの札を坊主と呼ぶが、上方落語の「らくだ」には、らくだと呼ばれる荒くれ男の遺体の下から坊主のカス札が出て来た時に、主人公が「枕経がわりに棺おけに放りこんどいたれ」という、素敵なセリフを口にするシーンがある。
ともあれ、百人一首と花札という日本を代表する二つのカードゲームの両方が、「坊主」という言葉と縁があるのが面白い。
※日本語でプレイング・カードを指す「トランプ」という言葉や、「タロット」という日本語の発音に問題があることについてなどは、「トランプものがたり」(松田道弘著・岩波新書・絶版)をご覧ください。