西原理恵子著「毎日かあさん 7 ぐるぐるマニ車編」…鴨ちゃんはタイで出家したのかミャンマーで出家 | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

 漫画家の西原理恵子氏が、元の夫である鴨ちゃんこと、故・鴨志田穣氏の影響でアジアへの目を開かれたことは衆目の一致するところで、もしも鴨ちゃんと出会っていなくても海外での取材を行い、その辛辣な批判精神を発揮していたであろう西原氏の漫画は、今や「毎日かあさん」を軸として、鴨ちゃんとのアジアでの体験、鴨ちゃん亡き後に我が子と共に出かけたアジアの旅での体験を含めて、西原氏の他の漫画や作品と世界観を共有する、壮大なサーガ(大河小説)を形成しつつある。

 「鳥頭紀行 くりくり編」において、鴨ちゃんと共にミャンマーで出家した体験が、西原氏にとっては単なるネタに留まらない大きな糧となっていることは、作品の端々から読み取れるのだが、一方で鴨ちゃんが西原氏と初めて出会った頃に、既にアジアでの出家体験があったと紹介されている、その詳細が分からない。

 それぞれ同じ年に出版された「鳥頭紀行 ジャングル編」、「鳥頭紀行 ぜんぶ」、「できるかな 1」の3作には、新キャラクターとしての鴨ちゃんが紹介されている。単行本の出版順序と、収録されている漫画の初出順序は必ずしも一致していないのだがl、注意深く読むと、初登場の時の鴨ちゃんはお坊さん姿ではなく普通の服を着ており、その後、追い追いにテラワーダ式の黄色い衣を着けた姿で描かれるようになったことが分かる。

 漫画からは鴨ちゃんがタイで出家したのかミャンマーで出家したのか判然としないのだが、西原氏の近著「西原理恵子の「あなたがいたから」―運命の人 鴨志田穣 NHK「こころの遺伝子」ベストセレクション」には、鴨ちゃんはミャンマーの入国ビザを取るために出家し、ミャンマーの瞑想寺にいたが、途中で逃げ出したのだと書かれている。

 西原氏のアジア漫画は面白い。例えば、タイが出て来る西原氏の漫画と、新人漫画家の真船きょうこ氏が描いた「仏像に恋して」の中の、タイのアユタヤ遺跡を訪ねる件りを読み比べてみれば、その力量の差は明らかだ。

 新人を西原理恵子と比べるなんて酷だとか、「仏像に恋して」は初々しいからいいんだとか、どちらが良い漫画だと思うかは、お前の好みの問題だろうと仰る方があるかも知れない。

 けれど西原氏が新人の頃に描いた漫画は、凡百のベテランが描く漫画より、ずっと面白かった。それは氏の考え方や物の見方、それを漫画にするための表現方法が、終始一貫して面白いからであって、新人の作品であれ、ベテランの作品であれ、面白い漫画と面白くない漫画を分け隔てているものは、ただ才能が在るか無いかの一点に尽きると思う。

 ともあれ、西原氏がネパールを訪ねた体験を描いた「毎日かあさん」最新刊の「ぐるぐるマニ車編」というタイトルには、西原氏の漫画家としての経歴や、アジアの旅の数々や、人生の悲喜こもごもをないまぜに、西原氏の万感の思いが込められているのに違いない。