インドのブッダガヤにある日本寺に、オレンジ色の衣を着た、西洋人の上座部(テラワーダ)僧が2人やって来た。インドの四大仏跡を歩いて巡っているそうで、途中の村々では、名もないインド人たちが手厚くもてなしてお供養してくれたという。
当時の駐在主任、日本人上座部僧の三橋ヴィプラティッサ比丘の歓待を受けた2人は、何日かの間、日本寺の坐禅にも参加し、ようやく旅立つこととなった。
一緒に見送りましょうと三橋師に誘われた私の中に、テラワーダ修行経験があってアジア仏教の事情もよく分かっている事を、ここで三橋師にも西洋人にもアピールしないといけないというやましい心、我執がなかったとは言わない。
道中の邪魔にならない程度の、ちょっとしたお供養の品を彼らの鉢の中に入れ、地面に額をつけて、テラワーダ式の三礼をする、その私の坊主頭を、ぺちぺちと叩く者がある。誰だ、この大事な時に、と思って薄目を開けると、インドのやせ細ったノラ犬が、私の頭を叩いている。
なるほど、さすがは聖地ブッダガヤの犬だ、一見、礼を尽くしているように見えて、邪まな思いの充満した私の我を打ち砕くために、この、世にも間抜けな光景を現出してくれたのに違いない…のかも知れないが、仮にそうだとしても、せっかくの場面で、何すんねん、犬。